8.紅葉の月
ぼくがこの家に来てそろそろ1年経つ。また、実りの月が近づいていた。
ひさしぶりににいさんがおねえさんと一緒に来た。フェリスも一緒だ。
ぼくはここしばらくずっと考えてたことを、にいさんに伝えた。
「にいさん、ぼく、あの山の家に行きたい」
にいさんはちょっと驚いて、それからにっこりと笑って、そうかと言った。とうさんとかあさんも頷いていた。
にいさんはおねえさんに話をしてくれた。ぼくひとりならおねえさんが転移魔法で連れて行ってくれるのだそうだ。ただ、おねえさんがこっちに居られるのは明後日までなので、その間ならぼくが行きたい日に合わせてくれるということだった。
それ以降だといつになるかは約束できないらしい。
ぼくは、明日連れて行ってもらうことにした。
翌日、おねえさんが、準備できたらいつでも出発するからねと声をかけてくれた。ぼくは頷いて、いつか山の家に行ったら魔族のかあさんを埋めた場所に供えようと思っていたものを用意して、おねえさんに準備ができたと伝えた。
おねえさんにしっかり掴まって、3つ数えたらもうあの山の家の前だった。
1年の間誰も住まずに放置されていた家はだいぶ荒れていて、雑草や蔦ですごいことになっていた。おねえさんが、ここから持ち出したいものをまとめましょうと家に入ろうとする前に、ぼくは魔族のかあさんの場所に行きたいから少し待って欲しいと頼んだ。おねえさんは頷いて、ぼくが家の裏手に回ると黙ってついてきた。
魔族のかあさんを埋めたところに、ぼくは目印になる石を置いて花を植えていた。その花はこぼれ種から増えて今もたくさん咲いていた。このまま何年かしたら、かあさんの場所のあたりは花でいっぱいになるのかもしれない。
ぼくは石の前に持ってきたもの……かあさんへの手紙を埋めて、今はあっちのかあさんやとうさんに良くして貰っているから、心配はないよと言った。おねえさんがぼくの横に立って、デルトはすごくいい子だから大丈夫、心配しないでくださいとかあさんの場所に向かって話していた。
それから、家に入ってあの日からずっと置いたままで放置されていた荷物を整理した。僕が持って行きたいものは全部持って行くことにして構わないからねとおねえさんが言った。一度に持っていくのが無理なら、何往復でもするからと。
ぼくが持って行きたいものはほんの少しだけで、魔族のかあさんが残してくれたいくつかの本と、かあさんの指輪と、あと、かあさんが作ってくれたいくつかのものだけだ。
おねえさんは、もしぼくのとうさんがここに来たら連絡を取れるようにしておくからと、玄関先に魔法で印をつけていた。
それから、この家がしばらくの間だけ朽ちたりしないようにと、保存の魔法もかけてくれた。
いつかまた、ぼくがここに住みたいと思うかもしれないしねと言って、おねえさんは笑った。
最後におねえさんがしっかりと鍵をかけてから、ぼくたちは帰った。
夕方、ただいまと家に入ると、とうさんがおかえりと言った。かあさんが、もう少ししたらご飯だから、先にお風呂を済ませなさいと言った。ねえさんはぼくの上着が埃だらけなのを見て、ここで脱いでいくのよと言い、にいさんは黙ってぼくの頭を撫でた。
にいさんはたまにしか会わないせいか、いつまでもぼくを子供扱いなんだなと思った。
その日の夕飯は、ぼくの好きな肉の煮込みだった。ぼくはおかわりをして、お腹いっぱいになるまでしっかり食べた。