7.炎天の月
太陽が空の高い場所で輝き、毎日汗だくになる日が続いている。
ぼくは12歳になった。
夏の初めににいさんが帰ってきた後、一緒に連れてきたおねえさんと結婚したという知らせが来たのはすぐだった。とうさんが「ほら見ろ」とかあさんに言っていた。
かあさんは大騒ぎで、うちに来る村の人たちに息子に嫁ができたと自慢しながら、ねえさんと2人でせっせと縫物をしていた。
午後、川に魚獲りの罠を仕掛けに行こうと、カルルが誘いに来た。
罠を仕掛けて一晩置くと魚が掛かるんだという。ちょっと山に近い、上流のほうまで仕掛けに行くのだそうだ。かあさんに言うと気を付けて行っておいでと送り出された。ちゃんと指輪を付けていくんだよとも言われた。
川に沿って歩きながら、カルルに「泳げるか?」と聞かれて、泳いだことがないと答えると、「今まで何して遊んでたんだよ」と驚かれた。なんだか恥ずかしくなって、近くに泳げる川とか無かったからと言い訳すると、今度は泳ぎの練習をすることになった。
潜れるようになれば、池の魚を銛で突くこともできるんだそうだ。
罠を仕掛ける場所は、川の流れが緩くなって深くなってる場所だった。落ちたら背が立たないから気を付けろよ、とカルルに注意された。
川岸の木を使って罠を結びつけた綱を張っていく。うまくいくと、1つの罠に10匹くらい魚がかかるんだという。たくさん掛ったら塩を振って干し魚にすると長持ちするんだそうだ。
明日どれだけかかっているかなと話しながら仕掛けていたら、いつのまにか空が暗くなってきていた。山のほうの雲が光り、遠くでごろごろと空が鳴る音も聞こえてくる。
雷が来るぞ! とカルルと大急ぎで帰りの支度をしたけれど、雨足のほうが速かった。
カルルが、川の側は危ないから少し上のほうに行こうと、ぼくの手を引いて森の中へと入った。雨がだんだんひどくなってきて、空も真っ暗だ。足元もあまり見えなくなってしまったので、雨宿りをすることにした。雨宿りといっても洞窟みたいな場所はないから、木の枝が厚く茂ってなるべく雨の当たらない場所にいるだけなんだけど。
雨はなかなか止まず、ぼくたちは雨宿りの場所から動けなかった。
このままだと日が暮れてしまう。灯りの用意はしてこなかったから、カルルと2人で困ったなあと言っていたら、「おーい」という声がして灯りが見えた。とうさんの声だった。
なかなか雨が止まず、空も暗くなってしまったので、かあさんが心配して、帰ってきたとうさんにねえさんと一緒に迎えに出てもらったんだそうだ。ねえさんが魔法でぼくの居場所を調べながらここまで来てくれたんだという。カルルは、魔法ってすげえなと目を丸くしてた。
帰りは簡単で、ねえさんがうちまで転移魔法で連れて帰ってくれた。カルルはいったんうちで身体を拭いて温まってから、とうさんが送っていった。
翌日、仕掛けた罠を見に行ったら、昨日の雨で増えた水に流されてしまっていて、魚は全然獲れなかった。
ぼくとカルルは2人で、次こそはたくさん獲るぞと再挑戦を誓った。