6.薫風の月
木々の緑がどんどん濃くなる季節になった。
今日は朝からかあさんがそわそわしていて、とうさんにもっと落ち着けと言われていた。
少し前ににいさんから、部下の魔法使いさんを連れてうちに帰ってくるという手紙が来ていたのだ。知り合いの魔法使いに転移魔法で送ってもらうとも書いてあった。
それで、今日はかあさんがずっと、魔法の気配はまだかとそわそわしっ放しなのだ。とうさんは、そんなかあさんにちょっと呆れてる。
お昼にはまだ少し早すぎるくらいの時間に、外で魔法の気配がして、かあさんが玄関へと走っていった。すぐにかあさんが大声で呼ぶ声が聞こえて、何かあったのかととうさんが行くと、にいさんがお嫁さんと子供を連れてきたんだと聞こえてきた。ぼくがねえさんと顔を見合わせて玄関を覗きに行ったら、魔法使いのローブを着た女の人が、小さな子を抱いてにいさんの横に立っていた。
結論から言うと、にいさんのお嫁さんと子供というのはかあさんの早とちりだった。魔法使いのおねえさんはにいさんのお仕事の部下の人で、かあさんの持ってる本を見せてもらいに来ただけなんだそうだ。
かあさんはがっかりしながら、にいさんにちくちくと早くお嫁さんをもらえと言っていた。とうさんはにいさんを見ながら、何かを言いたそうに笑ってた。
おねえさんは、北の山ににいさんと一緒に来ていた魔法使いなのだそうだ。あの時はいろんなことがよくわかってなかったから、ぼくに酷いことをしてしまってごめんなさいと頭を下げてくれたのだけど、ぼくはここに来れて良かったから、気にしないでほしいと首を振った。
おねえさんはぼくの頭を撫でて、ありがとう、君はいい子だねと微笑んだ。
ぼくは、大人同士で話をしてる間、おねえさんの子供のフェリスと遊んでいてくれと言われて、部屋で本を読んであげることにした。
フェリスはかあさんみたいに半分だけ魔族の女の子で、本当のおかあさんが亡くなってしまったから、おねえさんに引き取られたんだそうだ。
なんの心配もなく話ができる友達が欲しいと思ってうちに連れて来たのだと、だから、少し歳は離れてるけど仲良くしてほしいと言われた。
フェリスはまだ小さいのに、すごくおしゃべりだった。本を読みながら、王都でにいさんやおねえさんがどうしたとか、一緒に住んでるゆーさんという人がどうしたとか、いろんなことをおしゃべりした。
かあさんやねえさんもおしゃべりだし、村でよく遊ぶ女の子やおばさんたちもよくしゃべるから、女の人がみんなおしゃべりだっていうのは本当だと思う。
日が暮れるころに、にいさんとおねえさんは帰っていった。かあさんは、次はぜひ泊まりで来てくれとおねえさんに言っていた。フェリスはすっかり寝てしまって、にいさんにしっかり抱っこされていた。
ねえさんがにいさんたちを転移魔法で王都へ送っていったあと、かあさんがああいう子が嫁に来てくれるといいんだがなと言うと、とうさんが意外に来るかもしれないぞ、と笑っていた。
ぼくも、フェリスが従妹になったら楽しいかもしれないなと思った。