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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
1.ぼくの世界が変わった日
5/69

5.若草の月

 森や山に緑が戻り始めたころ、熱病が村で流行り出した。


 毎年春先になると流行るんだと、かあさんとねえさんは忙しそうにせっせと薬を作っている。そこへ村のいろんな人たちがひっきりなしに薬を買いに来るのだ。


 ぼくも熱を出して、昨日からずっとベッドで寝たきりだ。

 なかなか熱が下がらなくて、身体の節々がぎしぎしいってるみたいに痛い。ベッドでうんうん唸ってると、ねえさんが部屋にきて氷嚢を交換してくれる。冷たくてとても気持ちいい。

 ねえさんは、魔法で作った氷を、薬を買いに来た人たちにも分けているようだった。

 部屋で寝ながら、微かに聞こえてくるかあさんやねえさんと村の人たちのやりとりに耳を傾ける。


 熱でぼうっとなっていると、時間はいつの間にか過ぎていくように感じる。

 ぼうっとしたままとりとめもないことを、なぜか魔族のかあさんのことを思い出していた。

 熱を出すたび、かあさんもこうやって薬を作って、ぼくの頭を冷やしてくれたっけ。かあさんが病気で倒れたとき、ぼくもかあさんみたいに薬を作って看病できればよかったのに。ぼくがもっと大きくて、いろんなことができたらよかったのに。

 もっとしっかり、かあさんからいろんなことを教わればよかった。

 かあさんのことを思い出すと、いつもああできればよかったのにと、後悔ばかりになってしまう。


 午後になって、とうさんが帰って来た。


 とうさんはすぐにぼくの様子を見に部屋へ来た。

 町のほうでも熱病が流行りだしているんだと話しながら、ぼくの額に手を当てて熱を確かめた。今年の流行はいつもよりちょっとひどいらしい。

 それから、ぼくにご飯を食べさせてくれた。あまり食欲がなくても食べられるようにと、よく煮込んだスープだ。食べ終わるとすぐに薬も持ってきてくれた。

 薬はとても苦くて変な味なので、あまり飲みたくない。けれど、飲まないと治らないんだといつも無理やり飲まされる。早く熱が下がってほしい。そしたら、もう薬はいらなくなるのに。


 薬を飲んで少ししたら、瞼が重くなってうとうとと眠った。

 眠りながら、今度はなぜか魔族のとうさんのことを考えていた。とうさんは今どこにいるんだろう。まだ、ぼくが小さい頃にふらりとどこかへ行ってしまったんだとかあさんは言っていたけれど、もしかしたら、あの山の家に、とうさんが訪ねてきたりしていないだろうか。


 うとうとしながら、ぼくは考えていたことを口に出してたみたいだった。

 とうさんが静かにぼくの胸のあたりをぽんぽんと叩きながら、どうしても会いたいなら探そうかと言った。魔族のとうさんのことは顔も何も覚えていないし、会いたいのかよくわからないと答えた。とうさんは、そうか、とだけ言った。


 それからまたしばらく、ぼくはうとうとと眠っていたみたいだった。

 とうさんはずっと横にいて、ぼくの読みかけだった魔法剣士の本をぱらぱらと眺めていた。


 ぼくが目を覚ましたことに気づいて、とうさんは「ずいぶん汗をかいたな、少し飲んで、寝巻も替えようか」と、ぼくに果汁を搾った水を飲ませてくれた。

 身体を拭いて、新しい寝巻に着替えさせて、シーツも交換してくれた。


 それから、とうさんはぼくを寝かせると、熱はどうかなとまた額に手を当てた。とても大きい手だと思った。


挿絵(By みてみん)


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