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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
4.ぼくと東の魔法使い

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3.使い魔の召喚

 その日も、シーロン師匠は何がおもしろいのか知らないけれど、長椅子でへらへらと笑いながらぼくが家事を片付けるのを眺めていた。ぼくが来るまで師匠は自分で家事をしていたというけれど、今はほんとうに家事ができるのかと疑問に思うほど何もしない。

 長椅子にだらしなく寝そべりながら、師匠はふと何かを思いついたのか、「おい、デルト」と急にぼくを呼んだ。

「なんですか?」

「そういやお前さ、使い魔呼んでみないか?」

「……使い魔ってなんですか?」

「まさか、そんなことも知らんのか?」

「使い魔なんて見たことも聞いたこともないですけど」

 いったい西の魔法使いは何やってんだ、と、シーロン師匠はぶつくさ言いながら、「ま、いい。呼んでみりゃわかるから。デルト、お前、つべこべ言わず使い魔呼んどけ」とぼくをびしっと指さした。

「意味がわからないんですけど。使い魔を呼ぶって、いったい何をするんですか」

「ひとことで言えば、簡単な召喚魔法だ」

「は?」

「召喚魔法だよ。まさか知らないとか言わないだろうな」

「……まさか、魔神が使い魔なんですか?」

「はあ? 何言ってんだ。そんな危ないもん呼ぶかよ。だいたい、魔神召喚とか何を生贄にするつもりだ」

「だって、召喚魔法って、魔神を呼ぶための魔法じゃないですか」

「……前から気になってたんだが、西の魔法体系ってどうなってんだ?」

 “魔神召喚”という単語で恐ろしく不機嫌な表情になったシーロン師匠の話では、魔神は呼べれば確かに強力だけど、呼ぶにはなんやかやと生贄が必要だし、呼んでも魔力消費の関係ですぐいなくなるしで、結果的にひとつも得しない恐ろしくコストパフォーマンスが悪い召喚らしい。それに比べたら使い魔の召喚はもっと気楽で、魔神などではない別な生き物を合意の上で呼び出して、魔法使いの一生の相棒として契約を交わすという穏やかなものなのだという。

「合意の上で呼び出すって、どういうことですか」

「簡単に言えば、自分はこういうヤツだけど誰か使い魔になってくれませんかと呼びかけて、興味を持ってくれた生き物が食いついてくるのを待つってことだ」

「……釣りかなんかですか」

「ある意味それに近いんじゃないか? 餌が良くなきゃいいものが釣れないのも似てるしな。お前なら結構いい餌になるから、釣果は期待できるぞ」

「……餌って、もしかしてぼく自身なんですか?」

「おう」

 はあ、と気の抜けた返事をすると、師匠は「ま、がんばれよ」とにやりと笑った。


 使い魔の召喚には、それなりの準備をしなければならない。翌日、今日は剣の稽古はないというのにやってきたシェーラが、さっそくシーロン師匠から聞いたのか、「使い魔を召喚するんですって!?」と纏わり付くのを無視して、必要なものを揃えることに集中した。あとは、ぼく自分が使い魔に望むものをイメージすることも重要だというので、それも考えてみる。どんな生き物が来るのだろうかと考えている横で、シェーラが「私、かわいい生き物がいいわ。猫とか、ウサギとか。鳥もいいわね」などと、使い魔をペットか何かと勘違いしているようなことを言い出して、少し呆れた。


 ──使い魔に望むものと言われても、正直よくわからない。使い魔は、魔法使いが死ぬまで共にいて、主の魔力が尽きない限り死ぬこともなく魔法使いを助け、時には魔法使いの護衛をすることもあるという。

 本当に一生を共にするというなら、ちょっとやそっとじゃびくともしない強い生き物がいい。ぼくが死ぬまで絶対に倒れないような、強い生き物。絶対にぼくを置いていかない、ぼくから離れることがない生き物。


 どんな生き物が来るのかはわからないけれど、数日かけて召喚に必要なものを揃え、召喚用の魔法陣も決定し、シーロン師匠の指導のもとようやく儀式に取り掛かることになった。

 召喚を行うなら外がいいからと、魔法陣は屋敷の庭にある屋根だけの東屋の床に描き、早朝、夜が明けきらないころから召喚陣の中に座って香を焚きながら魔法を唱え、ひたすら集中する。呼ばれた生き物がやってくるまで、長ければ丸1日以上、体力と魔力の続く限りずっとこのままなのだ。いつも通りに遊びに来たシェーラも、こればかりは邪魔をせずにおとなしく離れた場所から見ているだけだった。


 飲まず食わずのまま、じっと座りっぱなしで集中しっぱなしのまま、とうとう日が暮れるころにようやく何かがやって来た気配がした。ほんとうにようやくだ。

 庭の片隅の植え込みががさりと揺れて、そこそこ大きな生き物が、日暮れで深くなった影に紛れてぼくのほうへと近づいて来る。これが使い魔候補の生き物だろうか。

「よう」

 暗がりではっきりとはわからなかったけれど、大きな犬くらいの大きさのその生き物は、驚いたことに言葉が話せるようだった。

「お前の魔力、結構気に入ったぞ。俺の主にしてやってもいい」

 どことなく笑いを含んでいて、偉そうで生意気な口調で、でもなんとなく憎めない……そんな声でしゃべるそいつは……。

「──竜?」

「おうさ。お前、俺と契約するか? 契約するなら名前をくれよ」

 来ていたのは、わずかに空に残った光を反射して虹色に輝く銀のうろこの、細身で小型の竜だった。背中には小振りの翼まである。こんな小さな翼で飛べるんだろうか。

 首を伸ばしてじっとぼくを覗き込む彼を見つめ、ぼくは「レヒター(右手)」と呟いた。

「よし、俺はレヒターだな。お前の名前はなんてんだ?」

「……デルト。ヴェンデルベルトだ」

「契約成立だ。よろしくな、相棒(デルト)

 (レヒター)は、尖った牙の生え揃った口を笑うようににいっと歪めると、呆然と座ったままのぼくの手に自分の前足を乗せた。


「まさか妖精竜が来るとはな」

 シーロン師匠がめったにしない驚いた顔になっていた。ぼくはさすがに疲れて、もうふらふらだ。師匠は、ぼくのその様子に「今日の夕食の仕度は代わってやるよ」と恩着せがましく笑った。

 シェーラも、すっかり日が落ちてアドルファスが迎えに来たというのに、まだ帰らずに「触ってもいいかしら? とってもきれいな色ね」とレヒターにちょろちょろと纏わり付いている。


 レヒターは、妖精竜という、もともと妖精郷に住んでいた小型の竜族らしい。好奇心がとても旺盛で、この東大陸で見かける妖精竜のほとんど全部が、妖精たちと一緒に妖精郷を出てきて住み着いた竜なのだとか。本人曰く「小さいとか言うな。あと1000年くらい育てば、今の倍くらいまではでかくなるんだぞ」らしい。普通、竜というと小さいものでもちょっとした小屋並の大きさはあるものだと聞いてるんだけれど。

 書物での知識でしかないけれど、知性を持つ竜族には簡単な魔法や姿変えが使えるものもいて、そういう竜族は、意外にも、町のそばや下手すると町中にひっそり住んでることがあるという。レヒターも、長いことオスロスの近辺や、たまに町中でも暮らしていたのだそうだ。


 レヒターは、ぼくと契約を結ぶなり「魔族の子供(ガキ)の使い魔ってのもおもしろそうだったから来てみたんだ。それに、お前、結構魔力持ってるみたいだしな。だから俺がしっかり指導してやるよ」と、まるで自分はぼくのもうひとりの師匠だとでもいうかのように言ってのけた。

 ……どことなく、レヒターとシーロン師匠は雰囲気が似ている。妖精郷の住人は、まさか、皆、師匠のようなタイプだということはないよなと少しだけ心配になった。少なくとも、アラベラの師匠のヤレットさんは違ったように思うけど。

 そして、レヒターは、さっきから纏わり付いていたシェーラも気に入ったのか、彼女に背を撫でられてとても気持ちよさそうに目を細めていた。

「デルト、お前はラッキーだな。これから俺とお前はお互いの魔力を共有することになるんだ。俺は竜だから、なかなかの魔力があるんだぞ。ありがたく思えよ」

「ああ、うん、そうなんだ……」

 おもしろそうにぼくとレヒターを眺める師匠と、すっかり竜に夢中のシェーラと、やたらと偉そうに得意そうに話すレヒターと……どうしよう、なんだかぼくだけが苦労しそうな、嫌な予感しかしない。

 そんなことを考えていると、シーロン師匠が、「よかったな。これで、もうぼっちの心配なんかしなくても済むぞ」と、にやっと笑った。

「そんなこと心配してなんかないですよ!」

「なんだお前、そんな理由で俺を呼んだのか。やっぱ子供(ガキ)だな」

「そんなわけないだろ!」

 シェーラに撫でられながらにやにやする竜に、やっぱり嫌な予感しかしないと思った。


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