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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
4.ぼくと東の魔法使い

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閑話:魔法使いの弟子との攻防

 シーロンから、魔族の男の子を拾ったって聞いたのは半年近く前のことだった。どこで拾ったのかは知らないけど、シーロンのことだからきっとほっとけなくて連れ帰ってきちゃったのね、と思った。

 そしたら、その男の子を送ってきたのはエヴィで、遠くに行ったエヴィが怪我した男の子を拾ってシーロンに送りつけて丸投げしたんだって聞いてびっくりした。すごくエヴィらしいけど。


 男の子の怪我は私が考えてたよりもずっと酷かったみたい。

 シーロンに頼まれて替えの包帯を持って行ったり汚れた包帯を洗ったりしている時に、全身包帯だらけで寝たままのその子の姿がちらりと見えたけど、よく死なずに済んだなって感心するくらいだった。シーロンはああ見えてすごい魔法使いだから、治癒の腕もよかったんだろうし、男の子にも体力があったんだろう。

 ひと月経つころには怪我もだいぶ良くなって、ようやくベッドで起き上がれるくらいに回復したとシーロンが言った。ついでに、男の子は魔法使いシーロンの弟子になるんだとも。

 ひょろっとした背の高い魔族の男の子の名前はデルトだというのも、そこでシーロンに教えてもらった。


 オスロスではもちろん一番だし、国全部でもかなりの上位になる魔法使いなのに、なかなか弟子を取らないシーロンがデルトを弟子にすることにしたと聞いて、俄然興味が湧いた。シーロンが弟子にするんだからきっとすごい子なんだろう。さっそく会わせてとお願いしたら、まだ怪我が治りきってないからだめだと言われてしまった。ちょっとだけ、せめて顔くらい見たかったけれど、「シェーラは、自分が病気の時に知らない人に見られたいと思うのか?」とシーロンに聞かれて、それもそうねと納得した。たしかに、怪我で大変なときに無理やり会うのはよくないし。

 それでもちょこちょこようすを見に行くようにして数ヶ月。1日起きて歩いたり走ったり魔法の訓練をしたりできるまで回復したところで、ようやく顔を合わせることができた。

 エヴィが送ってきたっていうし、どんな子なんだろうってわくわくしながら会ったデルトは、どことなく冷めた感じで、ぶっきらぼうに「よろしく」というだけだった。

 あんまりそっけないからがっかりして、シーロンに「ずいぶん愛想のない子を弟子に取ったのね」と言ったら、「成り行きってやつだな。ま、あれはあれで、からかうと結構おもしろいんだよ」とにやっと笑った。その笑い顔を見て、シーロンは偉い魔法使いのくせにちょっと意地悪なところがあるから、デルトは大丈夫かしらと少し心配になったのだった。


 けれど、心配は杞憂だったみたいで、デルトはシーロンとうまくやってるようだった。なんだかんだとデルトをからかうシーロンに、デルトも遠慮なくいろいろ言っているのをよく見かけたから、きっとうまくいってるんだと思った。

 だから、「デルトと仲良くなれたのね」と言ったのに、シーロンは「それはどうかな?」とまたにやりと笑うだけ。だって、あんなに口さがなくいろいろ言い合ってるのに、仲が良くないようには見えないんだけどってシーロンに言うと、やっぱり笑うだけだった。

 屋敷に帰ってミルドレット姉さまにその話をしたら、「あのシーロンが弟子にした子なのよ。一筋縄でいくわけないでしょう?」と呆れられてしまった。カーティス義兄さまにも「シーロンがそう言うなら、まだシェーラには見えてないことがあるんだよ」と頭をぽんぽんされて、なら、もっとしっかり観察してやろうじゃないの、と決心した。


 数日と置かず何度も通ううちに、デルトがなぜか剣の練習まで始めているのに気がついた。すごく立派で、魔法のかかったきれいな剣を持ってて、兄さまみたいにきれいに剣を振るっていた。魔法使いなのにどうしてこんなに一生懸命剣の練習をするのかしらとすごく不思議だった。しかも、お姉さんが誂えてくれた自分の剣だっていうし。どうして魔法使いになるのに剣を誂えたのか、不思議に思っても仕方ないんじゃないかしら。

 それに、デルトの剣を見てると、なんだかアドルファス兄さまの剣を思い出す。だから毎日こっそり眺めていたら、デルトがなぜだか剣を振りながら少し泣きそうな顔をすることがあるのに気がついた。

 剣や魔法の練習が辛いのとも違うみたいだし、どうしてだろうって気になった。「デルトは騎士の子なの? 魔法使いになるのにどうして剣の練習をするの?」とも聞いてみたけど、ちゃんと答えてもらえなかった。いくら聞いても全然答えてくれないなんて、さすがシーロンの弟子だわ。シーロンに負けないくらい意地が悪い。

 でも、私だってシーロンが根負けするくらいすごいんだから、絶対ちゃんと答えてもらうって決めた。


 それから毎日、デルトが剣のお稽古をする時間にを狙っていろいろ話しかけたけれど、やっぱりデルトは鬱陶しそうに適当な返事をするだけだった。

 すごく悔しくて、じゃあ、どうやったらデルトが私をちゃんと相手にしてくれるかと一生懸命考えた。話しかける内容もすごく考えたし、差し入れを持って行ったらどうかしらって試してみたし、思いつくこと全部やってみたけど、デルトはとうとう呆れた顔をするだけで返事もせず、私を無視するようになってしまった。

 もうどうしたらいいかわからなくて、すっかり困ってしまったら、タイミングよく王国騎士のアドルファス兄さまが帰ってきた。


「シェーラ、なんだか浮かない顔をしてるけど、どうしたの」

 兄さまは、本当に無茶なものじゃない限り、私のお願いをなんでも聞いてくれる。だから、今兄さまが帰ってきたのも天の助けだからと、兄さまも引き込もうと考えた。

「あのね、兄さま。シーロンが弟子を取ったのよ」

「そうらしいね。驚いたよ」

「それで、その子、魔法使いの弟子なのに剣の練習もしてて、それが騎士の剣みたいなの」

「へえ?」

 うまく兄さまの興味を引けたみたいで、しめしめと思う。

「だから、明日一緒にデルトのところに行きましょ?」

「なんで急にそんな話をするのかと思ったら、そういうことか。一緒に行って欲しかったんだね。

 よし、じゃあ明日はシーロンの弟子に会いに行こうか」

「ありがとう兄さま!」

 それから、私は兄さまにデルトがどんな子なのかという話をした。私が話しかけてもそっけなくて、シーロンみたいにちょっと意地悪だってことも。

「すぐに意地悪だって判断するのはよくないんじゃないか? シェーラが邪魔してばかりいるせいかもしれないよ?」

「だって、答えてくれないし、返事もしてくれないのよ。だから何度も聞いてるだけだわ」

「あのね、シェーラ。デルトは聞いて欲しくなかったのかもしれないよ」

「まあ、だったらそう言えばいいのに!」

 兄さまは、困ったように肩を竦めて笑うだけで、それ以上何も言わなかった。


 次の日、約束通り、デルトが剣の練習をする時間を狙って兄さまとシーロンの屋敷に行った。

 いつも通りのいつもの場所で剣を振るうデルトを見て、兄さまが「確かに騎士の使う剣の型だね。少しぎこちないけれどきれいにできてる」と言った。

 私の目論見通り、今日のデルトは私のことを無視しなかった。兄さまとばっかり話をしてたけど、いつもみたいに生返事もないよりはいい。

 兄さまもデルトを気に入ったのか、オスロスにいる間はデルトの剣の稽古の相手をすると約束をしていた。デルトが最初は剣士になるつもりだったっていうのは少し驚いたけど、なんで魔法使いに変更したのかは兄さまだけが納得してて、私には教えてもらえなかった。

 いいわ、あとで兄さまに聞くから。


 帰り際、シーロンに挨拶もした……兄さまが。

「シーロン、明日から私がデルトの剣の相手をしますが、構いませんか?」

「おう、魔法の訓練の邪魔にならなきゃ好きにしていいぞ」

「相変わらずですね」

 兄さまは苦笑して、それじゃ帰りますと、私の手を引いてシーロンの屋敷を出た。

「ねえ、兄さま。どうしてデルトは魔法使いの弟子なのに、剣の練習をしてるの? 最初は剣士になろうとしてたってどういうこと?」

「……シェーラ、デルトがここへ送られた時、大怪我をしてたって言ったね」

「ええ」

「怪我が一番酷かったのは、右手じゃなかったかい?」

「ええと……そういえば、右手が大変だったみたい」

「デルトの利き手は右で、でも怪我のせいで剣が持てなくなったようだね。けれど、時間をかけて左手で練習して、剣士を目指そうとしてるんだと思うよ。デルトは剣士になるのを諦めてないんだね」

「まあ! なら、ちゃんとそう教えてくれればいいのに」

 兄さまは笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。

「素直に人に教えたくないこともあるんだよ」


 翌日から兄さまに便乗して、私も毎日デルトのところへ行った。「友達になる」と言ったわりに、相変わらずまともに会話するのは兄さまとだけだし、私の話には生返事しか返さなかったけれど、それでも無視されるよりずっといい。


 ──いつか絶対、私のことを無視できないようにしてやるんだから。


 だから、また兄さまがお仕事に戻ってもデルトに無視されないような作戦を一生懸命考えて……一生懸命考えてたら、あ、そうか。私、デルトのこと結構好きなんだわ、って気がついた。

 無視されるとすっごく腹が立つのは、きっとそのせいなんだわ。


 だから、さっそく「私、デルトのこと好きみたいなの」と言ったのに、デルトは私をちらっと見て、さらに目を眇めて、「無理だよ」のひとことだけだった。

 ……何よそれ。

 いったい何がどう無理なのかと聞いても、「無理なものは無理だ」の一点張りだし、じゃあ何が無理なのか聞いても、何度言っても、どんなに私が構おうとしても「無理なことに変わりはないから」と、またデルトは私のことを相手にしなくなってしまった。


 気に入らない。すっごく気に入らないわ。

 私、負けないんだから。


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