4.凍解の月
だんだんと池の氷も緩んできて、春はもうすぐそこまで来ていると感じ始めたある日。
村の家畜小屋が獣に襲われたから注意するようにという知らせが回ってきた。
とうさんは難しい顔をして襲われた家畜小屋を見に行った。かあさんは、家からあまり離れないようにとぼくとねえさんにしっかりと言い含めた。とくにねえさんには、魔法が使えるからって自分を過信してはいけないと言っていた。
それから、早く起き過ぎた獣が、まだ食べ物が少ない山から下りて来たのかもしれないなと考え込んでいた。
とうさんは難しい顔のまま帰ってきて、獣じゃなくて魔物かもしれないと言った。残っていた足跡とかが獣とは思えなかったらしい。かあさんは、ほんとうに? と驚いていた。かあさんの話では、魔物がこの村まで来るのはありえないのだそうだ。
ぼくは不安そうな顔をしていたみたいで、とうさんが心配するなとぼくの頭をわしゃわしゃかき回した。
この村だけでも魔物避け用の防御を張っておこうと、かあさんはさっそく魔法の準備に取り掛かっていた。
山に住んでいる時、ぼくは魔物に遭ったことはなかった。そう話したら、かあさんが、魔物はあまり魔族には近づかないはずなんだと教えてくれた。それじゃ、どうしてぼくたちがいるこの村に魔物が来たんだろう。
次の日、今度は隣の村で家畜が襲われたという知らせが来た。やっぱり獣ではなくて魔物だったらしい。運悪く家畜の世話をしていた人が襲われてしまったとかで、家畜が食べられている間になんとか逃げられたけど、ひどい怪我をしてしまったのだそうだ。
魔物の姿の話を聞いたかあさんは、書庫から本を持ってきてぱらぱらとあちこちページを捲り始めた。しばらく本を眺めたあと、「巨狼じゃないだろうか」と言った。魔力を浴びて普通よりもずっと大きくなった狼の魔物で、魔物というよりは獣に近いのだそうだ。
町の警備隊には連絡をしたけれど、相手が魔物となると警備隊ではなかなか対処が難しくて、王都から討伐隊に来てもらうことになるかもしれないらしい。ただ、討伐隊を待っている間にも家畜や人が襲われるし、とうさんはやっぱり難しい顔で頭を悩ませていた。
かあさんは、せめて人が襲われないようにと、村に魔物避けの魔法を張り直していた。とうさんは夜も村の見回りをやっていた。
翌々日、町から、討伐隊ではないけれど王都の魔術師団の魔法使いがやってきた。
たまたま近くで任務があったので、ここの魔物の対処もやってこいと師団のえらい人に命令されたそうだ。
やってきたのは妖精の魔法使いと護衛の魔法剣士と騎士様の3人だった。「話を聞いた限りでははぐれの巨狼のようでしたから、3人でも対処できると思います。任せてください」と、妖精の魔法使いさんが笑顔で胸を叩いた。
とうさんはこのあたりの案内も兼ねて、一緒に付いていくことになった。かあさんは、魔法使いさんに、荒事では足手まといになるから付いていけないけれど、もし怪我人が出たらすぐに駆けつけるので連絡をくれと言いながら、皆に寒さ避けと防御の魔法を念入りにかけていた。
かあさんは、夜になると、ごはんを届けたり魔法をかけ直したりのために、とうさんたちの野営地へ転移魔法で行っていた。
魔物を仕留めてとうさんたちが戻ったのは、出発してから2日後だった。
師団の人たちは少しうちで休んでいった。
探知魔法の得意な魔法使いが一緒ならもう少し早く見つけられたんだけどねと、妖精の魔法使いさんが肩を竦めた。専門の人と比べると、どうしても探知できる範囲が狭くなってしまうんだそうだ。
ぼくは師団の魔法剣士の人と少しだけ話ができた。魔法剣士になりたいことを話したら、とうさんから剣を、かあさんから魔法をしっかり習えばなれるからがんばってと言われた。
師団の人たちが帰ると、とうさんはさすがに疲れたと言って長椅子にごろんと横になった。かあさんが、さっさと風呂できれいになってベッドで休めと、とうさんを追い立てていた。
明日、とうさんが起きたら、魔物との戦いの話をもっと聞いてみよう。





