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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
3.ぼくとおとうさんの道程

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閑話.王都/ターシスとエヴィ ☆

R15

「どういうつもりだ?」

 デルトが出た後、僕の腰にがっちりと腕を回したまま離さないエヴィを睨みつけると、彼女は「怒ってる?」と、まるで叱られている子供のように言った。その様子になんだか気勢を削がれて溜息を吐く。

「……少し」

「少しでよかった」

 へらりと笑い、また新しい酒を注文しようと手を挙げる彼女を、もういい加減にしろと押し留める。飲み過ぎだ。

「デルトまで追い出したんだ。何があったのか、もう少しきちんと話してくれないか」

 何の説明もなくこれかと言外に問うと、彼女は顔を顰めた。そして、無言で僕の腰に回した手にぐっと力を込めたかと思うと、いきなり立ち上がる。

「おい! 強化は反則だと言ったろ!?」

「いいの」

 僕は立ち上がった彼女に引き摺られる格好で、部屋へと上がっていった。


「離すんだ、エヴィ」

「嫌」

「……いい加減にしろ」


 さすがにこれでは、なんてだらしない父親だと、デルトの僕に対する心象だって地に落ちてしまう。とっくに地に落ちているのかもしれないが、せめて現状維持くらいはしたいのだ。

 不機嫌にもう一度「離すんだ」と言うと、エヴィは手を離し……僕の襟元を掴んで引き寄せ、いきなり唇を押しあてた。


 ──やっぱりかと思いながらも、そのまま必死に縋り付いて唇を押し付け続ける彼女の様子に、ああこれはもうしかたない、逃げ損ねてしまったと、諦め半分にその背に腕を回して身体を抱き寄せる。

 角度を変えて、より深く口付けて……ただ口付けを交わす音と、そこから漏れる声だけが部屋のなかに響いていた。


 やがてするすると衣服を外していき、そっと彼女を抱き上げてベッドに横たえた。

「……もう、今さら待ったは利かないよ」

 と、目を眇めてそう囁く僕に、エヴィは目元を赤らめて頷く。


 ──そうやってしばしの時を過ごした後。


 向き合ったエヴィを腕に抱えて、ふたりで同じシーツに包まり、すぐ目の前に顔を寄せて、ぽそぽそと話をしていた。

「……で、どうしてこうなったのか、説明はあるのか?」

 少しばつの悪そうな顔で、エヴィはゆっくりと話しだす。

「……なんていうか……希望というか、願望というか、そういういろいろなものを抱いて会いに行ったけど、結局玉砕して心が折れて、もうどうにでもなあれって」

 また、へらりと笑うが、それが形だけであることはすぐに見て取れた。僕はまた溜息を吐く。

「何がどう玉砕だったんだ。何がどうにもでなあれなんだ」

「あのね……男ってさ、結局ふわふわで小さくてかわいい娘が好きなんだよね」

「──またそれか?」

「だって、2回目なのよ」

 彼女は俯いて、小さく呟く。

「2回目?」

「そう。2回とも、ふわふわで、小さくて、かわいい娘だったの。私とは真逆。つまり、でかくて男勝りで平坦は、物珍しさだけで真の需要はないってことなのね」

「……言うほど平坦でもないと思うし、物珍しさもないと思うけどね」

 思わず彼女の大きさを思い返しながら、呟いてしまうと、彼女は小さく「ありがと」と囁いた。


「で、そう愚痴る君に付き合ってる僕の立場は何なんだろうね」

「ターシスは優しいから、縋られると無碍にできないのよ。私はそこに付け込んだの」

「僕は優しいんじゃなくて、ただの考えなしで意気地なしで流されてるだけだと言われたことがあるんだけど」

「そうなの? でもいいんじゃない? おかげで、私……まあ、そういう男にはちゃんと需要があるってことなのよ」

「なら、ありがたいと言うべきかな」

 デルトにどう思われるのかは別として。


 エヴィは僕にすり寄って、甘えるように首に腕を回した。なんだろうな。リーゼの時といい今といい、僕はこういう役回りなんだろうか。仕方ないことなのか。また同じ轍を踏もうというのか。

 そんなことを考えながら、もう一度、彼女に口付けを落とす。


「なら、僕はこれも役得だと思って、受け入れていればいいんだろうね」

 くすりとエヴィが笑う。泣いているような顔で、笑って、頷く。

「役得ってことで喜んでいいよ。私は今夜はどうしてもひとりで居たくないから、そこに、思いっきり付け込んでくれていい。全力で寄りかかって、甘えさせてもらうから」

「……そりゃ僥倖だ」

 自嘲混じりの苦笑を漏らしながら、エヴィと、また、口付けを交わした。

 何度かついばむような口付けを繰り返し、だんだんと深くしていく。


 考えるまでもなく、今の僕は、彼女にとって大切な、僕の知らない誰かの代わりなんだろう。その誰かに感謝すべきなのかどうなのかはわからないし、はっきり言ってしまえばどうでもいい。

 ──なぜなら、僕も彼女と同様、彼女に惚れた結果こうしているわけではないのだから。


 翌朝、伸びをしながら、さすがにまだ眠いなと考える。

 もぞもぞとつられて起き出したエヴィが、まだ眠そうな顔で「おはよう」と言った。僕も「おはよう」と返し、そして昨晩のようにまた口付けを交わす。

「……君の“ごっこ”に付き合うのは、悪くないね」

「ありがと。少し浮上できた……かもしれない」

「昨夜よりは、だいぶいい顔になったみたいだ」

「うん……今日は、ちょっと自分のけじめをつけてくる」

「何するのかは知らないけど、それで君の気が済むならやりたいようにやればいいよ。けど、デルトには迷惑掛けないようにしてくれ」

「わかってるよ、お父さん」

 エヴィはふんわりと笑った。

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