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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
3.ぼくとおとうさんの道程

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5.王都/到着

「あれが王都だよ」


 そう言って、道の先に見えてきた城壁と城を指すと、エヴィとアラベラは目を丸くしてぽかんと口を開けた。


「うわあ……」

「大きい……」


 東にはあんなでかい城塞都市なんてなかったと呟くエヴィと、ただひたすらぽかんと前を眺めるアラベラに、ぼくと父さんは吹き出してしまう。


「できてから何年だっけ?」

「たしか、600年くらいかな」

「うわあ……そんなに続くとか、おかしいよ」


 エヴィはひたすらうわあうわあと繰り返し、驚き続けている。


「中に入ったらもっとすごいよ。人だらけだし」

「エディトさんから返事が来たよ。今日は夕食を一緒にって。もちろん、アラベラとエヴィも来て欲しいって」

「わあ、それは楽しみだ! あの男前のエディトさんかあ」

「アラベラを弟子にしたいっていう魔法使いも見つかったらしい。その話もあるみたいだ」

「へえ、どんな人だろうね」

「それは会ってからのお楽しみだと言ってた」


 王都に着いて“妖精の薄羽根”亭に部屋を借りると、ぼくたちはすぐにエディト姉さんの家に向かった。


「いあっしゃー! でうとだ!」


 玄関の扉を開けて最初に出てきたのはフェリスだった。またすぐにぱたぱたと走って、かーたん、でうと! と叫びながら奥へ行ってしまう。

 そのすぐあとに、のんびりとユールさんが出てきた。

「いらっしゃい。エディトは、今、用意で手が離せないから僕に相手しろだってさ。フォルはたぶんもうすぐ帰ってくるよ。ディアはもう来て手伝ってる。ルツは仕事でちょっと遅れるんだって。ま、とりあえず入ってよ。

 ああ、君が小さな魔法使いか。で、こっちがその保護者? 僕のことはユールって呼んでね」

 ぺこりとお辞儀して挨拶するアラベラと、驚いた顔でじいっとユールさんを見るエヴィと順番に握手をすると、ユールさんはさっさと中へと入っていった。ぼくたちもその後に続く。


「いらっしゃい。あなたがアラベラね、で、あなたがエヴィさん? 私はエディトです、よろしくね。まだ時間があるから適当に座ってて」

 中ではエディト姉さんが忙しそうに準備をしていて、ディア姉さんもぱたぱたと動き回っている。フェリスもなんとか手伝おうとちょろちょろしていた。

「ぼくも手伝うよ」

「ありがと。さすがに人数が多いから助かるわ」


「ルツは遅れるっていうから、もう始めちゃいましょうか」

 どうにか準備が整い、落ち着いたところで夕食が始まった。改めてアラベラとエヴィが挨拶をすると、エディト姉さんがアラベラに話を切り出した。


「アラベラは妖精に会ったことはある?」

 アラベラが首を振ると、エディト姉さんは「実は、弟子が欲しいって言ってるのは妖精の魔法使いなの」とにっこり笑った。

「魔術師団に長くいる人でね、そろそろまた弟子を取ろうか考えてたところだったらしいのよ。精霊魔法が得意な魔法使いだし、アラベラも精霊魔法の素養があるって聞いて、乗り気なの」

「妖精の魔法使い……」

「ヤレットさんて言って、私も一緒に仕事をしたことがある魔法使いよ。これまでも何人か弟子を取ったことがあるっていうし、彼に弟子入りすれば魔法学校の推薦を受けることもできるようになると思う」

「魔法学校?」

「そう。魔法学校を出れば、師団にも入れるの。いい話だと思うけど?」

「なんか、すごい……」

「とにかく、明日実際に会ってみましょう」

 アラベラはこくこくと頷いた。妖精に弟子入りかあ、と、思ってもみなかった話にぼうっとなっている。「よかったね」というと、ぼうっとしたまま、またこくこくと頷いた。


 しばらくして、玄関の扉をコツコツと叩く音がした。「ルツだわ」とディア姉さんが立ち上がるより早く、またフェリスが走っていった。ディア姉さんが「私が行くから義姉さまと兄さまは座ってて」と言いながらついていくと、すぐにフェリスを抱いた仕事帰りのルツ兄さんと戻ってきた。


「こんにちは、久しぶり。あ、デルト大きくなったね。

 ──あれ、また魔族の友達が増えたの? すごいな、ほんとにこの家って魔族ホイホイだね」


 部屋に入るなりのルツ兄さんの言葉に、皆の空気が固まる。


 ぼくが慌てて周りを見ると、ユールさんが大爆笑してエヴィが青くなって父さんが肩を竦めていた。

 アラベラは「魔族?」と首を傾げていて、ディア姉さんはぽかんとルツ兄さんを見上げていて、エディト姉さんとフォル兄さんは顔を見合わせている。


「……え? あれ? もしかして秘密だった? だってこの家に来てるってことは、そういうことなんじゃないの? え?」

 ルツ兄さんには幻覚も幻術も姿変えも効かない。そういう眼を持ってるから。だから、わざわざ姿を変えていることに気付かず失敗することもあるのだと前に言っていた。

 変化した空気に慌てて皆を見回した後、目を覆って上を向いて「あちゃあ」と言う。そんなルツ兄さんを見て、「……ええ、まさか、精霊眼?」とエヴィが茫然と呟いた。

「ほんとにいるんだ、精霊眼なんて。初めて見た。しかも混血?」

「あー、はい、4分の1です。ルツですよろしく」

 エヴィは、やー、参ったなあと頭を掻いた。「魔力隠しも姿変えも自信あったのに、精霊眼で一発なんて妖精ってマジコワイね」と、立ち上がってルツ兄さんの差し出した手と握手をすると、肩を竦めてあっけらかんと言う。

「私、魔族なの。西じゃ魔族だと狩られるって聞いたから、結構本格的に隠してたのよ。いや、相当本気で隠してたわ。このまま斥候行っても大丈夫なくらいにね」

「うん、僕もうっかり見逃しそうになったくらいだから、相当うまくやってたと思うよ。でもまあ、精霊の子が相手じゃどんだけ隠しても見えちゃうから仕方ないね」

 笑いながらユールさんが言うには、高位の魔法使いでも気付くのが難しいくらいの隠しっぷりだったらしい。

 なるほど、父さんがずいぶんエヴィには気を許してるなと思ったけど、同族だって気がついてたからなんだ。


「魔族……?」


 ユールさんがまだ笑っている横で、アラベラが真っ青なまま顔を引き攣らせて呟いた。ああそうか、アラベラは皆人間だと思ってたんだった。

「そう、魔族。この4人が生粋の魔族ね」

 エディト姉さんはにっこり微笑んで、アラベラの横に行った。

「私は人間で、フェリスは半分だけ。フォルとディア様は4分の1だけよ。ちなみにルツは4分の1だけ妖精で魔族じゃないの。

 ……あのね、別に魔族は噛み付いたり無闇に暴れたりしないから大丈夫。人間と変わらないから」

 エディト姉さんが、アラベラの顔を覗き込んで、それから不安げに周りを見る彼女を背中から抱え込んだ。

「今まで一緒にいてどうだった? 世間で言う魔族がどうのっていうのは全部迷信で出鱈目だから、ちゃんと自分で見て、自分で確認して、それから自分で考えて結論を出すの。それがいい魔法使いになる一歩だから」

 エディト姉さんが優しく抱きしめると、どこかおどおどと怯えていたアラベラは、またゆっくり皆を見回して頷いた。エヴィは、エディト姉さんとアラベラをにこにこと見詰めながら、ほう、と息を吐く。

「エディトさんは、さすが男前で、いい魔法使いだね」

「え? 男前?」

 エディト姉さんがきょとんとすると、フォル兄さんが重々しく「間違いないな」と頷いた。「まったく、いいお嫁さん捕まえたね。いいね」とエヴィが笑うと、エディト姉さんは「褒めたって何にも出ないんだけど」と慌てていた。


 それから、エディト姉さんはぽんと手を叩くとまた話を切り出した。

「そうだ。いい機会だから今報告しとくけど、年明けくらいにフェリスに弟か妹ができるのよ」


 また空気が固まった。


「……え?」

 最初に我に返って反応したのはフォル兄さんだった。さすがのユールさんでさえ、驚いて目を丸くしたままエディト姉さんを凝視している。ディア姉さんは、「知ってたら座ってて貰ったのに!」と青くなっていた。

「あ、フォル、出産の時にはお義母さんにお世話になりに行く予定よ。今日、帰る前に連絡だけしておいたから。あと、私の親の方は……生まれた後に連絡ってことでよろしくね」

「あ、いや、なんで、最初に、俺じゃ……」

 フォル兄さんが、珍しくかなり動揺していた。

「くれぐれも、私の実家に勝手に連絡しないでね? あと、ユールはまたベビーシッターお願い。予定では顔はフォルに似て頭は私に似るから、きっといい魔法使いになると思うのよ。感知魔法の素養とかフォルから受け継いだらバッチリよね。あ、だから基礎教育もまた頼むね」

「あ、うん……そこまで決まってるんだ……また、僕、働くんだ……」

「今日の後片付けもお願いね」

「……うん。僕結構長く生きてるんだけどさ、エディトはもっと年長者を敬うことを覚えたほうがいいと思うんだよね……」


 その後の夕食は、エディト姉さんのおめでとうパーティになった。

 フォル兄さんは、自分が一番最初に知りたかったと小さく呟いて、父さんとルツ兄さんにぽんぽんと肩を叩かれていた。


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