3.氷柱の月
屋根の端から氷柱がぶら下がり始め、今冬一番じゃないかというくらい寒い夜が明けた日。
いつものように剣の稽古をしていたら、やってきた村の子たちに、池の氷が厚くなったからスケートをやろうと誘われた。とうさんが行っておいでと笑って言った。
ぼくより2つ年上で、一番年長のカルルにスケートをやったことがあるかと聞かれて、ぼくは首を振った。スケートというのは、底がつるつるになった靴で上手に氷の上を滑る遊びなんだそうだ。冬の一番寒い日を迎えると、池の氷が十分厚くなるからスケートができるようになるんだと、カルルが教えてくれた。
ぼくは、スケートをやるならこの靴にしなさいとねえさんから渡された靴に履き替えて、皆と一緒に村はずれの池に向かった。ねえさんは、後から見に行くからねと手を振って送り出してくれた。
山で生活していた時は、脛の真ん中くらいまでうっすらと積もった雪の中を歩くことはあっても、氷の上を歩くなんて経験はなかった。氷がこんなに滑るものだなんて初めて知った。
いくら踏ん張っても、つるつる滑る氷の上でバランスを取るのはとても難しくて、皆のように上手に滑れる気がまったくしない。
何度も何度も転んでばかりでまともに立つこともできないぼくを見かねて、カルルが手を貸してくれた。
「まず歩けるようにならないとだめだな」
うんうんと、ぼくは頷く。さっきから滑るどころか歩くことも儘ならない。
「いいか、少し膝を曲げて、前に出した足の裏全部に体重をかけるんだ。ゆっくりだぞ。雪の上みたいな歩き方じゃだめだ」
カルルに手を取ってもらって、彼の言うとおりにゆっくりと歩いてみる。何度か転んだけれど、それでもしばらく練習したらどうにか歩けるようにはなった。
「お前結構筋がいいじゃん。初めてでそこまで歩けるんだから、もうちょっと練習すれば滑れるようになるぜ」
「ほんとに?」
「ああ。ほら、あいつ、ティーロなんて歩けるようになるまで3日くらいかかったんだぞ」
ぼくはなんだか嬉しくなって、へへっと笑った。
「もうちょっとがんばって、滑れるようになる!」
「おう!」
午後、ねえさんが来て、もう滑れるようになったの? とびっくりしながら褒めてくれた。ねえさんは、滑れるようになるまで1週間くらいかかったそうだ。
「かあさんが、今夜は筋肉痛に効く薬草を用意してお風呂を立ててくれるって。
けど、明日はきっと身体中痛くなってるから覚悟するのよ」
「毎日とうさんとあんなに運動をしているのに、痛くなるかなあ」
「明日になってみればわかるわよ」
ぼくが首を傾げたら、ねえさんは笑ってそう言った。
翌日、ぼくは身体中がぎしぎしと軋んでるように痛くて、ベッドからなかなか起き上がることができなかった。ねえさんがぼくを起こしにきて、やっぱりねと笑った。
とうさんの言うとおり、今日は基礎訓練はやめて、ゆっくり身体を動かすだけにしておいた。