序.旅のはじまり
この1年でぼくの身長はアロイス父さんと変わらないくらいまで伸びて、声もすっかり低くなってしまった。
姉さんや兄さんたちは、ぼくに会うたびに「また伸びてる」と驚いていた。母さんは、父さんが長身だから同じくらいにはなるぞと言う。
ぼくはといえば、あまり急に伸びたから着るものが追いつかなくて少し困った。鎧はもっと困って、きちんとしたのは背が伸びきってからにしようと、融通の利く鎖帷子を使うようにしていた。
それが、出発に合わせてディア姉さんが作ってくれた武具を付けると、なんだかいっぱしの剣士になったように感じる。
数日前に来てくれたディア姉さんは、わざわざ出発に合わせてぼくに武具を一式作ってくれた。
ディア姉さんから贈られた剣は普通よりも少し細身のスッキリした長剣で、若干長めだ。ルツ兄さんの師匠が妖精のお祖父さんなので、同じように妖精が師匠だという父さんの教えてくれる剣筋とよく似ているからと、ルツ兄さんの伝手で妖精の鍛冶屋に作ってもらった剣に、ディア姉さんが魔法を付与してくれたんだそうだ。さすが妖精の剣というだけあって、とても綺麗な細工まである。
ディア姉さんは、「デルトには、私のお得意様になってもらわないとね」と笑った。ぼくの剣を矯めつ眇めつ見ながら「これは僕のも頼みたいくらいだな」と父さんも感心していて、「いつでも言ってくださいね」と、ディア姉さんはまた笑った。
「それとね、エディトさんと兄様が、しばらく忙しくてこちらに来れないけれど、王都に来た時は是非寄ってくれって」
ぼくと父さんは、もちろんと頷く。ユールさんにももうずっと会っていない。王都に引きこもってるから、巨狼以来ずっとだ。元気だろうか。
ハンスさんから譲り受けた家に鍵と保護の魔法を掛けて、ぼくたちはアロイス父さんと母さんの家に行った。
「最初はどこへ向かうか決まってるのか?」
アロイス父さんに聞かれて、ぼくは頷く。
「海が見てみたいんだ。お祖父さんの本で読んだけど全然想像できないから、本物が見てみたい」
「だから、まずは南のファーレルを目指そうかと考えてる。あそこは東西のいろんな船が来る港町だから、おもしろいよ」
「へえ、おもしろそうだな。デルト、冬越しの時の土産話を楽しみにしてるぞ。道中気を付けて行け」
「母さんも、身体に気をつけてね。アロイス父さんもだよ」
「ああ、次に会うのを楽しみにしているからな」
どことなく離れがたくて、やっぱり少しぐずぐずしてしまう。母さんが「どうした?」と首を傾げると、アロイス父さんが「無理に行く必要はないんだぞ?」とにやりと笑う。父さんはぼくをおもしろそうに見ているだけだ。
「別に、無理とかじゃないよ」と、ぼくはちょっとだけ憮然として、それから馬に跨った。
「じゃあ、行くね」と馬上から言うと、アロイス父さんが頷いた。
「ああ、がんばれよ」
「デルト」
父さんがぼくに声を掛けて歩き出す。まずは、南へ。港町ファーレルへ行こう。





