2.落葉の月
実りの季節が終わり、木々の葉もすっかり落ちて、雪の季節が近づいてきた。
ぼくは、かあさんの遠縁の子供を引き取ったんだと村の人たちに紹介された。
この家に来てから、かあさんは将来の役に立つからと、ぼくに薬草のことや魔法のことをいろいろと教えてくれる。ぼくたち魔族は、人間の里にすむ時は魔法使いや薬師として暮らすとよいのだそうだ。
……ちょっと変わったところだと、魔法剣士として暮らす魔族もいるらしい。
ねえさんは魔道具作りに凝っているようで、いろいろなものを作っている。ぼくが普段はめている姿変えの腕輪も、ねえさんが作ったものだ。
とうさんは、普段は村の警備の仕事をしたり、近くの町で剣を教えたりしている。ぼくにも剣を教えてくれることになって、「やっぱり男の子がいるといいな」と嬉しそうに笑った。
少し教えてもらった後、ぼくはもっと剣を習いたくなって、とうさんと一緒に基礎訓練というのをやることになった。最初は全然だったけれど、今はとうさんの半分……いや、3分の1くらいはこなせるようになったと思う。かあさんは、ぼくもにいさんみたいに騎士になりたいって言い出すんじゃないかと心配しているようだ。
けど、ぼくは、騎士よりも、かあさんが話してくれた魔法剣士のほうがかっこいいと思う。魔法と剣を組み合わせて戦う魔法剣士の話に目を輝かせるぼくに、かあさんは、少し難しいけれど勉強がてら読むといいと言って、おじいさんの蔵書の中からいくつか本を持ってきてくれた。
どれも、魔法剣士について書かれた本だった。
ある日、ねえさんが、にいさんに会いに行ってくると王都へ出かけた。
王都はこの村からずいぶん離れているけど、ねえさんは転移魔法が使えるから一瞬で行けるらしい。「デルトのこと、ちゃんと聞いてくるからね!」とでかけていったけれど、夜遅く帰って来たねえさんは、結局にいさんの部下の人がいたのであまり聞けなかった、ごめんねと言った。
でも、すごく楽しかったみたいだ。
翌朝、お土産を出しながら、そのうちにいさんにもお嫁さんができるんじゃないかと話をしていて、とうさんとかあさんがガッツポーズをしていた。
それから数日後、急ににいさんが帰って来た。
やっと申請してた長期休暇が取れたんだと言っていた。
にいさんと会うのはあの山の家以来なのでちょっと怖い。ねえさんの影に隠れるみたいにしていたら、「お、元気にやってるか」と言ってぼくの頭をなでてくれた。ねえさんは「それだけなの!?」ってキレていた。
とうさんは、さっそくにいさんと剣の手合わせをしていた。にいさんはまだまだとうさんには敵わないらしい。
晩御飯の時に、かあさんがちくちくとお嫁さんはまだかとにいさんに言っていた。この前、ねえさんが王都へ行ったときに会った魔法使いの女の人はどうなんだと聞かれて、にいさんは「ああ、そういうんじゃないから」とちょっと遠い目になっていた。
とうさんが笑いながら、「お前もがんばれ」とにいさんの肩を叩いていた。
夜、ぼくが読んでいた本を見て、にいさんが「魔法剣士が好きなのか?」と聞いてきた。うん、と頷くと、王都に魔術師団と契約してる魔法剣士が何人かいるんだと、少し話をしてくれた。
山で会ったときはちょっと怖かったけど、いい人みたいだ。
にいさんは人間なのか聞いてみたら、角はあるけどちょっとだけで、見てわからない程度だから姿変えの魔法は使ってないんだと触らせてくれた。
次の日、一緒に基礎訓練をしながら、ぼくが行きたいなら、前に暮らしてた山の家に連れていくからいつでも言えと言った。ここからは少し遠くて、馬で何日もかかる場所なんだそうだ。
あとで、地図を出して、だいたいこのあたりだとも説明してくれた。地図で見る世界は広いけど、これでもまだほんの一部だけなんだ。
そのうち、ぼくがもうちょっと大きくなって、いろいろできるようになったら連れて行ってもらおうと思う。