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ぼくを取り巻く世界のできごと  作者: 銀月
2.ぼくと魔族のおとうさんの関係
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2.ぼくとおとうさんの新生活

ちょいと長くなりました。

アロイスとターシスの違いはSTRビルドとDEXビルドの違いみたいな感じかなと。

 ぼくが言うのも変だけど、おとうさんは笑うとふにゃっとして子供っぽい顔になる。

 そして、細身で、長髪を首の後ろで結んでる優男で、これまで村には全然いなかったタイプだ。しかも、見た目だけなら、実際の歳の10分の1くらい……下手するとにいさんよりも下の歳くらいにしか見えないのだ。


 そのせいなのか、おとうさんはすぐに近隣のお姉さんたちに大人気になって、お姉さんたちお手製のおかずやお菓子がうちに届くようになった。あまりお返しができないことが、ちょっと心苦しいくらいに届く。

 食べきれない分が来てしまったときは、とうさんとかあさんのところへのお裾分けにしている。

 かあさんが「ターシスは害のなさそうな顔をしているし、今、嫁がいるわけじゃないから、皆がんばってるんだ」と頷いていた。かあさんが言うには、とうさんが若い頃もそんな感じだったらしい。とうさんの場合はかあさんしか目に入ってなかったから、すぐにそういうことはなくなったんだそうだけど。

 おとうさんがそれを聞いて「すごい惚気だ」と感心したら、かあさんは「惚気ではなく事実なんだ」と真面目な顔で返していた。かあさんもなかなかだと思う。


 そんなお姉さんたちのおかげか、おとうさんは半月もするとすっかり村に馴染んでしまったようだ。とうさんの勧めもあって、村の警備や町の警備隊の手伝いもするようになった。

 村のおじさんたちにも「歓迎会」と称した宴会に引っ張っていかれて、「ここはのんびりしてて住みやすい村だねえ」と、酔っ払いながら帰って来た。


 そのおとうさんは、今日、朝から弓の手入れをしていた。

 ぼくがおはようございますと起きてくると、ぼくに弓を見せて、これから狩りに行こうと言いだした。

 ぼくが弓はあんまり使えないんですと言うと、じゃあ弓の練習も一緒にやろうと、ぼくの分までさっさと狩りに出かける準備を始めた。なんだかぼくよりもうきうきしている気がする。


「おとうさんは、狩りが好きなんですか?」

「狩りをすればお肉が食べられるじゃないか」

「お肉が食べたいから狩りをするんですか?」

「あたりまえじゃないか」


 それから、おとうさんはじっとぼくを見た。


「ところでデルト」

「はい」

「いい加減、その丁寧語はやめよう?」

「え?」

「もっと、アロイスと話している時みたいに、僕とも話してほしいな」


 おとうさんは首を傾げながらにっこりと微笑む。

 全然意識してなかったけど、ぼくはずっとおとうさんと丁寧語で話してたみたいだった。まだ緊張していたのかな。


「はい……うん」


 ぼくが頷くと、おとうさんは「その調子で行こう」とぼくの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 狩りに行くと数日留守にすることになるからと、とうさんとかあさんに留守の間の家を頼んでから、ぼくたちは出かけた。


 山を歩く時、おとうさんはあまり魔法を使わなかった。魔法のないところで魔法を使うのは、結構目立つんだよとおとうさんは言う。

 ぼくは初めてだったけれど、おとうさんは山歩きにとても慣れているみたいだ。

 だから、今回は少しゆっくり歩こうとおとうさんは言ったけれど、それでも結構な時間に結構な距離を歩いたと思う。歩きながら、獣の残した痕跡の見分け方とか、方角の確認の仕方とか、水場の探し方とかも教えてくれた。薬草のほかに、食べられる草や木の実の探しかたも教えてくれた。あと、木の登り方も。

 おとうさんにこんな特技があるなんて思わなかった。


 休憩しながら、魔物退治の仕事で何日も山に籠ることがよくあったんだとおとうさんは話してくれた。それと、人がいるところにはあんまり慣れてないんだとも。あちこち転々としながら、魔物退治や害獣退治をやったり旅商人の護衛をやったりしていたから、あの山の家を別にすれば、一か所にこんなに長くいるのも初めてなんだそうだ。

 どうやら、おとうさんに剣と魔法を教えてくれた人もそういう仕事をしていたらしい。


 休憩を終えてもう少し奥へ行こうと歩き始めてから、あとちょっとでお昼にしようかというころで急におとうさんが足を止めた。どうしたのかと見上げると、ぼくを背に隠すようにして、「僕の後ろから絶対に離れないように」と声を潜めて言う。何かあるのかと思って背中越しに前を覗くと、一瞬何か生臭いような臭いを感じた。

 おとうさんはいつでも剣を抜けるような姿勢でゆっくりと進む。ぼくは、言われた通りおとうさんの後ろから、あまり離れないようについていく。

 急に目の前が開け、そこに現れたものが視界に入って、ぼくは息を呑んだ。

 ──人が、死んでる?

 くすんだ赤い色とそこに転がっているものを見てしまったとたん、ぼくの足が竦んで前に動かなくなった。「おとう、さん……」と、震えるぼくの呼ぶ声で、おとうさんはようやくぼくが動けなくなってることに気づいたようだった。少し慌てたように戻ってきて「ごめん」と真っ青なぼくの頭を抱え、「深呼吸して。大丈夫だから」と背中をゆっくりと叩く。

 おとうさんは、あれが見えない場所へぼくを連れていき、座らせて水を飲ませてくれた。ぼくは少しだけ落ち着くことができた。

 「熊にやられてしまった人かもしれない」と言って、おとうさんは手早く魔法を詠唱し、少し集中した。

「まだ近くにいるみたいだ。まずいな……」

「熊が、まだ近くにいるの?」

 おとうさんは頷いた。

「もう少しちゃんと見てみないとわからないけれど、たぶん、手負いなんだと思う。それに、熊が人を襲うことを覚えてしまったら、これからも人を襲いに山を下りて来るかもしれない。早く退治しないともっと人が襲われてしまうんだ」

 おとうさんは少し考えてから、ぼくの周りに結界を張った。

「熊にやられてしまった人を調べて来るから、ここで待っていてね。結界を張ってあるから大丈夫だと思うけれど、何かきたらすぐに大声で知らせるんだよ」

 ぼくは黙ってうなずいた。行ってからそれほど時間をかけずにおとうさんは戻ってきたけれど、ぼくにはものすごく長い時間に思えた。戻ってきたおとうさんは、さっきよりも厳しい顔になっていた。

「今すぐ熊を退治しなきゃいけない。ただの熊ならよかったんだけど、梟熊かもしれないんだ」

「梟熊?」

「頭の部分が梟によく似ている熊の魔物だ。普通の熊よりもずっと大きくて、危険な生き物なんだ。爪跡とかの大きさから、たぶん梟熊で間違いないと思う。

 ほんとうは君をいったん帰してから出直したほうがいいんだけど、そうすると見失ってしまうんだ。だから、このまま君を連れて行かなきゃいけない」

「おとうさんひとりで大丈夫なの?」

「梟熊なら、前にもやったことがあるから大丈夫だと思う。

 その間、君は魔法で守っておく。このことはシャスにも伝達魔法で伝えておくよ」

 ぼくは頷いて、ぐっと手を握りしめた。


 おとうさんはいくつかの探知魔法と強化魔法を唱えると、ぼくを背負った。梟熊は人を襲って興奮しているのか、ずいぶん速く移動しているらしい。ぼくの歩く速さでは追いつかないから、背負って行くんだそうだ。

 ぼくは枝に引っかかれないように頭からすっぽりとマントをかぶって、しっかりとおとうさんの背にしがみついた。おとうさんは、ぼくを背負ってるとは思えないほど速く走り始めた。

 斜面を登ったり下りたり、邪魔な岩を飛び上がって避けたり、必死で背中にしがみついてるだけでへとへとになるくらい振り回された。

 だんだん疲れて手がしびれてしまうんじゃないかと思い始めたころ、ようやくおとうさんが止まった。幹が大人でも抱えきれないくらいに太い倒木の手前で僕を下して、「追いついたよ」と言った。

 おとうさんは少し考えたあと、ぼくに防御魔法をいくつかかけた。

「この倒木の先に魔物がいる。君はここで隠れてるんだ。多少なら怪我をしないような防御魔法をかけたけれど、もし何か来たらすぐに知らせるんだよ」

 ぼくはこくこく頷いた。

「じゃあ、行ってくるよ」

 おとうさんはそう言うと軽々と倒木を飛び越えた。すぐに、おとうさんが魔法を放つ音や、剣で斬りつける音、熊の唸り声が聞こえるようになった。

 ……隠れていろと言われたけれど、ぼくはどうしてもおとうさんの戦っているところが見たくなって、そろそろとそこから移動した。


 ──おとうさんは、とうさんとは違って、踊るように剣を振るう剣士だった。

 時折魔法を混ぜながら、まるでダンスでもしているように剣を振り回す。爪や嘴を掻い潜り、梟熊を翻弄し、剣で斬りつけ、少し離れた隙に魔法を詠唱し、また剣で斬りつけて……おとうさんが流れるように動くと、梟熊がそのたびに少しずつ弱っていった。

 ぼくは、おとうさんの動きにすっかり目を奪われていた。

 とうさんやにいさんだったら、爪を剣ではじいたり前足を斬り落としたり、どちらかというと剣の力で押すような戦いかただったんじゃないかと思うけど、おとうさんはあまり力を入れているようには見えなかった。力よりも身のこなしや魔法との合わせ技で戦っているようだ。


 そうやってひたすらおとうさんの戦い方を見ているうちに、梟熊の動きはどんどん鈍くなっていって、とうとう倒れて動かなくなった。おとうさんが梟熊を倒したんだ。

 ぼくが「おとうさん!」と呼んで走り出すと、おとうさんは汗だくで息を切らしながら、「さすがにひとりだときついね」と言って笑った。あちこち爪や嘴がかすった傷はあったけど、大きな怪我はないようだった。

「急いで、もう一仕事しようか」

「もう一仕事?」

「そう。梟熊の身体で、売れるところを取っておこう」

 ぼくが首を傾げると、おとうさんは、魔物の身体の中で魔道具の素材になるようなものを持って行って町で売ると結構いい収入になるんだよと教えてくれた。貴重な薬の材料になるものもあるらしい。

 梟熊はさほど珍しい魔物じゃないけど、それなりにいい値段で買い取ってもらえるんだそうだ。おとうさんは、魔物退治とか護衛のほかに、そういうものでも生計を立てていたらしい。


「今日はもう野宿だな。さすがに疲れたよ」

 おとうさんはやれやれと息を吐いて、首をこきこきと鳴らすように左右に振った。梟熊から取ったものを魔法を使って下処理し、手早く持ち運びできるようにまとめあげる。ただ、この近くで野宿をすると死んだ梟熊を目当てに他の獣が来るかもしれないから、離れる必要があるのだ。「それに、あの殺されてしまった人の遺体もなんとかしておかないとね」と、おとうさんはぼくを連れて来た道をまた戻り始めた。


 戻りながら、ぼくはおとうさんは魔法剣士なのかと尋ねてみた。おとうさんはぼくを見て、「残念だけど、違うんだ」と言った。

「僕に剣と魔法を教えてくれた人は魔法剣士だったけれど、僕は魔法剣士としてちゃんとした訓練は受けてないんだ。だから、魔法を使える剣士とか、剣を使える魔法使いとか、そんなところになるんじゃないかな。中途半端なんだ」

 おとうさんは苦笑する。

「君の部屋で魔法剣士の本を見たとき、ちょっと驚いたんだ。君は僕が魔法と剣両方使うなんて知らなかったはずなのに、なんで魔法剣士の本があるのかなと思って。

 ……これが、アロイスの言う、血は争えないってやつなのかな」

「おとうさんも魔法剣士が好きなの?」

「好きかどうかはわからないけど、今の戦い方は僕に合ってるんじゃないかな」


 遺体を残してきた場所に戻るころには、日暮れが近くなっていた。

 おとうさんは急いでその人の身元がわかりそうな荷物を集め、遺体が荒らされないようにと保護の魔法をかけた。

 そこからさらに少し離れた場所で野営の準備をし、軽い晩御飯を食べて、ようやくぼくたちは落ち着いた。ぼくもおとうさんもすっかり疲れてぐったりしていた。

「さすがに不寝番は無理だから、結界魔法と探知魔法を仕掛けておくよ。だから、ここを絶対に離れないでね」

 おとうさんはそう言って魔法を詠唱し、これで獣は近づいて来れないから大丈夫と、ごろりと横になった。それから、「こっちで一緒に寝よう」とぼくを手招きした。ぼくがそばに寄ると、手を伸ばして引き寄せて、やっぱりあったかいなとお腹に抱え込んだ。

 ちょっと窮屈だったけど、ぼくもすぐに眠くなってそのまま朝までぐっすりと眠ってしまった。


 翌朝、目が覚めると既におとうさんは起きていて、朝御飯を準備していた。

「おとうさん、おはよう」

「おはよう、調子はどうだ? ちゃんと寝られたか?」

「たくさん寝られたと思う」

「そうか、水を汲んであるから顔を洗っておいで。朝御飯を食べたら、すぐ村へ戻ろう」

「もう戻るの?」

「うん、あの人と梟熊のことを知らせないとね」

 帰りは、おとうさんの転移魔法を使うんだという。もうここには印をつけたから、転移魔法で往復もできると言っていた。来るときはあんなに時間がかかったのに、魔法だとあっという間だねと言うと、おとうさんは、時間がかかったほうが楽しいんだけどねと肩を竦めた。


 村へ帰ると、いろいろと大騒ぎだった。

 おとうさんが伝言魔法で伝えていたけど、かあさんは顔を見るまでは心配だったみたいで、無事でよかったと何度も言っていた。

 おとうさんは、とうさんと一緒に村長のところへあの人の遺品を持って行った。梟熊を売ったお金はあの人の家族に渡そうと、おとうさんは言っていた。そのあとも何度もあの場所まで転移魔法で往復したり、おとうさんは夜まで忙しそうにしていた。


 その夜、ぼくとおとうさんは、またあとで狩りをやり直そうと約束した。おとうさんは意外に野外生活が好きみたいだ。



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