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れは、まだ神と人との距離がそう離れていなかった頃の物語。
それは、まだ天と地、地と海の境界が曖昧だった頃の物語。
その昔、宇宙を、大地を創った神が居た。すなわち兄。
その昔、生きとし生けるものを創った神が居た。すなわち弟。
彼らは長い時間の間に、ただただ暇を持て余すようになった。
そんな兄弟のある暇潰し。
「弟よ。」
「何だい兄さん。」
「どうも最近暇ではないか?」
「いつもの事だろう?そんなに暇なら僕たちで創った八百万の神々とでもお喋りしてきたらどうだい?あいつら、それぞれ個性が強烈で飽きないと思うんだけど。」
「あいつらは駄目だ。元々神でも何でも無かったせいか、口を開けば二言目には『神とはかく在るべし』だからな。神格って物を尊重しすぎて大仰に扱うあまり、その中から抜け出せなくなった阿呆ばかりだ。」
「じゃあどうするって言うんだい?ここには現の様な娯楽はないよ?」
「ふむ…この世界を創って暫く経つが、この現界を見るのもいい加減飽いてきたな。」
「そう言って前回のように気まぐれで滅ぼさないでくれよ。いくら僕らが創ったって言っても、彼らだって生きているんだ。」
「む…。前回は軽率だった。しかし、あの程度の大雨で滅んでしまうとは吃驚したものだが。」
「まあ箱舟とか言うのに乗れたのが居たみたいだから何とか事なきを得たけどさ。」
「今回は自重しよう。」
「それがいいよ。…まあ兄さんの言う事も最もだけどさ。ここ最近は特に退屈だ。」
「そうだろう。話し相手すら居らんのはいささか退屈が過ぎると言うものだ。」
「そうだね、うーん。」
「何か無いものか。」
「そうだ兄さん、いい事を考えたよ。」
「何だ。俺が思いつくものよりはお前が思いついた事のほうがいくらかマシだろう。言ってみろ。」
「話し相手が欲しいなら、沢山居るじゃないか。それこそはいて捨てるほど。」
「人間を呼ぶと言うのか?」
「そういう事。彼らが他の動物が何を考えているのか解らない様に、僕らも彼らの考えがいまひとつ理解できない事がある。」
「それは確かに。同じ人間同士争ったり、それぞれがそれぞれの神を奉ったりと節操がないな。そこが面白い所でもあるのだが。」
「だから試しにここに連れて来て話を聞いてみればいい。案外面白いかもしれないよ。」
「そうだな、いい考えかもしれん。どれ、適当に見繕ってくるとするか。」
こうして彼らの前に数多の人間が幾度と無く集められた。
しかし、結果は惨憺たるものだった。
一度目、ただ地に付して頭を垂れ、許しを請うばかり。
二度目、彼が信ずる神とのあまりの違いにただただ絶望した。
三度目、状況について来られず、廃人となった。
四度目、今度は団体で数十人連れてきた、しかし話が通じず、愚かにも剣を向けてきた。
……………………………。
「駄目だな、まるで話が通じない。」
「彼らと同じ言語を使ってるはずなんだけどねぇ。」
「やつらの反応を見るのはそれなりに面白かったとは言え、大体似たり寄ったりだったな。」
「中には悪魔だなんだと罵ってくる輩も居たけどね。」
「しかし、会話が噛み合わないことには結局長続きしない。」
「そうだね、いい考えだと思ったんだけれど。どうも彼らは僕たちを過大評価しすぎだよ。」
「全くだ、これなら新しい世界でも創っていた方が幾らかマシと言うものだ。」
「おお、良いかもしれないね、久しぶりに創生でもするかい?」
「ふむ、随分久しぶりな気がするな、暇つぶしには丁度いい。」
「この世界を創ったっきりだったからね…。」
「また宇宙から創るか?」
「それもいいけど、この現世に別の星を作るってのはどうだい?いつか彼らが出会う事を夢見てさ。」
「なるほど、それも良さそうだ。」
「今度は兄さんが生き物を創ってよ、僕が大地を創るからさ。」
「交代か、良いだろう。久々に充実しそうだな。」
「そうだね、ところでこの星からの距離は…。」
こうして彼らは手遊びに新たな世界を創る。
その世界に命が生まれ、死んでゆく。
命は繋がり、後世へと続く。
終わらない争いと調和の繰り返し。そこで磨かれる技術と文化、そして思想。
それはさながら原石が一粒の宝石へと磨かれてゆく様を描くように。
そして彼らはそれを眺め続ける。飽きるまで、心ゆくまで。
これは、まだ神と人との距離がそう離れていなかった頃の物語。
これは、まだ天と地、地と海の境界が曖昧だった頃の物語。
これは、気まぐれな兄弟の永久に続く物語。
そして、神隠しの一つの起源。