表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人よ、龍たれ  作者: 茂上 桔梗
第一章 黄巾党【宗田颯志】
9/10

PART5 夏川惇-1




 あつしは、いつもと変わらずに生活を送っていた。

 惇はこれ以降も颯志を信頼し続け、颯志に従い続ける。

「俺にはわからん。颯志にもわからんかもしれん。ただ、颯志は俺より正解に近い場所に必ずいる。だったら、颯志に従えば正解に近い行動をすることができる」

 俺の王は颯志で、颯志は俺たちの王だ。

 そう確信する彼には、ただ待つことができた。誰よりも、迷いなく。

惇も王の資格を持つ人間であった。しかし、自分より優れた王を見続けた人間は決して王にはなれない。

 惇にとって、それは不幸ではなかった。




 惇は颯志の指示通り、素早く敵の戦意を消失させて俊生たちの援護に向かっていた。

「打ち殺せ!」

 惇の怒声は味方の士気を高揚させ、敵の士気を挫いた。腰の引けた敵を前のめりの味方で打ち殺すのは容易く、それでも胸を張って向かってくる数人は惇自身で殺した。

 惜しい、という思いはあった。度胸のある人間、美しさを知っている人間、強さが美しさであると理解している人間。その類の人間は、強い。ここまで生きながら、強くあろうと、美しくあろうと自分を磨いてきたのだ。そして、これからも強くなっていっただろう。

 敵が視界に入った瞬間、そう思う。しかし、次の瞬間にはその考えは切り捨て迷いなく敵を斬り捨てる。

 その姿を見た味方はさらに勢いづき、敵は逃げさった。その混乱の中で現れた伏兵Aによって、完全に恐慌状態となり、散らされた。

 俊生側へ到着し、まだ士気の衰えないまま兵も惇もそれ(・・)を見た。が、気焔は消火され、それぞれの意識の中は混乱した。

 ひとしが鬼のような顔で笑いながら、敵を千切り飛ばしていた。

 ジンさん! と惇の部下が声をかけようとしたが、その声は喉から出なかった。

 殴られた敵は、物理の常識を越えて飛んでいき、蹴られた敵は骨の一部がなくなったように折れ曲がった。

「ハハハハッハハハハッハハハ! ハハハハハハッハハハ!」

 惇は、自分の感情が把握できなかった。

 そうか、俺は混乱しているのか。そう思い当たるまで、いくらか時間がかかった。仁は本当に楽しそうだ。味方は委縮している。仁が敬われるのは、誰にでもわかる強さがあるからだ。仁が慕われているのは、誰にでもわかる欠点があるからだ。暴虐は強さとも弱さとも分類しえない。別の数直線で表すべき何かだ。

 敵はもう残り少ない。それを確認した後、いくらか冷静になれた。勝つこと。第一目的は見失わない。仁は妙なことになっているが、味方を殺してはいない。こちらの兵は死んでいないだろう。勝てる可能性は高かった。

 では、今俺が勝利のためにすべきことは何か。

 ゆるりと戦場を観る。

 味方は仁をただ見ている。敵は悲鳴を上げながら仁へ襲い掛かっている。一人、それをニヤつきながら見ている男がいた。

 状況も、何が起きているかもわからなかった。仁もおかしいが、敵の様子もおかしい。大半が逃げ出して然るべきだった。それが、仁へ向かうのをやめようとしない。そして何より、学ランに金バッジをつけた男。

 惇は、自分のやるべきことを理解した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ