PART2 夏川俊生―1
俺たちは強い。
そして颯君は、神に愛された子どもだ。
それは、物心がついた頃から俊生が思っていたことだった。それから約十年間、今は己を鍛える時と思い定めて、修練に励んできた。
暴動の鎮圧から、一か月が経った。その間、颯君はずっと家にこもっている。
惇くんと仁だけが、何度か呼ばれて会った。
落ち込んだ様子だったかと俊生が訪ねると、
「考えこんでいるようだったが、沈んでいるわけではなさそうだ」
と、惇は答えた。いつもの、豪放かつ爽やかな笑いを上げていたという。
昔から颯志は、わからないことなどないような人間だった。知らないことに出会えば、すぐに調べて自分のものにする子どもだった。しかし、あれ(・・)が調べてわかるものではないことは、調べなくともわかる。考えるしかないのだろう。
首領を追い払い、暴動鎮圧後に颯志が見せた顔を、俊生は今まで見たことがなかった。
あれ(・・)に最も長く接していたのは、俊生である。
思い出して、俺も呼ばれるだろうかと、思った。
ガソリンの後、火矢を放った。しかしガソリンが撒かれてすぐに、敵は下がった。被害はそう多くないだろう。
――早すぎる。敵は、さらに一つ離れた通りへ向かったようだ。
俊生はビルから降り、消した数を数えるように命じた。自身は、惇くんと連絡を取る。互いの状況を報告しあい、感触を述べた。
「俊生、敵の動きはどうだった」
「颯君予想より、だいぶ速かったよ。真っ当に戦えば、こっちにいくらも死人が出そうだ」
「俺の方は、予想の範疇だった。敵後方の伏兵Aに後ろから襲わせようと思うんだが」
少し考えて、答えた。
「伏兵Aは、そっちに回した方がいいと思う。というより、こっちに来させれば、死ぬ可能性が高い気がする」
「……わかった。多分、颯志は伏兵Bと俺、伏兵Cとお前で挟撃させるだろうが……」
「BとCは洪太一人の指揮でしょ。どっちかに配置するなら、洪太をCの指揮にして、こっちに回してほしい」
「わかった。颯志には俺が連絡する。俊生は洪太に連絡して、そう動く準備をさせてくれ」
聞いて、少し安堵する。活躍もしたいが、颯君の足を引っ張ることは絶対に避けたい。
偵察に行かせた兵が、戻ってくる。遠回りした敵は、あと十分もすれば伏兵Cと出会う位置まで来ているらしい。
十四人のうち、弱い方から四人残した十人で、後を追った。
途中で颯君の指示があったので、五人を戻らせた。
敵の後ろ姿が見えたとき、再び洪太に連絡を入れた。
「追いついた。行けるか?」
「OK! ちょうどこっちも見えたところだ!!」
「どちらが先に動く?」
「そっちは五人、俺らは十人。相手は百人以上だろ? 俺が行くよ」
「……わかった」
「それから、トシ。罠を移動させてきた。途中で落とすから、巻き込まれないようにしてくれ」
少し驚いて、喜んだ。正直、死人を出さないですむか、疑問だったのだ。
「ありがたい。気をつけろ、多分強いぞ」
「聞いてるよ。じゃあ、すぐに会うかな?」
そうだなと答えると、携帯は切れた。
敵の進軍が少し遅くなり、洪太と敵の衝突を感じた。空に矢が上がり、敵へと降った。
「行くぞ」
他の五人に声をかけ、駆ける。
洪太たちの喊声が上がるが、俺たちは声を出さない。無言で、敵の後姿へと近づき無言で斬りつける。すでに木刀ではない。刀とナイフだ。
後ろの敵から一人一人と殺していき、決して生きている敵の前に出ない。
そうして、俊生だけで十人、五人で計三十人は消した。人体の急所は、体の前面背面に関わらず、しっかりと教え込んだ。
敵の死に際の声で、生きた敵もこちらに気づいた。徐々に、振り返る数が多くなる。
さらに十人を消した後、味方は下がらせた。俊生も体ごと後ろを向き、全速力で逃げる。
視界の端で罠の大岩が、落ちる。