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人よ、龍たれ  作者: 茂上 桔梗
第一章 黄巾党【宗田颯志】
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PART1 宗田颯志-1




 あれは一体何だったのか。それが今、強く颯志の興味を引き立ていた。

 自分と、自分の力は理解しているつもりだった。

敵を知り己を知らば、百戦危うからず。

 当然、敵についても調べていた。突然のように見えた反乱も、時期と勢力まで予見していた。颯志にとっては、予定調和の暴動。敵はただの、ゴロツキ。伏兵三か所に罠五か所、まともに叩く場面では、豹が鼠を狩る如き戦況にしておく、その予定。

 しかし最初から躓いた。首領が、変わっていた。最近力を伸ばしている宗教団体。その幹部の一人であったことが、後から調べてわかった。




 颯志は戦闘中、廃墟のビルに立っていた。

 戦場全体が見える程度には高く、双眼鏡でそれぞれの戦闘を細かく観ることができる程には、低いビル。

 予想した通り敵は拠点の廃墟から、予想の時間に出てきた。前夜のうちに確認させておいたので、これは外しようがなかった。

 しかし、颯志は双眼鏡で観ながら、喜んでいた。これまで地図を視ながら綿密にシミュレーションした結果が、今日出るのだ。ここから、今の自分のできる限りでつくった策が炸裂する。その未来を想像して、ワクワクしていた。

 最初の罠で、三分の一まで減らす。網付の落とし穴が、道路の十メートル四方に作ってあった。城までは十分遠く、敵の拠点となっているビルからは察知されない距離。まだ、敵の警戒心が満ちない場所だった。迂回する意味なく、ただの通路でしかない場所だった。そこでかかった敵の残りが後退しようとした時、道路を挟むビルの上から、退路にガソリンをばらまいて火矢で燃え上がらせる。

 そこで、火から逃げて四散する敵を、木刀を持たせてビルに隠れた三十人が、襲い掛かる。

 戦意のない人間にのみ攻撃し、立ち向かってくる敵からは全力で逃げる。数が減るごとに、戦意は挫けていくだろう。数人残った敵は、数十人で袋叩きにすればいい。颯志自らが訓練も行ったため、それぞれの戦力は高い。

 それが、最初にして最大の策。ここで決まれば、全てが上手くいく。

 ――しかし敵は、罠がある通りの直前で、唐突に曲がった。事前に知っていなければ、できない動き方。最初は内通者を疑って、すぐに打ち消した。作戦の全容を知っているのは颯志だけ。

 それぞれの作戦の動き方を知っているのは、部隊を指揮する四人の従兄弟だけだった。

 すぐに、携帯で指示を出した。

あつし! 避けられた! 予定の反対側を通る!」

「……わかった」

 惇は短く答え、颯志が指示を出す前に携帯を切った。

 惇と道路向かいのビルに布陣する俊生としきにも、同様に知らせた。俊生も、すぐに切った。

 二人とも、信頼に足る仲間だ。何をすべきか、自分で判断しただろう。

 少ししてガソリン、直後に火矢が浴びせられ、敵が燃えるのが見えた。良いタイミングであった。百人は燃えたはずだ。

 次善の策は成功だ。もし、ガソリンが届かないほどビルから離れた場所であれば、最も人を配置した場が無駄になった。

「俺たちも向かう! ジン、出ろ!!」

 そわそわしていたひとしに呼びかけ、颯志自身も、ビルの階段を駆け下りた。

 待たせていた車に乗り込み、移動する。

「惇、どの程度消せた?」

「こちらは六十人ほどだ。俊生の方は、三十人ほどらしい。燃やせなかった敵は、さらに一つ離れた通りを走っている」

 一度で把握できるよう、俊生にも聞いていたらしい。ありがたい。

「敵はまとまっているのか?」

「意外にも。逃げ出した敵は、後ろの伏兵に潰させている。今のところ、こちらは一人も死んでいない」

 その声に安堵する。十人死なせれば、水の泡なのだ。

「わかった。伏兵BとCを移動させてくれ。その後、強い奴、特に防御の上手い奴を五人選んで、お前も出ろ」

「伏兵と俺で挟み撃ちにする、でいいか?」

「そうだ。俊生にも同じように伝えてくれ」

「わかった。颯志、お前は?」

「首領を探す。惇、お前はどう思う?」

「俊生の方にいた敵は、俺の方より火から下がるのが速かった」

 俊生の方にいる可能性が高い。

「そうか。お前の方は戦意を挫くだけでいい。タイミングを見て俊生の方に来てくれ」

「了解した」

 携帯を切る。

 助手席の仁を呼んで、

「仁、お前が殺せ」

 振り向いた仁に、サバイバルナイフを渡した。

「えっ、俺? だ、誰をさ?」

 首領だ、と答える。仁はポカンとした後、あたふたと慌てふためいた。

 かわいらしくもあるが、そんな場合でもない。

「いやいやいやいやいやいやいや、無理だよ!! なんで僕なのさ! どこにいるのさ!」

「わからん」

「わからないの!?」

 不安そうにこちらを見る仁に、

「今はまだ、ってだけだ。すぐにわかる」

 と、微笑む。

 少し安心した顔をして、それを悲しそうな顔で隠す。ちょろいだけではないが、それにしてもちょろい。有能な人間の下についている限り、それは仁の美点だ。

 俊生側の、隠しルート――、というわけではないが、その道を行かせた。

 ビルの上とビルの上を跳んでいくという、道なき道だ。身体能力の高い馬鹿だけが通ることができる道。

 一度、敵の最後列に行かせ、首領が見えれば走って殺すぜ作戦。

 不思議なことに、仁は颯志と同じ程に強かった。惇や俊生から、頭三つは出ている。勘の良さは、颯志にも勝るとも劣らない。組手で颯志の相手になれるのは、仁だけだ。

 颯志を例え凡人百人が襲い掛かろうと、颯志を殺すことはできない。三つも小さな傷を負わせれば、褒めるべきだ。それが可能なほどの才を生まれ持ち、それがいつでもできるほどの鍛錬を、颯志は重ねてきた。不意打ちを一時間でも続けなければ、誰も颯志は殺せない。仁も、同じだ。

 惇や俊生は、下から恐れられつつ敬われる。仁はジンさんと呼ばれ、侮られつつ敬われ、愛される。その違いも、しっかりと把握して使わなければならない。

 今、仁は孤立させて使うべきだ。仁の危機を見れば、俊生の兵は仁を助けに動くだろう。そこで兵に五人も死なれれば、この戦いは敗けだ。

 何よりも、兵を死なせないこと。城に入られることさえ、二の次でいい。もちろん両方、させる気はない。

 颯志も敵の前から、俊生の方に向かう。惇なら、兵を死なせずに相手を追いやることはできるだろう。首領側の敵が、強力なはずだ。




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