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7

 数日後、ふと思い出したようにクローが言い出した。

「そう言えば……麦でも良いんじゃないか?」

「また麦かよー……」

 凄く嫌そうな顔でコウが答えた。

「オレ様は評価する。大麦しか食べるものが無いなら麦飯なのだ」

 リーンは真顔で主張した。

「いや……不味くは無えけど……何ていうか……アレを米の代わりと言われても、何だか騙されている気分になって腹が立つ」

 よほど嫌なのかコウは譲らない。

「お前らは甘いのだ! いいか、常に小麦が……常にパンが食えるわけじゃないのだ! 小麦が無いときはアレだ……大麦を挽いたのを粥にして食うのだぞ?」

 癇に障ったのかリーンの語気は粗い。

「なら……大麦でパン作ればいいんじゃないか?」

 クローがさり気なくとりなそうとしたが――

「大麦だけだと上手くパンが作れないんですよ」

 申し訳無さそうにイサムが訂正した。

「数年前の凶作のときは大変だったのだ……来る日も来る日も毎日大麦を挽いた粥で……」

「あの年は辛ろうございましたね、坊ちゃま……ネーション家が傾きだした頃でしたし……」

 リーンとヴィヴィアの主従は思い出したのか涙にくれはじめた。

 リーンは異世界に貴族の子供として転生したのに、それなりに辛酸を舐めているようであった。

「それを考えれば麦飯は良いものだ! オレ様は麦飯を思い出させてくれたことを感謝しているのだ!」

「えーっと……何ていうか……すまん」

 コウは大人しく謝罪した。誰にでも触れてはいけない過去があるものだ。

「あれはあれで……米の代用品と考えず、ああいう調理法と考えれば美味しいですよ」

 イサムはそれとなく話をまとめた。

「そうだよな。それに正直、異世界舐めてたかも……って、ちげぇよ! 麦だよ!」

 納得しそうになったクローは慌てて話を引き戻した。

「麦がどうしたんだ?」

 いぶかしげにコウが訊きなおした。

「いや、ほら……麦味噌ってあるじゃないか。あれって麦で造った味噌ってことだろ? なら大豆が無くても味噌は造れるんじゃないか?」

「あー……あれは原材料の一部……というか、大豆が半分、大麦が半分ってところですね。麦だけで味噌が造れるかは疑問です。試す価値はあると思いますけど。それに大麦ですが……炊飯して美味しい大麦への品種改良は視野に入れても良いかもしれません」

 たちどころにイサムが疑問を解決する。

「そんな気の長いことすんより……稲を入手した方が良くねえか?」

 大麦には賛成しにくいのかコウが言った。

「いずれは稲か米の入手はしようと思ってますが……入手できるのはインディカ種の可能性が高いんですよね。あー……いわゆる外米ってやつです」

「あれかぁ……俺、あれは少し苦手かもしれん」

 クローは苦い顔で言った。

「インディカ種もそれにあった調理法なら凄く美味しいんですけどね。でも……まあ……僕らが欲しい米とは違いますから」

「麦飯と外米なら……麦飯の方が日本の米に近いかも」

 リーンは納得して肯いた。

「それならダイレクトに日本の米と同じのを狙ったほうが良いだろ? まあ、俺は外米でも全然平気だけどよ」

 コウが疑問を口にした。

「日本の米……ジャポニカ種は僕らの世界でも特殊と言いますか……突然変異レベルの鬼子なんですよ。……存在しない可能性もあります。あっても僕らの世界のものとは少し違うでしょう。なので、いずれは品種改良に手を出すことになるでしょうから……ノウハウがあっても良いかと」

「なるほどな。米もあれだが……大麦が美味しく食べれるようになれば、この世界の人も助かるしな。考える価値はあるな」

 クローは思うところあるのか何度も肯いた。

「麦での味噌造りを試すなら……麹の手配を考えないとダメだな」

 コウが味噌の方へ話題をもどした。

「麹かぁ……どうすりゃ良いのだ?」

 リーンの言葉は全員の気持ちを代弁するものでもあった。

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