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「次は麹だな!」
コウは議題を変えた。
「麹ってなんなのだ?」
「説明が非常に難しいのですが……麹菌ですね、簡単に言うと」
「ああ……醤油はともかく、味噌は発酵食品って言うもんな。何かしらの菌がいるよな」
とりあえずイサムの説明に納得する三人。しかし、すぐに当然の疑問が生じる。
「で、それはどうやって入手すんだ?」
代表してコウがイサムに質問した。
「だから、そういう風に『全知』は――」
「あー……質問が悪かったな。例えば俺たちの世界ではどうしてたんだ?」
機転を利かしてクローが訊きなおした。
「種麹屋さんという業者がいて、そこから買うようです」
「核心に近づいてきたか? じゃあ、種麹屋が造ってんだな。種麹屋はどうやって造ってんだ?」
コウが流れをつないだ。
「種麹屋さんは元々持っていた麹を培養して……増やして販売しているようです」
「んあ? その増やす……元々の麹は?」
難しい顔でリーンが再び訊きなおした。
「それは先祖代々伝わったとか……質の良い麹を買い取ったとかのようです」
段々と想像がついてきたのか……クローがもう一度掘り下げる。
「その先祖だとか……売った人はどうしてたんだ?」
「その先祖や売った人も……要するに誰かから麹をもらったようです」
全員が無言になった。
しばらくの沈黙の後、クローが口を開いた。
「どういう方法か解からないが……日本人の祖先の誰かが麹ってのを偶然発見して、それを脈々と育て続けたってことか?」
「……ちょっと待ってくださいね。少し深く潜ってみます」
そう言うとイサムは目を閉じた。
どういう仕組みなのか彼以外には解からないが、より正確で細かい知識を探しているのだ。
三人が固唾を飲んで見守っていると――
「解かりました! 稲麹です! 稲に直接麹菌がくっつくと黒っぽく変色します。それを稲麹だとか稲魂と呼ぶそうなんですが、要するに目で見える麹菌の塊です。それから麹菌を培養したようです!」
目を開けてイサムは期待にこたえた。
「おお! 流石は俺たちのブレイン!」
「やっぱり『全知』は凄いな!」
コウとクローがイサムを褒めちぎる。
「じゃ、次は稲なのだ!」
リーンがニコニコした顔で言った。
「……稲?」
三人は異口同音に言った。まるで悲鳴の様だ。
「稲の原産地は?」
切羽詰った表情でコウはイサムに問いただした。
「諸説ありますがインドや東南アジア、中国、日本……要するにインドより東側ですね」
胡椒ですら難しいというのに更に離れた場所だ。絶望的と言ってよかった。
「待て! 意外と穀物の伝播は起きる! 人類の基本だからな!」
一縷の希望に縋るようにクローは自説を披露した。
「中東でも米食は認められますが……稲作があったかどうかは不明です。インド方面から流れてきた米を食べることもある程度の可能性が……」
三人は黙り込んだ。リーンは理解していないのか――
「どうしたんだ、三人とも? 稲か? オレ様の魔法でひとっ飛びして――」
などと言い出す。
「はぁ……だから、それは……大豆の原産地に行くのと同じことだろ?」
クローが優しく噛み砕く。
「ああ……そっか……」
それで四人とも黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後、コウが宣言した。
「保留! これは保留にする!」
三人とも思うところはあるのだろうが……代案も無いのかその意見に従った。
「それじゃ……次は塩だな」
「流石に塩はあるのだ」
「味噌はそれで全部ですね。醤油はあと……水です」
「……まあ、水はあんよな」
乾いた笑いがその場を支配した。