表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で味噌と醤油をつくろう!  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/62

58

「……まだ用意してあんのか?」

 流石に呆れた顔でコウは言った。

 厨房女中たちが鍋掴みを両手に、バケツのような何かを慎重に運んできたからだ。

「気をつけてください。あれは熱いです。触るのもだめです。火傷します」

 真剣な口調でイサムが全員に注意を促した。

「これは……七輪か? ああ、じゃあ次は俺だな」

 七輪に驚きつつも、クローは理解したようだった。

「嬉しいのだが……まだ、他のみなはしょうが焼きを食べ終わってすらいないのだぞ? それにそろそろお腹が一杯に……」

 リーンは複雑な表情で言った。

「大丈夫です。絶対にみんなは食べます。……クロー、お願いします」

 自信ありげにイサムは言った。

「おう。まあ、まずはコウとイサム、リーンの分な」

 クローはそう言いながら、何か丸いものを七輪にかけられた網の上にのせた。

「……え?」

 心底驚いた素の表情でコウは言った。

「なん……で?」

 リーンも驚いていた。

 七輪にのせられたのは握りこぶし大の……お握りだったのだ!

「……あまり期待されすぎても困るので最初に言っておきますね。米じゃないです。麦飯と……色々と混ぜたものです」

 残念そうにイサムは言った。

「お、おう……そ、そうだよな……でも……握り飯か! それに焼いてんだから……焼きお握りか!」

 徐々にコウは平静を取り戻したようだった。

「麦飯でもお握りができるのだな! すごいのだ……お握りなのだ……」

 感慨深げにリーンは言った。

 リーン以外の三人も一、二年ぶりではあるが、リーンにとっては十数年ぶりだ。例え麦飯であっても感動の一品といえた。

「全麦飯だとパラパラしすぎて握れないのですが……炊飯するときにでんぷんなどを添加して粘り気をあげてあります。小麦粉からでんぷんの分離が簡単だったので……まあ、改良版麦飯といったところです」

 焼きお握りを見つめながらイサムは言った。

 そしてクローがハケで焼きお握りにタレを塗りはじめた。

「これは……この匂いは味噌か?」

 驚いてコウは言った。

「そう言えば……味噌の料理がまだだったのだ」

 思い出したようにリーンも言った。

「味噌は少し熟成が足りなかったので……まあ、重要な料理だけにということに。このタレは味噌を醤油とみりん――まあ、白ワインで代用したものですが――で溶いたものです」

 そうイサムは説明しつつ、厨房のほうへ行ってしまった。

 コウとリーンはイサムが厨房で何をしているのか興味はあったのだろうが……黙って焼きお握りを見つめることにしたようだった。

 彼らはみな黙っていたが、一様に何かを考えている表情だった。

 彼らの恋人たちも何かを察したのか、礼儀正しく静かにしていた。

 お握りの焼ける小さな音が聞こえるほど静かだった。

 しかし、その静寂は優しい雰囲気を感じさせた。

「……もう良いかな? おーい、イサムー。そろそろだぞ」

 焼きお握りの面倒をみていたクローはイサムに声をかけた。

 その合図をうけて、イサムはお盆を持って戻ってきた。お盆の上には湯気が立ち上るお椀が三つ載せられている。

「……味噌汁か!」

 満足げにコウは言った。

「……さすがイサムなのだ」

 唸るようにリーンも言った。

「本日の締めの料理は……焼きお握りとお味噌汁です」

 厳かにイサムは告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ