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「ちゃ、茶色いのだ！」
「ああ！ 茶色だな！」
並べられた二品の料理を見てリーンとコウの第一声だ。
彼らの前には大きめの鉢に茶色い料理が二品あった。
一つは切り干し大根の煮物だ。
細長く切って干した大根を戻したものと細く切った人参を、醤油とみりんまたは砂糖で甘辛く煮た料理だ。大根と人参だけではさみしいと思ったのか、何か練り物らしきもの――竹輪か蒲鉾の類も一緒に煮てあった。
もう一品はきんぴらだ。
ささがき切りした牛蒡と人参を醤油とみりんまたは砂糖で甘辛く炒めたものだ。
そして彼ら二人だけでなく、他の者たちも驚いていた。厨房の見える食卓などもそうだったが、コース料理などという概念はまだない。このように一品ずつ給仕されるとはまったく考えていなかったからだろう。
「茶色だな！ うん、懐かしい茶色だ！」
食べながらニコニコと言うリーン。
「そうだな……弁当の色だ」
同じようにニコニコとコウも言った。
「弁当の色ってのは……個人差があるんじゃないか？ でも、意外ときちんとできたんだよな」
食べながらクローはツッコミを入れた。
「やはり、みりんと砂糖が欲しいですね。これも悪くはないのですが……」
考え込みながらイサムも続いた。
「これは……白ワインですか？ 白ワインをこのように使うとは……」
驚きの表情でケマは言った。
「うん。アルコールを飛ばした白ワインを少し煮詰めたんだ。ちょっと甘すぎる気がするけど……まあ、美味しいだろ？」
恋人に優しく答えるクロー。
ケマだけでなく、他の異世界人にもこの二品は好評のようだった。甘辛いというのが未知の味だったのだろう。
「坊ちゃま……これは野菜でございますか？ それにこの肉……これは何の肉でございましょう？」
不思議そうな顔でヴィヴィアは訊いた。
「これは大根なのだ。それにそっちのは竹輪か蒲鉾……これって魚だよな？」
自信がないのかリーンはイサムに問いただした。
「はい。切り干し大根は大根ですし、練物は魚です。切り干し大根は細く切って干しただけで、練物の方は白身魚を練って塩を加えて蒸したものですね」
イサムは解りやすく説明した。
その説明に異世界人は聞き入るばかりだ。切り干し大根はまだ理解の範疇とはいえるが……練物にいたっては未知の概念で未知の食感としか言いようがなかった。近い概念のムース料理がフランスに生まれるのは十七世紀のことだ。
「しかし……よく似たような切り干し大根が手に入ったな」
感心してコウは言った。
「……目に付いた大根を片っ端から試しました。一番近かったのがこれです」
あっさりとイサムは言った。
しかし、ヨーロッパに自生している大根は何種類もある。
「それは……なんというか……ご苦労様なのだ」
苦労が理解できたのかリーンは言った。
「筑前煮だとか……もう少し煮物の王道的なものも考えたのですが……色々と考えてこちらにしました。筍だとか蒟蒻が厳しいんですよね。他のメニューと被らないほうが良いですし」
難しい顔でイサムは説明した。
「いや、これは十分に満足できる出来だったぜ。次だ！ 次！ 待ちきれなくなってきた！」
コウはイサムを褒め称えつつも次を要求した。
「次は僕ですね。いま持ってきます」
