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異世界で味噌と醤油をつくろう!  作者: curuss


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「さきほどから考えていたのですが、僕らが麹菌を手に入れられたのは……もの凄い幸運なのかもしれないんです」

 考え込むときの表情でイサムは言った。

「でも……あそこで麹菌が見つかった以上、あそこに麹菌はいるんだぜ? いままで毒と早合点したものの中にも混ざっていたかもしれないし」

 クローは反論した。

「その可能性はあります。捕まえにくい程度で実は麹菌がありふれている。ただ、捕まえたときに他の有害な菌も混ざり易いだけ。でも、この異世界に味噌の親戚がないのがネックですね。ありふれているなら何かしらの方法で……それこそ単に偶然で麹菌だけ捕まることがあり得ます」

「あれなのだ。味噌がないから麹菌も珍しいはずだ理論なのだ」

「じゃあ、珍しいけどあの池にいた。偶然に麹菌が混ざったのは……クローとケマ姫のいちゃいちゃに耐え切れなくて、麹菌が麹室に逃げ込んだんだ!」

 しつこくコウが思い出せた。

「どういうことなのだ?」

「実はなクローの奴――」

 事情を知らないリーンにコウがある事ない事を吹き込んでいく。

「ん! ん! 珍しいけどいた。そして俺たちのような選別方法はない。だから麹菌が捕まえられた。そういうことだろ?」

 わざとらしい咳払いをしてクローは言った。

「……白鳥が助けてくれた。それでいいじゃないか。お前らは知らないだろうけど……この国では白鳥は幸運をもたらす鳥なのだ」

 現地人らしいことを言うリーン。

「それです! 白鳥です!」

 リーンの言葉に大声で応えるイサム。

「なんだ……珍しいというか……意外だな。イサムがなんと言うか……そういうオカルトじみた結論になんのは」

 意外そうにコウが言った。

「いえ、そうじゃなくて……本当に白鳥が助けてくれたのかもしれないんです!」

「どういうことだ?」

 なにか閃いたイサムにクローが訊いた。

「ここがフランスにあたる地域と仮定するなら、あの白鳥はコブハクチョウかそれに近い種類と思われます。白鳥は渡り鳥で越冬のために渡りを行います。僕ら日本人の感覚だと冬にやってくる鳥なんですが、ここでは逆に冬にいなくなる鳥です」

「ああ、そうか……冬に日本にいんだから、それ以外の季節に住む場所があんだな」

 暢気にコウが合いの手を入れた。

「コブハクチョウの場合、中国の東部や朝鮮半島まで越冬のために渡るんです」

「それはまた……どれくらい遠くなのだ? それこそ地球の反対側なのか?」

 呆れ顔でリーンは聞いた。

「直線距離で一万キロを超えますね。全てのコブハクチョウがそこまで移動すると限りませんし、この世界でどうなっているのか解りませんが……重要なのは白鳥はかなり遠くまで飛べるということです。そしてその辺りなら稲作が可能なんですよ! もっと近くのインドや中国南部で十分可能です。リーンが何度も言ったのが正しかったんです! 現地に行った者を探す……でも、それは人間でなくても良くて、運がよければ鳥だって良いわけです!」

 イサムの鼻息は荒かった。

「しかし……麹菌がありふれている場所を通過するくらいで十分なのか?」

 疑わしそうにクローが訊いた。

「白鳥が水鳥なのがさらに良いんですよ! 水鳥――鴨なんかも水鳥で渡り鳥なんですが――は水田に入ることが多いんです! 水田の近くには麹菌がたくさんいるでしょうからね。栽培種か野生種か解りませんが、稲に直接触れるくらいはありえるでしょう。もしかしたら稲魂に触れたくらいの……もしかしたら稲魂を付着させて帰ってきたくらいの幸運すら考えれます!」

 イサムは手がつけられないくらい興奮していた。

「それくらいの幸運が起きてりゃ……あの池に麹菌が繁殖していてもおかしくないか」

 コウが納得したように肯いた。

「いえ……もっと刹那の幸運なんじゃないかと僕は思います。これまでに白鳥が麹菌を運んできて、それが繁殖され続けた。それが起きるなら、この地にもっと麹菌が溢れているはずです。あの池はいわば麹菌の前線基地にして生産工場となるわけですからね。でも、そんなことは起きていない。だから、この幸運ですら麹菌はいつけないんです」

「でも、麹菌はいたのだぞ?」

 リーンは身を乗り出しながら、イサムに事実を思い出させた。

「ええ、ですから……クローたち二人は白鳥が帰ってきてすぐに見物に行きました。当たり前です。帰ってきた白鳥という珍しくて験の良いものを見物に行くのがデートの趣旨なんですから」

 イサムの言葉にクローはばつが悪そうな顔をした。それに申し訳無さそうな顔をして、イサムは話を続ける。

「見物した白鳥のどれかが実際に麹菌……解り易くするなら稲魂を運んできた張本人でしょう。身体に付着した稲魂は水辺に落ちるかして、繁殖を開始したのだと思います。当然、温度は適していませんから活発とは言いがたいですし、食料になる稲もありません。妥協の結果、適当になんとか食べれるものを食べて麹菌はがんばります。その生き残りを賭けた一大事の最中にクローが鉢合わせたんだと思いますね」

 イサムはそう説明を終えた。

「それはまた……なんつーか……すごい幸運だな」

 コウは唸った。

「それで麹菌たちはどうなっちゃうのだ?」

 やや脱線したリーンは続きをせがんだ。

「おそらくは全滅かそれに近い結果になるでしょう。なんとか死滅を免れた麹菌もこの地に応じた変化をするか……それこそ、希少種として細々と子孫を残すか……どちらにせよ、あまり良い未来とは思えません」

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