多分、日本一うるさくてうるさいクリスマス。
「うわぁああぁあどーしよ!ヤバイよ!」
「と、とととととと、とりあえずバレないようにしましょうっ!ぎゃああ!割れた!なんかさらに割れちゃいましたっ!」
「バカだろお前ぇ!さらに被害大きくしてんじゃねぇぇ!!」
……2階の部屋から聞こえてくるうるさぁーい声。×3。
その部屋の持ち主は僕。そう、僕なのだ。
持ち主さんはなにしてるかって?お客様のおもてなしをしようとキッチンに立ってたんだよ。
そして現在1階から2階へと移動中。
両手には飲み物やらお菓子やらを乗せたおぼん。全部僕を含めた4人分がちゃーんと乗ってる。
今日はクリスマス。12月25日。
世の中ではカップルがいちゃこらし終わってるはずの日。
だが!
そんなの僕、北見聡には関係ナッシーング!!
だって恋人とか居ないし。人生の中で一回もできたことないし。てか告白されるとかもないし。
そりゃあ?昨日から温泉旅行行ってる両親や、同じく昨日から愛するダーリンの元へ泊まりに行ってる姉さんはちょっと、ちょーっと羨ましいかなとは思うけど!
基本、『リア充?なにそれ、爆発して。』の考えですからね。非リア万歳ですよ!
ふっふっふ、いいさ。僕達は絶賛友情版リア充してるから!
恋愛版リア充はちちんぷいぷいのぷい……あれ、これ違う?まぁいっか。
てなわけで。独り身の僕は、同じく独り身の友達3人と『17歳独り身のみ参加可クリスマスパーティー!イヤッフゥ!シュビデュバァ!!』をする事になったんだけど。
あ、ちなみにイヤッフゥ!からは友達の内1人が考えたんだけどね。
とにかく今はそれはどーっでもい。
「…これはどーいう現状かな?」
「「「…あ……」」」
自室のドアを器用に足で開けた僕を待っていたのは、出てくるときとは見違えるぐらい悲惨な状態になったマイルーム。
とりあえず、ざっと見た被害を読者様に報告。
被害その1
綺麗にしたはずのクローゼットからはなぜか僕の服がぐちゃぐちゃにして押し込んである。(しかも制服も!シワになる!!)
被害その2
中学の卒業式のときの集合写真を入れたフォトフレームにはなぜかヒビが入っている。(僕の顔が真っ二つ…学年のアイドルの顔も真っ二つ……)
被害その3
教科書類がなーぜーか散らばってる。(しかもあちらこちらに。なんで本棚の上にまであるの)
被害その4
「……なーんで上半身裸なの?んで、なんで脱ぎ捨てた服が僕の学校の鞄に詰め込んであるの?ねぇ、どーゆーこと。これ」
なにこれ、頭おかしいの?
なんで脱いでんの?なんで詰め込んでんの?しかも学生鞄に?あぁ、だから教科書が散らばって…
「…説明して。今すぐ。はい、右から順に全員に聞いてくから」
僕は一番右に居る短髪左耳ピアスを指差す。
彼は林颯太。
ルックスは特上。トーク力が素晴らしい。いわゆる『クラスの人気者』的存在のアホの子。
ちなみに成績は下から数えればあっという間。
「アイ ドント ノウ」
カタコトの英語はさすがアホの子とでも言うべきだろうか。
じーっと颯太の目を見つめると気まずそうに視線を逸らされた。
「ホントの事を言ってください林サン?」
ブラックオーラを醸し出しながら尋ねるとすぐに口を開いた。
「いやぁ、ね?クリスマスならプロレスだろ!ってなって……ね?」
「…それで?」
ね?って何だよ。なんでクリスマス=プロレスなんだよ。
いろいろツッコミどころ満載だが、ここで止めると話が進まない。
先を促すと、颯太は薄情にも左に居る大人しめメガネっ子のことにバトンタッチした。
「はい、じゃしょーがないから続きは涼ね。
プロレスごっこしましょう、ってなって?それから?」
僕が名前で呼ぶと、涼こと藤谷涼はびくりと肩を揺らす。
普段は読書家で大人しくて影薄いキャラだけど、一旦テンションが上がるともう止められない。
笑いが止まらないのは当たり前。スキンシップが激しくなったり、声量がとてつもなくデカくなったり、終いには走り回ったりする。
多分今回もこの子が原因だと思う。この前のハロウィンパーティーでも暴走(まぁ、その、いろいろね)しちゃってくれてた。
「すいません、僕、またテンション上がっていろいろやっちゃって…」
「いろいろとは?」
「うっ…それは……祐也くんにパスです、すいませんっ…」
あら、これは颯太よりも酷い。
ほぼ収穫無しのまま、一番左にいる井坂祐也に焦点を合わせる。
「俺ぇ?!ちょ、元はと言えば2人だろーが!」
「…ごめんね祐也。説明してくれないと僕納得できないからさ」
「聡こえぇよ」
祐也に怯えられたとか気にしなーい。だって僕ってすっごい心が広いからさ!
いちいちこんな事でむくれてたらやってけないだぜー!
「はぁあ…わーったよ。ざっと説明するぞ?
颯太がプロレスごっこを提案。涼が壊れる。2人で暴れる。俺が止めに入る。でもぶっ飛ばされてクローゼットにダイブ。クローゼットのドア崩壊。パニックになった涼が何故か脱ぐ。颯太も脱ぐ。
俺も脱がされる。3人でパニックになってこーなった。
納得?」
いや、全然。
むしろ初っ端からツッコミどころ満載だわ。
まずプロレスが出てくる時点でおかしいわ。
でもまぁ、ツッコんでたら日が暮れるからやめるよ。冗談抜きで僕の堪忍袋がぶっちーんだからね。
「もう、いいよ。僕疲れたよ」
「「「すいません」」」
「疲れた僕に代わって、元通りにしてくれるよね?」
「「「はいっ!」」」
3人揃って元気のいい返事をしてくれたので、僕は優雅にお茶でもしておこう。
そう思って自室の真ん中にあるテーブル(かぁなりいろんなものに埋れてるけど)に座って、紙コップにジュースを注いでゴクゴクごくごくゴクゴフゥゥゥウ!!!!?
勢いよく吹き出した僕の後頭部に直撃したのは、バスケットボール。
「…なんでこんな硬いのが飛んでくるの?」
「えーと、クリスマスプレゼントを受けとって欲しかったみたいな?」
飛んできたものをよーく見ると、黒い線の部分に白いテープが貼ってあって、そこには『クリスマスおめでとぉおお!!』の文字が。
てかなんでこんなとこに書いたし。ちっさいし読みにくいよ。あと字汚いよ。
「なんでバスケットボール?」
「家にあったから!」
「死ね」
「すいませんしったーー!!」
全力で頭下げてるアホの子は置いといて、残りの2人の状況も確認。きっとこいつ(あ、土下座までしちゃったよ)のように遊んでるに違いない。
「…祐也?」
「ん?」
「その手に持ってるのははなに?」
「ハブ酒!」
ハブ酒とは。ハブのエキスが入ったお酒。
なんでそんなの持ってクローゼットさらに被害拡大させちゃってくれてんの。てかほんとにハブが入ってるよ。どこで買ってきたのそんなの、アマゾンかどっか?
「飲めないのになんで持ってきたんだよ。なんで持ってんだよ」
「家にあったから。あと、中のハブだけプレゼントしようと思って」
「全力でいらないよ」
アホの子2の祐也から視線をずらし涼を探す。
涼は結構真面目だった。真面目に散らばった教科書をかき集めてる。なんかさらに脱いでるけど。
何この子。脱ぎ癖あんの?
「涼、なんで脱いだの」
「あの、僕、プレゼント忘れちゃって…僕の服をプレゼントしようかと」
「帰りパンイチで帰る気?」
僕の言葉にハッ、とした涼は急にあわあわ。どもりまくって僕に助けを求めてくる。
「いや、服はいらないからちゃんと着てよ。僕が悪者っぽいじゃん」
「聡くん…!ありがとうございます!」
お礼言われることしてないけど。
まぁいいや。なんて思ってもう一回お茶を飲もうとしたとき、涼の方からガラガラガッシャーン!という音が。
「うわぁあああ!!ごめんなさいぃいい!!!」
「…あの、さ。何をやったら勉強机の上のものが全部落下するの?」
勉強机の上のものが全部落下した。うん、そのまま。
ゲームやら漫画やらパソコンやら…
あれ?パソコン?
「パソコンンンンンンン?!!!」
あぁ、myパソコンよ!怪我はないかい?! などと叫びながらパソコンに駆け寄ると、一応起動した。
ホッと胸をおろすと(おろす胸なんてないけど)、また、今度は前方からバスケットボール。それを間一髪で避けたら、祐也の持ってたハブ酒に激突。
すべてがスローモーションだった。
バスケットボールの当たったハブ酒は宙を舞い、空中で蓋が取れハブがこんにちは。
ということは?アルコールは重力に負けて落ちるわけで?
それはこっちに飛んできて僕にもかかったわけだから?必然的にパソコンにもかかるわけで?
数秒の沈黙の末、パソコンの電源ボタンを押すと、画面一杯に意味不明の数字の羅列。
「…あ。ハブ酒飛んでった」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「わ、わりぃ聡…」
「……とりあえず。一旦君達、死のうか?」
その後、3人の断末魔が聞こえたとか聞こえてないとか。