雨
雨……。
降り注ぐ雨が、俺の頬を伝い落ちていく。
背にした木からも、雨がシャツに染み込んでくる。
冷たい。
この冷たさを、俺は知っている。
この空を覆う雲の厚さを、俺は知っている。
これからまた、永い雨の季節がやってくるのだ。
それは神様の涙だと、村の人たちは言う。
笑うしかない。
災害にしかならないこの黒い雨を、彼らは疑いもせずにただ崇める。
その滑稽さに。
盲目的な彼らに、疑問という言葉は存在しない。
いや、違うな。
彼らだけではない。
俺だってそうだったのかもしれない。
認めたくなかっただけかもしれない。
雨が全てを奪っていく、そのことに。
雨という存在の恐ろしさに、俺は気付いていないふりをしていたに過ぎない。
きっかけなんて、本当に些細なものだ。
ふとしたことから、俺は気付くことができた。
彼らとは、たったそれだけの違いなんだ。
本当に、ただそれだけの……。
だから理解している。
俺が彼らを責めることは筋違いであることも。
俺のこの状況は自分で作り出したということも。
……………………。
……………………。
……………………。
ただ、今になって思うことがある。
気付かなければ幸せでいられたんじゃないかって。
今も変わらない自分でいられたんじゃないかって。
俺の日常は、変わらずあそこにあるんじゃないかって。
無くしてしまったが、俺にとっては全てだった。
陳腐な言い方をすれば、幸せだった。
頬を伝う雨があふれる。
どこか遠くから、ぼんやりとした明かりが差し込んだのが見えた。
俺は……間違っていたんだろうか?
冷え切った身体を起こしながら、俺はまた、森の奥へと足を進めた。
雨通路村の雨季は、まだ始まったばかり。