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雨降る村の俺と猫  作者: なかのひと
プロローグ
1/13

雨……。


降り注ぐ雨が、俺の頬を伝い落ちていく。

背にした木からも、雨がシャツに染み込んでくる。


冷たい。

この冷たさを、俺は知っている。


この空を覆う雲の厚さを、俺は知っている。

これからまた、永い雨の季節がやってくるのだ。

それは神様の涙だと、村の人たちは言う。

笑うしかない。

災害にしかならないこの黒い雨を、彼らは疑いもせずにただ崇める。

その滑稽さに。

盲目的な彼らに、疑問という言葉は存在しない。


いや、違うな。

彼らだけではない。


俺だってそうだったのかもしれない。

認めたくなかっただけかもしれない。

雨が全てを奪っていく、そのことに。

雨という存在の恐ろしさに、俺は気付いていないふりをしていたに過ぎない。


きっかけなんて、本当に些細なものだ。

ふとしたことから、俺は気付くことができた。


彼らとは、たったそれだけの違いなんだ。

本当に、ただそれだけの……。


だから理解している。

俺が彼らを責めることは筋違いであることも。

俺のこの状況は自分で作り出したということも。


……………………。

……………………。

……………………。


ただ、今になって思うことがある。

気付かなければ幸せでいられたんじゃないかって。


今も変わらない自分でいられたんじゃないかって。


俺の日常は、変わらずあそこにあるんじゃないかって。


無くしてしまったが、俺にとっては全てだった。

陳腐な言い方をすれば、幸せだった。


頬を伝う雨があふれる。

どこか遠くから、ぼんやりとした明かりが差し込んだのが見えた。


俺は……間違っていたんだろうか?

冷え切った身体を起こしながら、俺はまた、森の奥へと足を進めた。




雨通路(あまづろ)村の雨季は、まだ始まったばかり。


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