序章1
世の中には、科学では説明できないような物がたくさんある。
超常現象、オカルト、未確認生物、などなど。
子供の頃には、魔法が使いたいとか、ヒーローになりたいとか、そんな夢を持ったことだろう。
ただ、そんなものは、ほとんどの人間は信じてはいない。
想像、空想の世界、つまりSFやファンタジーの中だけの現象だ。
私もつい今しがたまで、そんなことは信じていなかった。
(……実際に体験してみると、結構来るよね、これ)
私は私立大学に通う4年生だった。
この不景気に内定を貰うのは容易なことではなく、受けた数、実に百社ほど。
やっと貰った内々定に、心躍らせて、友人と居酒屋で飲み、終電に乗り込んだまでは覚えている。
(ほんと、どうしてこうなった)
気が付くと、見知らぬベッドの上にいた。
上を見上げると、豪華な天蓋付き。
(どんなお金持ちの家だよここは。それに、自分の身体じゃないし)
着ていたリクルートスーツではなく、ネグリジェのような格好だ。
しかも身体が縮んでいる。というより、子供に戻ったというべきだろうか。
「あー、あー、うん、こえもちがう」
子供の、可愛らしい声が私の口から発せられた。
「ゆめじゃ、ないんだよね」
我ながら、かなり冷静でいられていると思う。もう直ぐ社会人だという精神がそうさせているのかも。
時計がないのでわからないが、かれこれ2時間くらいはごろごろしているだろうか。
誰も現れる気配がない。
でも、こんな豪華な部屋なんだから、使用人の一人や二人くらいはいるだろう。
そう思った途端、部屋の扉が開く。
入って来たのは使用人らしいメイド服を着た女性。
その使用人の顔を見た時、彼女の名前が頭の中に浮かんできた。
そして、その瞬間から、とてつもない情報量が、頭の中に飛び込んできた。
見えたのは、少女の記憶。
生まれてから今までのこの少女の十年分の記憶だった。
『お嬢様! 目を覚まされたのですか!!』
駄目だ、頭が痛い。クラクラする。
「あたまが、いたい」
『ああ、まだお休みになっていてください! 直ぐにお医者様と旦那様をお呼びいたします!』
慌てて退出する使用人を横目に、私はこの頭痛と戦うことを放棄して、再び眠ることにした。