二回戦 素手は槍に勝てるのか?
一年以上経ってしまいました……これから先もどうしよう……
一回戦が最終試合、ならば二回戦も同様だ。先に呼ばれたラザファムは、相手を待つ。
『さぁ、一回戦で華麗な戦いを見せたラザファム選手の次なる相手、それは……
王宮騎士団突撃槍部隊の精鋭、トスカン選手だぁー』
実況の呼びかけに応えて現れたトスカンという男は、
「いやいやいや、それ反則じゃね!?」
とラザファムがツッコミを入れざるを得ない出で立ちだった。
なにせ、甲冑姿。突撃槍こそ、試合用に穂先が木製ではあるが、盾は円形、大型のラウンドシールドだ。
「王宮騎士団、トスカン。いざ尋常に勝負!」
ラザファムのツッコミは完全に無視された。
カァン!と響くゴングの音も、どこか無慈悲さが漂う。
「防御力の差が尋常じゃないだろうがぁぁ!」
突撃槍の名の通り、その突撃は、馬に乗らずとも十分な破壊力を持つ。間一髪回避したラザファムは、片足を軸に素早くトスカンに振り返るも、
「おいおい、そんなのってアリか!?」
その相手も素早い方向転換を済ませ、しかも盾を構えている。簡単に背後はとらせず、仮にとれたとしても一瞬、その上盾まで……。
「あー、ラザファムのやつ、二回戦敗退かー。もーちょっと進むと思ったんだけどなー」
観覧席のアロイスは既に諦めムードだ。一応勇者枠のくせして、薄情な奴である。
「どうした、逃げ回るだけが能ではあるまい!」
「ええい畜生!相性の問題ってのもあるだろうが!」
みっともなく逃げ回るラザファムだが、決して試合放棄をするつもりではない。それなら降参すればいいからだ。
何度も背後を取ろうとするのも何か考えあってのことだろう。
しかし、失敗が続いた彼は、とうとう別の手段へと切り替える。
「ってぇりゃあ!」
「むっ!?」
トスカンの突撃に合わせ、紙一重で回避すると同時に小さく跳び、背面方向に回転しながら、その勢いで盾を蹴りつける!いわゆるローリングソバットだ。
突然の攻勢に、トスカンも踏ん張りが遅れ、盾が僅かに傾く。しかし蹴り抜くことはかなわず、両者共に下がるに留まった。
『あーっと、防戦一方のラザファム選手、ここにきて急な反撃!ですがトスカン選手の鉄壁の守りは崩せない!』
急展開を期待しての実況者の言葉は、しかし残念そうなものになる。
「少々驚いたが、それが精一杯か?ならば次で……、何だ?」
なんと、ラザファムの表情は、不敵な笑みとなっていた。トスカンが訝しむ。すると、衝撃的な発言が飛び出した。
「騎士さんよ、降参するなら今のうちだぞ?勝ちが見えた戦いはつまらないからな」
「何だと!?」
挑発するようなラザファムの言葉に激昂しそうになるが、そこは騎士、冷静に考える。
(ハッタリ……か?しかし、それにしては自信が感じられる。……ここは、どちらでも構わぬよう、全力で行く!)
これまで以上に強い踏み込みと、高速の突撃。素人目には、これで勝負が決まると思うだろう。だが……!
「残念でしたァァー!」
ラザファムは、下がりつつ右足で盾の下端を強く蹴る。すると盾が90°下に回転する。腕を横にして構えていたためにそうなったのだ。先程のローリングソバットで傾きを確認したのはこのためだった。
そしてその裏面を足場として跳ぶように、左足で蹴りつける!
「な、何ッ!?うおおっ!」
当然トスカンはバランスを崩し、転倒する。
「こちとら凶暴化した猪狩ってんだ、たかが知れてる人間の全速力なんて、止まって見えるってなぁ!」
転倒したトスカンの背後、ラザファムが回転の勢いを最大限に乗せた、強烈なローキックを放つ!
「痛ってぇぇぇぇ!!」
───数分後。
『なんと、徒手空拳のラザファム選手が、突撃槍部隊員を気絶させて下し、三回戦へと進出ーっ!!快挙、これは快挙と言えるでしょう!
……なお、当のラザファム選手は、鉄兜を思い切り蹴ったために足を痛め、現在治療中です』
「ファニさん……マジ痛ぇ……」
「もうっ、自業自得じゃないですか!ちょっと大変ですよ、この傷は!」