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一回戦!ラザファムvsマノロ!

 ゴングが鳴っても、ラザファムは動かない。体重をやや後ろにかけ、両腕を顔の前にして構える。

 ステップを踏むでもなく、待ち構える。


「……ちぃと驚いたが、なんでぇ、自分からは来ない臆病者かよ」


 そんな挑発にも、反応すら示さずに待つ。


「けっ、それならそのままやられちまいな!」


『先に仕掛けたのはマノロ選手!自慢の大剣を振りかぶり、猛然と突進だ!これで終わってしまうのか!?』


 大きな砂埃をあげて叩きつけられた剣。

 誰もが終了だと思ったその時、マノロは急に後ろに下がった。観客が、何事かと凝視し、砂埃が収まった頃、そこには先程と同じ構えで佇むラザファムがいた。


「……ふぅ、危ない危ない。叩き潰されるかと思った」


 その顔には、冷や汗が一筋。本当に危なかったと思ったのだろう。しかし相手はそうでもなかったらしい。


「なんだよ今の……何の魔法だよ?まるで消えたような……」


「いや、魔法でも何でもないんだが」


 受け答えする内に、実況の声がする。


『すみません、まさかのラザファム選手無傷に驚いてしまいました!

しかし、確かにマノロ選手の剣が当たるように見えたのですが……まさか幻惑の術だとでも言うのでしょうか!?』


「だから違うって……」


 届かないツッコミを入れるラザファム。そこにマノロの第二撃、逆袈裟斬りが襲いかかる。

 またも舞い上がる砂埃、そして晴れた時にはやはり無傷で同じ構えのラザファム。


「また……消えた……!えぇいっ!!」


「うわっと!」


 マノロが真横に薙ぎ払った時、初めてまともな動きを見せた。と言っても、やや低く振られた剣を飛び越えただけだが。


「横ならワケのわからねぇ避け方もできねぇってか!それなら!」


「おわぁっ!」


 大きなモーションで剣を振り回し始めるマノロ。ラザファムはバックステップを繰り返し、その範囲から逃げるようにしている。


『おっと、ラザファム選手、逃げの一手!

しかしこれは仕方ないでしょう、まるで竜巻のような剣の振り回し、迂闊に近づいてはKO必至!

ここをどう切り抜けるのか!?

……あっと、跳んだっ!』


 壁に追い詰められるまであと数メートルというところで、ラザファムは前方にジャンプ。剣が振り切られ、反転させても勢い任せに回転しても一瞬の隙が生まれる、絶好のタイミングを逃さなかった。

 そこから左足をマノロの肩に引っ掛け、そこを支えとして眉間に膝蹴りを叩き込む!

 その勢いのまま引っ掛けていた足で背中を蹴り、距離をとる。構えは最初と同じだ。


『ラザファム選手、見事な返し技!この一撃は痛い!マノロ選手、どうだ……立ったぁ!試合続行です!』


「あんだけ振り回されちゃ、さすがにタイミングも覚えるってもんだ」


「ぐ……てめぇ……」


 痛む眉間を押さえて振り返るマノロ。その表情は怒りに満ちていた。

 そこから、剣を振りかぶり、振り下ろす。勿論ラザファムは避けるが、マノロは腕自体を後ろに引いて砂埃をあげないようにしていた。


「分かったぜぇ……!」


『あ……っと、会場の皆様、ご覧になったでしょうか、今のラザファム選手を!?

あの構えのまま、わずかに体を傾けたと思ったら、凄まじい速度で横に……スライドしたように見えました!』


「あちゃあ、バレたか……」


 ばつの悪そうな顔で頭を掻くラザファム。構えを解き、説明を始めた。


「体の重心を、進行方向の直線上に、可能な限り近く置くことで、無駄を省く歩法……だそうだ」


「なんだとぉ……?」


 理屈は解るが実践は至難だ、と言いたげだ。それは意に介さず、ラザファムは再び構える。


「ま……翻弄するにはうってつけだが、攻撃にも応用できるのは当然だな」


 そこから体重を前にかけ、クラウチングスタートの姿勢に近くなる。

 間髪入れずに一歩を踏み出す。体全体を押し出すが故か、そのスピードは実際よりも速く見えた。


「う、うわっ」


「遅い……!」


 剣を盾代わりにしようとしたマノロだったが、それより速く懐に潜り込まれた。そこから、天に届かんばかりの勢いで突き出されるラザファムの渾身のアッパー!

 顎先を打たれたマノロは、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


『決まったー!ラザファム選手の強烈なアッパー!

マノロ選手、ダウン!動きません!今、審判が確認します……


あーっと、続行不能!

十分な実力を感じさせる道場破りを無傷で下し、勇者の同行者として相応しい力を示しました!』


 一際大きな拍手と歓声。それに一瞬ひるんだものの、片手を挙げてそれに応え、悠々と退場していった。


『これにて一回戦は終了です!

どうですか陛下!評価や解説を一つ!』


『うむ、一回戦だけあって、皆、張り切っておるな。負けた者も、気を落とさず、自己の研鑽に励んでくれい』


 慣れた様子で振りに応える王。さすが王、貫禄も十分だ。


『ありがとうございました!

では勇者からも!』


『え、オレ!?』


 なんとアロイスは解説者席にいた。確かに見晴らしの良い特等席、と言えばそうだが……。


『そうだなぁ、まだ強い奴と弱い……じゃない、強い奴に今一歩及ばなかった奴と色々いたから、まだ先は分からないな。

ってか解説なんてオレの柄じゃないって!ドースンは……あれ、どこ行った!?』


 最後のところで笑いを誘いつつ、アロイスの解説?は終わった。


『ありがとうございました!

二回戦は、30分の休憩を挟んでから開始いたします!』





「ったく……疲れたな……」


「お疲れ様でした、ラザファムさん」


 控え室の隅で座り込んだラザファムの所に、ファニがやってきた。


「どーも。俺の相手はどうだった?」


「ええ、脳を揺らされて平衡感覚に少し異常がありましたが、すぐに治るくらいでした。ただ、顎の骨に小さなヒビが……」


 にこやかに、しかし最後は暗い表情で告げるファニ。ラザファムは天を仰ぐような姿勢をとった。


「あー……ヒビか。やりすぎたかな……。でもまぁ、これで道場破りなんて馬鹿なことをやめるんなら良いが」


「もう……あまり怪我したりさせたりしないでくださいね?」


「努力はしよう。……おっと、二回戦が始まりそうだ。救護所に戻った方がいいんじゃないか?」


「そうですね。……頑張ってくださいね」


 最後、一応の応援を受けたラザファムは、自分の番に備えてまどろみに入った。


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