大会前日 ~ 開会式 ~ 試合開始!
「どれどれ……。トーナメント方式、64人4グループ、か」
初めての宿に戸惑いつつも、なんとかつつがなく利用できたラザファム。
いつも通りの早い時間に起きた彼は、宿泊者向けの武技大会のチラシを読んでいた。
「使用武器類は自由、ただし刃物類は刃引きをしたものを使うこと……。
賞金は、優勝10万Jに加えて二次魔王討伐隊の優先小隊指揮権、準優勝5万Jに加えて同優先分隊指揮権……。
これ以上は正式な書類見ないとダメか」
カサ、と軽い音を立てて机の上に戻す。
それからチェックアウトし、待ち合わせ場所……城の前に向かった。
ラザファムが一番乗りで、次にファニ、続いてアロイス、そして最後に、フードで隠れていても分かるくらいに青い顔をしたドースンが集まった。
「出場登録は……こっちで済ませた……。これが……大会概要だ……読んでおけ……」
「大丈夫かよドースンさん……」
パンフレットほどの厚さの書類を受け取りながら、ラザファムは気遣う。
「私は……朝に弱いのだ……」
「そんなんでよく務まるな……。今にして思えば、かなり王様から信頼されてるようだけど、一体何してたんだ?」
低血圧っぷりをまざまざと見せつけるようなドースンに、続けて質問する。
「託宣を、な……。これでも、百発百中の……腕だった、のだぞ……。
宿命に選ばれた、者達……アロイスや、ファニを……旅立ちに導いた、のも私だ……」
妙な途切れ方だが、本当は喋るのも億劫なのだろう。
「そうだったのか」
興味なさげに言い、書類に目を通す。
急所攻撃は原則禁止、基本的に気絶・降参で決着、観客まで巻き込むような広範囲攻撃は禁止……そういった、普通のルールだった。
「それにしても……いきなり出場かぁ」
アロイスが城門の柱に寄りかかりながら言う。
「思いつきだけどな。王都にはどんだけ強い奴がいるかと考えると……ワクワクするな」
実際、目に見えてそわそわしている。大会が始まるのは明日だが、待ちきれないといった感じだ。
「はっ、気楽な奴!」
「……ん?」
そこに、野太い声がかけられた。
見れば、大柄で不敵な雰囲気を持つ男がいた。
「お前みたいな田舎から出たばかりの奴が、まともに戦えるような甘い大会じゃあねえよ、がははっ!」
馬鹿にしたような男の笑いは無視し、ラザファムはアロイスに訊く。
「……俺、そんなに田舎者に見えるか?」
「うん、かなり」
アロイスの言う通り。なにせ、質素な布の服を、何ヶ所か革で補強しているだけの代物だ。
「……田舎から出たばかりなのは間違ってないが、ナメられるのはいささか気に入らんな……。俺はラザファム、察しの通り田舎者だ。お前は?」
「ほー、礼儀はなってるじゃねえか。俺様はマノロ、道場破りの剣士さ!腕利きが討伐隊に持ってかれたんで飽き飽きしてたんだよ。
ま、せいぜい準備運動で済まされないよう気をつけな!」
そう言って歩き去る。ラザファム達は何者だったんだと言いたげな顔で佇んでいた。
「……無礼なのか親切なのか、よく分からん……」
「いや、皮肉だからアレ」
そして翌日。大会会場となる、城の屋外訓練所にて、開会式が始まった。
『今日、ここに集まった64人の猛者……皆、己の力を最大限に発揮できるよう奮起するように。
そして、観客として来場してくれた臣民には、彼らの闘いに心躍らせ、良い刺激となることを、切に願うものである』
ちなみに、拡声の魔法を使っているため、会場には漏れなく聞こえている。
『それでは、王都一武技大会を、ここに開催する!』
オオオオオッ!!
予想以上の歓声と拍手。遠くに見える王は、満足げな表情に見えた。
『それでは早速、一回戦Aブロック第一試合を開始します。
東の陣へは……セス選手!』
「一番乗りか!よし、行くぞ!」
ラザファムの隣にいた、普通な剣士が反応した。
……このトーナメント、実は、始まるまで相手が分からないのだ。直前になって王がクジを引き、組み合わせが決まることになる。故に、事前に対策を練ることも難しい。
これは、『得体の知れない魔物に遭っても対処できるよう、事前準備が難しい状態での戦いに慣れるため』という題目だが、実際は、盛り上がらせるための演出という思惑と半々といったところだろう。
『続いて西の陣……なんと、これは……!』
焦らしながら観客の反応を見、絶妙なタイミングで読み上げる。
『デリック選手!第一試合目から、王宮騎士団の登場だァー!』
地元の者だからか、歓声が上がる。
『流れの剣士と王宮騎士の戦い!これはこの先の展開を占う一戦となりそうだ!
では、双方構えて……始めッ!』
「……観戦するくらい、いいと思うんだが」
ラザファム他、選手は控え室にいるままだった。実況の声だけで状況を判断するしかないが、田舎者であるラザファムには聞いたことのない言葉ばかりだった。
『……おっと、セス選手、動きません!最後の攻防で決まっていたか!?
……審判が気絶と判断しました!第一試合は、王宮騎士デリックの勝利!
騎士団が流れ者に負けるわけにはいかぬとばかりの奮闘でした!
では、続いて第二試合の選手の登場です!東の陣へは……』
「まだか……」
現在、Dブロックの試合が始まったところ。ラザファムはまだ呼ばれていない。
体を温めるためにやっていた運動にも飽き、椅子に座っている。
結局、最終試合になって呼ばれた。
『一回戦、これが最後の試合となります!東の陣へは、ラザファム選手!』
「…………」
無言で入り口へ向かう。そして出た瞬間、表情が固まった。
何度目か分からない歓声、聞き慣れていると思っていたラザファムだが、いざ自分に向けられるとなると、なかなかそうはいかない。
(やばい……なんて人数だ。俺の村なんか比べ物にならない……)
ギクシャクとしながら指定された場所に立つ。心臓がバクバクと鳴っているが、裏腹に冷や汗が大量に出ている。
(どうしよう……思うように動けない……。このままじゃ……)
不安が膨らみ続ける中、相手の名が呼ばれた。
『西の陣へは、マノロ選手!なんと彼、流れの道場破りだそうです。が、まだ王都の道場へは一度もしていないとのこと。
「強者のいない道場など、看板を頂く価値もない」と強気の発言をしておりました』
当然のようにブーイング。それでもマノロはどこ吹く風、というようにゆっくりと大股で歩いていく。手を振ってさえいる。見事なヒールっぷりだ。
しかし、その間にラザファムは落ち着いた。
(ああ、相手はあいつか……そう言えば名前呼ばれてなかったな。
そうだ、相手だ……闘う相手はあいつなんだ、観客なんていくら数がいようが観客なんだよな)
そしてマノロが到着し、5歩ほどの距離をとって対峙する二人。
「まさかお前が最初の相手になるたぁな……準備運動で済ませてやるよ、田舎者」
そう言って、幅広の大剣を肩に担ぐ。
対してラザファムは、
「いながもんナメてっといでぇ目さ遭うべよ!」
「はぁっ……?」
「……なーんてな」
すっかり落ち着いたおかげで、ジョークまで飛ばす。
『ここで入った情報ですが、ラザファム選手、あの勇者アロイスの旅に同行しているとのことです!
勇者達と共に戦い、鍛えられた技が爆発するのか!
それともマノロ選手の大剣の錆となってしまうのか!?
それでは両者、開始位置へ!』
ラザファムはすぐに振り返って進んだが、マノロはそれに一拍遅れて動き出した。
そして開始位置で再び振り返り、両手で頬を叩いた。
「……よしっ!集中、集中……!」
腕や足、首をグルグルと回してほぐし、開始の合図を待つ。
『それでは、一回戦最終試合、格闘家ラザファム対大剣士マノロ……始めッ!』
カーン!と訓練所全域にゴングが鳴り響く!