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選ばれざる者の旅立ち ~ 道中、各々の戦い

「とうとうお前も旅立つか……」


「いや、とうとうも何もないだろ」


 旅支度を整えながら、ラザファムは父の言葉に答える。


「ただの思いつきだし。本当なら、一生をこの村で終えるつもりだったんだ」


「あらあら、嬉しいことを言ってくれるわね」


 そこに、昨日まではいなかった女性の姿があった。


「……母さん、無茶するなよ。野菜取りに行って何日も帰らないとか、本当に心配するし」


「もう、心配性な息子ね。森に産まれ、森に生きてきたライナお母さんは、ちょっとやそっとじゃ何ともないんだから!」


「野生児かあんたはッ!」


 その女性は、まだ年若く見える、ラザファムの母ライナ。

 ラザファムの両親は、どちらも引き止めるようなことはしなかった。むしろ、見聞を広めてこいと言わんばかりだ。


「まぁ、働き手が一人減るより、食い扶持が一人減る方が得だろ」


「まったく、小賢しいことを……。たまには戻ってくるんだぞ」


 皮肉のようなラザファムの言葉に対し、優しく返す父(ちなみに名前はデトレフ)。


「ああ、気が向いた時にでもな。……よし!これで終わり!」


 かくして、ラザファムの旅立ちの準備は整った!




 結局三泊したアロイス一行と共に、ラザファムは歩き出す。


「……本当に良かったのか?今ならまだ引き返せるぞ?」


「くどいな、ドースンさん。もう決めたことだ」


 ドースンの問いに、何の迷いもなく答える。


「別に二度と帰れないわけじゃないしな……じゃあ皆、行ってくる!」


 振り返って大きく手を振る。その視線の先には、村人総出での送り出しだ。


「気をつけるんだぞー!」「好き嫌いしちゃダメよー!」「ラズにーちゃん、おみやげお願いなー!」「ラズ兄が帰ってくるまでに、やっつけられるくらい強くなるよー!」


 ……等々、好き勝手な言葉もちらほらあるが、全員一列になればなかなか壮観だ。

 手を振り終えたラザファムは、前を見て、それからは二度と振り返らなかった。




「まずは、戦死者の遺品を届けに、王都に行くんだったよな?」


「そうそう。オレ達も旅立ってそんな経ってないのに、王都に出戻りするとは思わなかったなぁ」


 魔王を倒す使命があるのに、すぐに王都に帰ってくることになる……というのに、やたらと明るい調子のアロイス。


「でも、遺品だけでも……何も還らないよりはいいですよね……」


「そう……これらは、国を、民を、魔王の手から護るために戦った者達の勲章なのだから」


 ファニとドースンは殊勝だ。ラザファムはどちらかと言えばこちら側だろう。


 と、そんな時でも、容赦なく魔物は襲いかかる!

 現れたのは、周囲を取り囲むようにしている狼の群れだった。


「早速お出ましか!いけるか、ラザファム?」


「愚問ってやつだ、それはな!」


 ラザファムの応えを合図にしたように、ドースンを中心に円陣を組む。それを、包囲網を狭めるように旋回しながらゆっくりと近づいてくる狼。


「私の新たな術の実験台には丁度良いか……すぐに全滅させてしまわぬように頼むぞ」


「やってはみるが……」


 消極的な答えのラザファムだったが、やる気は十分のようだ。

 そして狼の動きが止まり、飛びかかろうと姿勢を低くする。まさに一触即発という時、ラザファムの目前の、気が早い一匹の狼が動こうとした瞬間。


「……シッ!」


 短く鋭い呼吸音と共に、ラザファムが狼の鼻先にまで踏み込んだ。

 出鼻を挫かれた形となった狼の動きがピタリと止まったのを見逃さず、


「ふッ!」


 その横っ面にキレのあるローキックを叩き込む!

 悲鳴をあげる暇さえ無く、首の骨を蹴り折られた狼は、吹き飛ばされながら、脚を動かしていた。ほんの一瞬遅かった、脳からの命令を、体が健気に実行しようとしているようだった。

 ラザファムは、それを見届けることなく、バックステップで元の位置にまで戻った。

 そして一呼吸して、やっと他の狼も動き出した。


「っとと、そりゃー!」


 アロイスは、剣を狼の口に噛ませるように振り、実際に噛ませてから振り回し、後続の狼に叩きつける。

 勿論それだけでない。剣を振り切った隙を突かれようとした時は、構えた盾ごと体当たりをかけ、跳ね返すと同時にダメージを与えていた。


「神よ、彼の者の爪と牙より、己が身を守る力を与え賜え……!」


 ファニは、基本的に防戦だ。ドースンの術を待つため、防御に徹し、敵の疲労を蓄積させる。それでも襲いかかる狼に対しては、メイスで対抗する。

 しかし……疲労で動きの鈍った狼には、丁度クロスカウンターのような形で当たる。さながら、やぶれかぶれになって、大振りの攻撃をしてきた所を狙っているかのようだ。無自覚のカウンターパンチャーほど、恐ろしいものはない……のか。


「ふんッ!せいッ!はッ!」


 ラザファムは、相変わらず格闘でやっていた。

 類い希な動体視力と反射神経によるものか、飛びかかるものに対しては最小限の力で弾き、足元に駆け寄ってから喉笛に噛みつこうとするものは、飛び上がった瞬間を狙って足の裏で鼻を踏む。


「よし!皆、敵から距離をとれ!」


 かくしてドースンの術が完成し、最初の円陣に戻る。それを見逃さず、一斉に飛びかかる狼達。


「巻き上がる炎よ、我らを護る壁となれ!」


 詠唱と共に杖を振り上げると、彼らを中心にした炎の壁が現れた。

 飛びかかっている狼は、勿論避ける手段など無い。ことごとく炎の中に身を投げることとなる。


「……えげつない術だ……」


「何を言うか、このような状況だからこうなっただけのことだ。その気なら、足止めだけにも使えよう」


 炎の壁が消え去った後には灰しか残らなかった。それを踏み越えながら、ラザファムは戦慄を覚えていた。

 ファニは、歩きながらも狼達の冥福を祈っていた。




 そして歩き続け、戦ったりもして、次の日。


「見えてきたぞ、あれが王都ベルンハイドラだ!」


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