王都散策 ~ ラザファムの父親の過去
翌日。
「結局、結果はうやむやか……まぁ、みんな頑張ってたし、仕方ないか」
ラザファムは王都を散策していた。魔物の乱入によって滅茶苦茶になった武技大会は、そのまま御開きとなり、結果発表もされなかった。それでも、誰一人として不平不満は言わなかった。戦いの中で結ばれた絆のためだろう、とラザファムは考える。
泊まっていた宿屋のオーナーは、それでも満足げだったが。
諸々の後始末でゴタゴタしている時に攻め込まれても大変なので、勇者のパーティーはもう少し滞在することになっていた。その中の自由時間で、見回りを兼ねての散策だ。
大通りから離れると、各種の店が立ち並ぶ通りに出た。
「都会には、こんなところもあるんだな……」
田舎者オーラ全開で、キョロキョロと辺りを見回しながら歩く。誰かとぶつかりそうなものだが、格闘家らしく身のこなしが良いためか、全く危なげなく進んでいった。
しばらく歩いていると、ある店が目に入った。
「ええと……これは、鍛冶屋、か?」
看板は古く、あちこち削れている。さほど繁盛しているようには見えない。しかし、ラザファムは、自分でも理由が分からぬまま、導かれるようにその店に入った。
「うわ、暑いな……」
「おう、客か。……んっ!?」
薄暗い店内の蒸し暑さに驚いたラザファムに気づいて振り向いた店主だが、その顔が突然驚愕に満ちた。
「お前、デトレフ!?
……って、んなわけねぇか」
知り合いに似ていただけだったのか、すぐに思い直して落ち着いた。が、ラザファムはそれを聞き逃せなかった。
「店主さん、俺の親父を知ってるのか!?」
そう、デトレフとはラザファムの父親の名だ。
「ほぉ、そうか……お前、あいつの子供か。なるほど、若い頃にそっくりだぜ」
店主は納得したようにニヤリと笑う。
「あれからもう二十年か……元気でやってるか?」
「それはもう。村の若い衆をまとめ上げてるくらいには」
苦笑しながらラザファムが答えた。世間話はそこまでで、今度は彼から質問する。
「ところで、ここは鍛冶屋でいいのか?」
「おうよ、武器・防具から包丁・鍋まで、金属のことなら何でもござれ、ゴーティエ金物店と言やぁここのことだぜ!」
何とも慣れた様子の宣伝文句と共に、金鎚を振り上げてアピール。とても頼りになりそうなイメージだ。
「で、要件は?見たとこ、金属類は何も持ってないようだが、オーダーメイドかい?」
「お、オーダー……?」
ラザファムには聞き慣れない、というか聞いたことのない言葉に、聞き返す。
「知らないのか、顧客の注文に合わせて造ることだぜ」
「ははぁ……それいいなぁ。でも金ないしなぁ……。
それに、外の看板に何かを感じて入ってみただけだし……」
申し訳なさそうに言うラザファム。だが店主は怒るでもない。
「ああ、あの看板は、デトレフがこの街を去る前に、オレのためにって造ってくれたもんだ。
あいつとオレはな、同じ工房で学んだライバルだったんだ。けどな、二十年前、田舎から出てきたっていう娘っ子に一目惚れしてなぁ……」
懐かしむように話す店主。ラザファムは興味深そうに聞いている。
「親父は、鍛冶屋の卵だったのか……知らなかった……。
で、それだけで、親父は鍛冶屋の夢を諦めたのか?」
「いや、そうじゃねぇ。惚れたってのもあるが、その田舎にはまともな農具が無いって言ってたんでな。『人の役に立つのなら、別にこの街でなくたって出来る』だとさ」
「そりゃ、親父らしいな……しかも村の農具、全部親父が作ってたってことか」
「あ、でも、店を継ぐのを譲ってもらったとかは思ってないからな!
そもそもあいつは細かいとこが苦手だったんだ、装飾とかの無い無骨なもんばっかでなぁ、農具作ってるのがお似合いなんだよ!」
取り繕うように言う店主だが、すぐに落ち着いた。
「……まぁ、オレとは別の才能に憧れてたからこう言っちまうわけなんだがな。どんな荒い扱いしても壊れなさそうなのとか、な。
そのおかげか、あの看板は二十年経った今も、大きな欠損もなく現役なんだよ」
「なるほど……」
ラザファムが看板に感じていたものは、いつも使っている農具と同じ作者であるという温かみのようなものだったというわけだ。
「さて、ちょいと話し込んじまったな。まぁ、久々にあいつの話ができて良かったし、今回は冷やかしでもいいぜ」
「あー……、では、今回は冷やかしということで。
またいつか、利用させてもらうんで、その時はよろしくお願いします」
「おう!頑張れよ!」