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ギガンツとの戦い ~ 集結する力

 逃げ惑う人々を背に、勇者の一行が巨人種ギガンツに立ち向かう。戦力差は小さくないが、不思議と負ける気はしない。


「おい、あんたら!」


 突然、ラザファムが声をかける。それは、決勝に残った他の三人に対してだ。


「こいつの直接の相手は俺達がやる!援護を頼む!」


 しかし、顔を見合わせるばかりで動こうとしない。ラザファムは業を煮やし、直接指示を出すことにした。


「ええい、俺の言う通りにしてくれ!

そこの弓使い、名前は!?」


「え……と、ジネットよ」


「じゃあジネット、あんたは距離をとって目や耳を狙ってくれ!気を散らしてくれればいい!」


「わ、分かったわ!」


 まずはジネットと名乗った弓使いの女が、後退して戦闘態勢をとる。地面にありったけの矢を刺し、連続射撃に適した構えだ。


「ふむ……まぁ、上手く目に当たればお慰みといったところか」


 その指示に、ドースンが一応ではあるが評価した。彼は、各種の魔法で、要所要所での行動を阻害していた。

 ジネットの放つ矢は、ギガンツの皮膚に刺さりはしないが、その正確な狙いは気を散らすには十分だった。さらには、動き回るラザファムを狙って腕を叩きつけた瞬間の隙を見逃さない。

 動きを止めれば、アロイスが腕を登って攻撃を試みる。成功こそしていないが、少しずつ消耗させている。


「よし、槍使い!」


「ヌンツィオだ!」


「あんたは奴の膝の裏を狙ってくれ!動きを阻害できればよりやりやすくなる!」


「おう!」


 こちらは、他に指示せずとも、ジネットの射線上から外れた位置に移動して攻撃する。さすがは手練れというべきか。


「ラザファムさん、手際が良いですね……堂に入った指揮です」


 叩きつけ攻撃を回避しつつも飛び散る飛礫つぶてでダメージを受けているラザファムを回復するために近づいたファニが、感嘆の声を上げる。


「まぁな。これでも狩りの時にリーダーやったことも一回や二回じゃないからな」


 要はその応用ということだ。いかに安全を確保しつつ、相手を消耗させ、ミスを誘い、致命的な隙を的確に突くか。

 彼にとって幸いなのは、相手の知能が低かったことだ。これが十分な知性を持つ敵だったなら、経験不足故に裏目に出ていたかもしれない。


「……よし、この調子なら……今か!」


 槍による集中攻撃で傷ついた膝に、回り込んだラザファムが時間差で跳び蹴りを叩き込む。さすがのギガンツも、耐えられずに膝をついた。


「剣士!かかとをぶった斬ってくれ!」


「了解した!ちなみに名前はデリックだ!」


 素早く応じた彼が振り下ろした長剣が、アキレス腱にあたる部分を切断した。ギガンツの絶叫が響き渡る。


「よし、これで片足は潰した!」


「でかした!って、うおっ」


 ラザファムを賞賛しようとしたアロイスだったが、振り回された腕を間一髪で回避する。


「気をつけろ、手負いの獣ってのは一番厄介だ!ここからは、一気に弱点を攻めたいところだが……!」


「奴の弱点は、喉の下だ。どうしても鍛えようのない部分なのでな。出来れば、転倒させられれば楽なのだが」


 ドースンが言う。しかし、彼らのうちには、それを実行できそうな者はいない。


「っと、危ない!」


 片膝をつきながらも、ギガンツが腕を振る。目標はジネットのようだ。


「あ……っ!?」


 反応が遅れた。このままでは直撃だ。



 ブォンッ!



 その時、どこからともなく飛来した何かがギガンツの目元をかすめ、それによりのけぞったため、ジネットは事なきを得た。


「あれは……まさか!」


 心当たりがあるらしいラザファムが、飛来した何かが戻っていった先を見ると、そこには大男がいた。


「サガモアか!」


 そう、ラザファムが戦った斧使い、サガモアだ。彼の使う投擲斧トマホークが、ジネットの窮地を救ったのだ。


「…………」


 そして相変わらずの無口。話は後だと言わんばかりの態度だ。


「彼だけではないぞ!」


「トスカン!」


 今度は突撃槍ランス使いのトスカンも現れ、その大きな盾でギガンツの攻撃を防ぐ。


「てめーらだけにいいカッコさせてたまるかよ!おらぁっ!」


 さらには最初の相手だったマノロも出てきて、大剣の腹を使ってギガンツのすねを強打する。


「上手い!これで奴も倒れるはずだ!」


 事実、痛みに耐えかねたギガンツはうつぶせに倒れた。力を合わせたからこそのダウンであり、アロイス達だけではこうまで順調には行かなかっただろう。見れば、他の大会参加者も、避難誘導等に尽力している。

 弱点を直接狙えるとなり、アロイスが駆け出そうとするが、


「……いや、待て。自分の弱点を知っているようだ。顎を引いて喉元を守っている」


 とのドースンの言葉で足を止めた。


「マジだ……首強そうだし、どーやってあの守りを崩すんだよ?」


「早くしないと、また立ち上がってくるぞ!」


 ラザファムが、早くも治癒が始まっているギガンツの踵を見て急かす。その声に応えたのは、


「オレに任せな!はっ!」


 拳闘士のアルマンだった。彼が強烈な右ストレートでギガンツの顎先を打つと、それだけで首の力が抜ける。


「ってぇ~……本気のパンチだったのに、ちょっとしか効いてねーぞ……!?」


「十分だ!アロイス、行けっ!」


「おっしゃー!」


 ようやく攻撃出来ると意気込んで、アロイスが駆ける。

 スライディング気味に潜り込み、


「これで終わりだぜ!」


 剣をギガンツの喉元に突き刺した!

 弱点への攻撃で一瞬硬直した隙に、アロイスは離脱した。が、


「いけね、剣刺したままだ」


 うっかりしていた。


「いや、それでいい!」


 突然のラザファムの声。彼も、ギガンツの下に滑り込む。そこから剣に手をかけ、


「刺しただけでは死ぬまい、今度こそトドメだ!」


 喉周辺の肉ごと、切り取った!

 溢れ出る血液を、肉そのものを盾として防ぎ、飛び出す。その直後、ギガンツはのたうち回り、喉をかきむしり始めた。

 止まらない血液と共に飛び散る肉片。声にならない叫びがあがる。その凄惨な光景は、歴戦の戦士でさえ目を背けたくなるほどだ。


 ラザファム達は、勝利したというのに、後味の悪い思いをしていた。


「……俺達が、もっと強かったら……こんな惨めな姿を晒すような倒し方を選ばなくても良かったのか……?」


「おそらくは……な」


 ギガンツは、十分ほど苦しんで、絶命した。

 その死骸の処理には相当数の人員を要したが、戦った者達の要請により、手厚く葬られることになった。 

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