決勝戦 ~ 突然の乱入者
そして。
訓練場には、勝ち進んできた四名の者が呼び出された。
「どういうことだ?次は準決勝じゃなかったのか?」
誰ともなく言う。ラザファムもそれには同感だった。
しかし、司会の言葉で疑問は晴れる。
『決勝戦は、なんと四人同時のバトルロイヤルです!
混戦となるか、二人ずつの二組となるか、はたまた三対一となるか!これも、変化する戦場に対応できるかの試練!』
ざわめく観客だが、それは僅かな間だった。すぐに、未知なる形式への期待が高まる。
(そうきたか……さて、どうする?)
ラザファムが周りを見渡す。自分以外の者は、まず剣士が一人。鎧姿なので、王宮騎士だと思われる。
刺突槍を持つ者もいた。軽装で、旅人であるらしい。
最後は、弓を携えた女性。華奢ではあるが、勝ち上がってきた以上は、弓の腕だけが取り柄ではないだろう。
それぞれが観察し合い、与し易い相手、放っておけない相手に目星をつける。
『では……決勝戦、変則バトルロイヤル、開始ーッ!!』
大きなゴングが鳴り響き、四人は大きく距離をとるように跳んだ。
その、直後。
『いかんッ!!全員、避難をッ!!』
しばらく出番の無かった、低血圧魔術師ドースンの声が会場に響き渡った。
同時に、会場の中心……決勝に残った四人の中心の空間が、目に見えて歪んでいく。
「な、何だっていうんだ!?」
うろたえるラザファムだが、いつでも動けるように身構えている。ただならぬ雰囲気は、既に察知しているようだ。
増大していく空間の歪みが、向こう側が見えないほどになった時、
「グォォォォッ!!」
そこから、巨大な怪物が現れた。身長が10mはあろうかという、人型の魔物だ。
その咆哮から数秒遅れて、人々の悲鳴が上がる。
『皆の衆、落ち着くのだ!避難誘導に従えば逃げ遅れることはない!……くっ、混乱が酷いか!?』
それまでの熱狂のまま恐怖に陥ったかのように、必死の呼び掛けが届かない。怪物は、まるで品定めをするかのように逃げ惑う人々を見回している。
「おいおい……何なんだよ、こいつは……!?」
ラザファムは、竦み上がっていた。凶暴化した動物ではない、本物の、『魔物』という類の、それも強力な存在……その圧倒的な迫力に、気圧されているのだ。
それは他の決勝進出者も例外ではなかった。明らかに、太刀打ちできる相手ではない……そのことが、実力があるからこそ分かってしまう。
「ちっくしょー、こんなとこに殴り込みかよ!」
そこに現れたのは、武具を装備してやってきたアロイスとファニ、そしてドースン。武具こそ心許ないが、その闘志はよく分かる。
「お前らは……こんな怪物と戦おうってのか?」
僅かながら震えているラザファムが問うと、アロイスが怪物を見据えたまま答えた。
「おうよ、そのためのオレらだかんな。それに、コイツを逃がしたらとんでもないことになるし……オレの母ちゃんも危ねぇ」
彼らの闘志に気付いた怪物がそちらを向き、その顔が醜く歪んだ。まるで活きのいい獲物を見つけたとでもいうように。
「オラオラ、てめーの相手はオレ達だ!勇者アロイス様ご一行が成敗してやるぜ!」
剣を振り上げ宣言する。その後ろで、ドースンが考察をしている。
「巨人種を転移魔法で送り込むとはな……そうそう使えん大技のはずだが、好機と見たか」
ファニは、加護の魔法を何度もかける。
「一度でも攻撃を受けたら、戻ってください……!でないと、大変なことに……!」
彼らの姿が人々の励みになったか、そこからの避難はスムーズにいった。ラザファムは、まだ迷っている。
(俺が……どうにかできるのか?
村を出る時は、あんなカッコつけたこと言ってたくせに、いざ怪物を前にしたらこのザマだ……しかし……)
「おい、ラザファム!お前はどーするんだよ!」
突然、アロイスが呼びかけた。
「お、俺?いや、俺が加勢しても……」
答えに迷うラザファムだが、
「何言ってんだ、構えてるってことはやる気だろ?」
「!」
言われて、気付く。驚いたりはしたものの、構えは解いていないことを。
「……ああ、当然だ!こんな独活の大木なんぞに負けていられるか!
で、コイツの弱点は!?」
頭では諦めかけていたが、心はずっと折れていなかったことを確認したラザファムは、ドースンに訊く。
「巨人種と言えど、人間型である以上、基本は同じだ」
「そうか……じゃあ弱点丸出しだな!
覚悟しろ、デカブツ!」