四回戦 拳の語らい
武技大会四回戦最終試合。ベスト8に残った者が、さらなる高みを目指す戦いも、これが終われば一段落というところ。
ラザファムが対峙する相手は、彼と同じく無手だった。さらに、彼より薄着、というか上半身裸だ。
『さぁさぁこれは好カード!両名とも格闘で戦うという共通点がありながら、片や拳のみで戦い、片や全身を駆使して戦う!
鍛えに鍛えた拳が勝つか、応用力が勝つか!
これは燃え上がるぞ、観客の反応、そして賭博が!』
最後の一言で笑いを誘った実況は、間髪入れずに開始を宣言する!
『それでは最終試合、開始ぃっ!!』
ラザファムが相対する男、格闘家『アルマン』は、構えも彼とは大きく違う。
どっしりと構え、動きの少ないラザファムとはほぼ真逆。
リズムをとるように軽快なステップを踏み、積極的に前に出る。その姿は、さながらボクサーだ。
じりじりと接近し、アルマンの射程に入ると同時に、素早いジャブがラザファムを襲う。
「へっ。速すぎたか?」
その左拳は、ラザファムの目前数㎝で止められていた。彼はまばたきもせず、僅かも動かずにいた。
「…………」
ラザファムは答えない。構えも表情も変えず、ただ佇む。
「ちっ、何とか言えよ」
アルマンは拳を引き、右にサイドステップ。左足を引きつけると同時に右ストレート。これは当てるつもだ。
しかし、すぱんっ、と軽い音をたてて、それは止められた。
構えを変えず、目だけで動きを追ったラザファムが、左手で受け止めたからだ。
「なんだよ、意外とやるじゃねーか」
拳と同時に体を引く。ラザファムはそれも目だけで見ながら、溜め息をつく。
「口数ばっか多いな。手数出せよ、観客のためにも」
「んだと、生意気な!」
その挑発に乗り、アルマンは猛烈なラッシュをかける。
左右のパンチをしつつ接近してからのショートフック、ボディ狙いから繋げるアッパー、コンビネーションも多彩だ。
それでも、ラザファムに直撃はしない。悉く避け、受け止め、流す。
……相性の問題だった。当たれば決して小さくないダメージだろうが、基本は得物を持つ者を想定しての動きだ。
無手同士は、想定されていない。
「……蹴りは、やらないのか?」
「バカ言え、その分拳鍛えてんだよ」
バカはお前だ、とラザファムが言いそうになったのは秘密。
「とりあえず、いい加減慣れた。次のパンチで、お前は降参することになるぞ」
「そんなハッタリ、信じるかよっ!」
自信のあるラザファムの顔面に、渾身の右ストレートを放つ。
が……その瞬間。
ラザファムの、前に出した左手がアルマンの右腕を滑る。
本人は、ギリギリ当たらないよう絶妙な距離で下がる。
右の拳に、ラザファムのそれが添えられる。
一瞬、腕が伸びきった刹那……
逆関節を極め、
折った。
「……っ、う、ぐわぁぁぁっ!?」
自分の腕が、本来曲がるべきでない方向に曲がっている……それを認識するまでに数瞬を要し、痛みはそれから襲った。
「まぁ、速かったが、見切れない程度じゃなかったな。
……すっげー疲れたが……」
どうやら、ラザファムにとっても、そう易々と出来ることではないらしい。見切るために、尋常でない集中力が要り、その後には疲労困憊する……実用的かは、甚だ疑問だ。
しかし、相手の戦意を削ぐには十分だったようだ。
「ぐぅ……こ、降参だ……」
右腕を押さえ、膝をつく。左を制する者は世界を制す、という言葉はあるが、主力を失っては左も活かせない。
『あっと、アルマン選手、降参です!ラザファム選手、勝ち進みましたっ!
見事な打撃戦でしたが、結果を見れば、ラザファム選手がほぼ無傷での勝利……アルマン選手、調子が悪かったのでしょう。
ですが、熱く燃えたのも事実、皆々様、盛大な拍手をお送りください!』
アロイス「そーいやさ……これ、元々こういうバトルばっかのじゃなかったよな……ファンタジーものだったよな……」
まぁな。とりあえずもう少し付き合え、そろそろ本筋に戻る。
「ホントかよ……?」