起床&昨夜の出来事 ~ 武技大会二日目
「ふぅっ……ん~っ、はぁっ!よく寝た!」
翌朝、ラザファムは同じ宿で目覚めた。大きな背伸びと欠伸は、下手すると近所迷惑になりかねないが、その心配はすっぽり抜け落ちたように忘れていた。
実際のところ昨夜は、せっかくだから別の宿にしようかとも考えていたのだが、三度も激戦をこなしてきた疲労は結構なものだったため、結局同じ所に決めたのだ。
……が、それをちょっとだけ後悔することがあった。
昨晩、ラザファムが宿に入ると……
「いらっしゃ……おおっと、勇者のお仲間さんじゃないか!
おい厨房!もてなしの用意だ!
風呂!熱いの沸かしとけ!」
「「へ、へいっ!」」
宿の受付兼オーナーであるらしい恰幅の良い男は、ラザファムを見るや、すぐさま従業員に指示を飛ばした。
呆気にとられていると、男はニヤリとして言った。
「今日の試合、良かったぜ。久々に燃えたよ。まさか素手たぁ思わなかったが、それで勝ち進むんだもんな」
「は、はぁ、どうも……」
気の抜けた返事をする。勝者としての賞賛とはまた違う感覚、しかし悪くはない。が、次の言葉で一気に現実に引き戻される。
「武技大会最低でもベスト8、しかも勇者の仲間!
そんな男が泊まった宿ってことで、名声上がるぜぇ……泊まった部屋も、多少高くしてもいいか……」
「……結局金か。お父さんお母さん、都会の人は強欲です」
呆れてジョークを飛ばすも、オーナーは悪びれた様子も無い。
「あったりめぇよ、こちとら商売だかんな。
けど、燃えたのはホントだ。今日と明日の宿泊料金、まけてやるぜ?」
「……それは、断るわけにはいかないかな」
さすがのラザファムもそれには負けたのだった。
「おっし、商談成立ってやつだ!
先に風呂で汗流しててくんな、その間にご馳走作らせとくぜ!」
……そして、出た料理は、確かにご馳走だった。
結構な値の張る肉、新鮮な野菜、焼きたてのパン……しかも質だけでなく量も考えられている。
景気付けだからと大量に出しても、翌日の戦いがキツくなるだけだ。
それにラザファム自身も、腹八分目……いや、七分目の量に慣れてはいる。農村育ちは伊達でない。
「うわぁ……いいのか大将!?」
「おうよ!しっかり適度に食って、万全の状態で明日も挑んでくんな!
あんたは勝つ、俺達ゃ儲かる!お互い様だぜ!」
がっはっはっ、と豪快に笑うオーナーには聞こえないよう、ラザファムは呟いた。
「……穫らぬ狸の皮算用……か」
幸い、全く耳に入ってはいないようだった。
「さて。せっかく期待されてるんだ、裏切らないようにしないとな」
朝食も同様、多すぎない量の食事で腹拵えを済ませ、昨日より意気揚々と、しかし緊張感を持って訓練場に向かう。
そして、いざ待機室へと入れば、その雰囲気は他の参加者と同じく、近くにいるだけで肌がピリピリとするほどになり……
「いいですかラザファムさん!今日はまた一段と激しい戦いになると思いますが、なるべく怪我しないようにしてくださいね!」
「はい……分かりました……」
一分と経たずに元に戻ってしまったのだった。
んなことになっているラザファムの心境などどこ吹く風で、武技大会二日目の幕が開ける!