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開幕・名も無き村の小さな出来事

 朝起きて、畑の様子を見て。

 朝食食べて、食休みして。

 畑仕事に精を出し、休憩中に友人と悪ふざけをして。

 趣味と実益を兼ねた格闘技の練習をして。

 晩飯食べて、寝る。

 そんな、どこにでもあるような小さな村の、どこにでもいるような一村民……それが彼、ラザファムだ。


「なぁ、親父」


「何だ、ラズ」


 ある日の昼、ラザファム……愛称ラズ……は父に言ってみた。


「最近、やたら狂暴な獣が増えたよな」


「ああ、風の噂じゃ、魔王とかが現れたとかなんとか……行商人が言ってたな」


「みたいだな。勘弁してもらいたいもんだ……こんな村、本気で攻め込まれたら一時間も保たないよな」


 溜め息をつき、食事に手をつける。


「まぁ、大丈夫だろう。王都からも遠いし、わざわざここを侵略する利点は無いし」


「ならいいけどな……。風の噂と言えば、魔王討伐隊が数週間前に王都を発ち……」


「ここの南で全滅したって話か?

どうやら本当らしい。今度、鉄とか拾いに行く予定らしいが、来るか?」


「いいな、筋トレになりそうだ」




 そうして数日後、村人の一団が南へと出発した。十数名の村人のうち、ラザファムは殿を務めていた。

 半日も歩けば、そこは死屍累々の戦場跡。幸か不幸か、死体は動物が処理した後らしく、白骨死体ばかりだ。

 ラザファムは、荷車周りを担当することとなった。


「……見たところ、人間のじゃない骨も結構あるな。全滅したとは言え、魔王の軍勢にも少なからず痛手を与えたと見える。

さすがは王都選りすぐりの討伐隊、ってことか」


 感心しながらも、死んだら終わりだけどな、と呟き、主を喪った武具を荷台に放り込んでいく。

 半径20mほどの武具を拾い終えたラザファムは、他の皆が帰るまで、休むことにした……が。


「……足音……?話し声も聞こえる……」


 その方向とは反対側に隠れ、様子を窺う。

 現れたのは、三人の男女。


(先頭は……ツンツン頭に簡素な兜、安物の鎧と盾、さらにマント……得物は剣か……)


 所謂『勇者』に近い姿だったが、田舎者である彼にそんなイメージがあるはずもない。


(二人目は……修道女ってやつか?初めて見た。が……あのメイス……所々赤……いや、赤黒い……)


 勇者ほど希少な存在ではない『僧侶』くらいは、イメージがあるらしい。メイスについては……多くは語るまい。


(そして最後が……何だ?底抜けに怪しい……)


 全身を覆うローブに、目深に被ったフード……男女の判別すらつかない、それでもなんとか『魔法使い』のイメージには合う者だった。

 その彼らの会話が聞こえてくる。


「やっぱり全滅か……王国騎士団も立て直しに時間がかかるだろうなぁ」


「……安らかにお眠り下さい……」


「だが……武具が見当たらぬ。

あの荷台に集められているようだが……?」


 三人が足元を調べる隙を付き、ラザファムは彼らの背後に回り込んだ。

 そして荷台を調べようとした時。


「動くな!」


 農具のフォークを突きつける。


「…………!」


「両手を挙げろ。そして片手で、腰の物騒なものを外せ。それから、こっちを向け」


 三人は言うとおりにし、向き直った。


「……よし。お前達は何者だ?」


「あー……その……、廃品回収業者!

戦死した人の装備を回収して、鍛冶屋に持って行って、新しい武具に打ち直してもらおうと……」


「嘘こけ!ンなことにそんな物騒だったり怪しい出で立ちが必要か!あと修道女さんも!」


 激しいツッコミを入れるラザファム。


「ほ、本当なんだってば!半分くらい!」


「半分か!じゃあ残りの半分は!?」


「優しさ……という名の善意、かな?

……あ、冗談冗談!」


 漫才のようなやり取りをしているうちに、他の皆も帰ってきたようだ。


「ラズ、その人達は?」


「ああ、不審者だ」


「ひどい!」


「……まぁ、悪人じゃなさそうだし、ひとまずは村まで案内しよう」


 集団のリーダーの一言で、処置は決まった。移動中の見張りはラザファムが行うことになった。




「ほう、あんたらが、そんな少人数で魔王を倒しに行くって?」


 ラザファムの父は、とても驚いたように言った。


「ええ、ローブの彼……ドースンの導きというか勧誘というか」


「宿命だと言っておろうが、アロイス」


「ちょっと信じがたい話ですけど……あ、私はファニです」


 勇者?のアロイス、魔法使いらしいドースン、僧侶のファニ、その三人のパーティは、ラザファムの家でもてなされていた。


「王都から来たって話だが……なんでまたそんなチャチな装備なんだ?」


 ラザファムが問う。勇者が旅立つ地は、なかなか繁栄している所だったりしても、品揃えは悪いわ優秀な人材もいないわ、というものだが……その答えは。


「仕方ないだろ。知っての通り、魔王討伐隊が編成されて、武具も人もそっちに回されたんだ。ちょっとした軍資金が出るだけでもマシなんだよ……」


「軍資金出たのか」


「こう見えて、私は城勤めの身でな。少しくらいなら融通が利く」


 ドースンがやや胸を張って言う。きっと、フードの下では得意気な顔をしているのだろう。


「……城って、こんな怪しいのでも採用されるんだな……」


 ラザファムは歯に衣着せぬ物言いでハッキリと言った。


「た、確かに怪しいですが、ドースンさんは頼りになりますよ」


 少し落ち込んだように見えるドースンをフォローするようにファニが言う。


「今は鈍ってるだけらしいですが、魔法の腕はそれなりに凄いですし……」


「それ以外はからっきしだけどな」


 しかしアロイスが入れた茶々で台無しだった。




「……おっと、もうかなり暗いな。今日はここに泊まっていくといい」


 月がそこそこ昇ってきたところでラザファムが言う。


「あー……じゃあお言葉に甘えて」


 そうして、勇者?の一行は名も無き村で宿泊することとなった。

 勿論、女の子であるファニは違う家で寝たが。

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