加工された呪い
嘘で始めた復讐は、嘘では終わらない。
その日の夜、私はテレビの前で固まったまま動けなくなっていた。
画面に映っていたのは、子供の頃から見知ったあの住職の顔だった。白い法衣をまとい、厳かな表情でカメラに向かってお経を唱えている。
背後には薄暗い部屋、テーブルの上に並ぶ古い写真、そして「除霊」の文字がテロップで流れている。
「これは極めて危険な写真です」
住職の声は、昔、私を正座させたときと同じ、低く抑えられた響きを持っていた。
子供の頃、私は何度もその住職の前で正座させられた。嘘をつくたび、容赦なく叱られた。
「嘘は罪である。心を曇らせるものだ」と、繰り返し言われた。あのときの痛みが、膝の奥にまだ残っているような気がした。
それが今、霊など存在しないはずのこの世で、あたかも本物の霊がそこにいるかのように、お経を唱え、手を合わせ、除霊を演じている。
息子がテレビ制作の仕事についているらしい。そのつてで「除霊の和尚」として急速に名を上げ、週に一度の心霊番組は高視聴率を記録し続けていた。
嘘で成り上がった男が、かつての私の嘘を叱った。その事実が、胸の奥で静かに、しかし確実に燃え上がった。私は復讐を決めた。
ネット上で拾った、無名の三人の写真を選んだ。自転車を停め、石碑の前で無邪気にピースをする若者たち。それをAIにかけ、心霊写真風に加工した。
三人の顔を覆うように、白く煙のようなものがたなびき、輪郭を曖昧に溶かしている。出来は上々だった。
新しいTwitterアカウントを作り、その写真を投稿した。フォロワーはゼロ。誰にも見られないことを承知の上で、ただ投稿日時だけを記録した。
そして放送の日が来た。住職は画面の中で、その写真を指し示した。
「AIで加工されているようですが…AIが拾ってきた霊が、本物である可能性が高い。この写真の三人を、呪い殺すほどの強い力が宿っている。
もし他に同じような写真が手元にあるなら、すぐに寺へ持ってきてください。こちらでお焚き上げいたしましょう。
これを作った者も、巻き込まれるでしょう」
「AI」という言葉を、あの住職が口にしたことに、私は少し驚いた。
だが、それ以上に、平気で大袈裟なことを言い放つ姿に、怒りが再燃した。私はすぐに、自分がダミー写真を送ったことを公表した。
投稿は瞬く間に拡散され、フォロワーと引用が爆発的に増えた。炎上の渦の中で、一つだけ、妙に気になるリプライがあった。
「お前、勝手に写真使っただろ!俺たちの許可取ったのか!写真の一人が、事故で死んだぞ!どうしてくれるんだ!」
私は無視した。
すると、その沈黙が火に油を注いだ。怒りが連鎖し、私の個人情報が次々と暴かれ、自宅が特定された。
ピンポンが、執拗に連打された。怒りに任せてドアを開けた瞬間、見知らぬ男が立っていた。手には光る刃物。
半狂乱の目で私を見据え、声を震わせている。
「お前! 他の写真出せよ!こっちは、呪われてんだよ…!」
男の腕が振り上げられた。刃が弧を描いて落ちてくる。その刹那、私は理解した。
住職が言った「巻き込まれます」という言葉が、冷たい現実として、私の目の前に立ちはだかっていたことを。
そして、今、刃が私の皮膚に触れる直前、ふと、三人の顔を覆っていた白い煙のようなものが、男の背後に薄く揺れているのを見た気がした。
――嘘は、罪である。
子供の頃、住職が繰り返した言葉が、血の匂いに混じって、耳の奥で響いた。
読んで頂き有り難う御座います。




