第9話 王都ルクス
森を抜けた瞬間。
リオは深くため息をついた。
「はぁぁぁ……」
エリナが横で首をかしげる。
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃない」
リオは頭を抱えた。
「勇者に追われるかもしれない」
指を一本立てる。
「魔王軍が勇者を追ってる」
二本目。
「その原因がたぶん俺」
三本目。
そして言った。
「この状況、普通に考えて詰んでるだろ」
リオは空を見上げた。
「……ほんと、なんでこうなった」
目の前には街道が伸びている。
そしてその先。
巨大な城壁が見えた。
白い石で築かれた、高い壁。
門の前には人の列ができている。
馬車。
商人。
旅人。
冒険者。
兵士が通行人を確認していた。
リオが小さく呟く。
「着いたな」
エリナが目を輝かせる。
「王都?」
「王都ルクス」
リオは城壁を見上げた。
「ルクス王国の首都」
「政治と商業の中心」
門をくぐる。
その瞬間。
世界が変わった。
市場の声。
鍛冶屋の音。
屋台の煙。
石畳の道。
三階建ての建物。
人、人、人。
リンドベルとは比べ物にならない人の数だった。
「……すげえ」
リオは周囲を見回す。
「これなら隠れられる」
エリナは嬉しそうに言った。
「リオ紛れそう」
「どうせモブ顔ですよ」
二人は通りを歩く。
そして王都の中央。
丘の上に見える巨大な城。
白い壁。
金色の屋根。
ルクス王城。
エリナがそれを見上げた。
「ねえ」
「ん?」
「この国って」
「王子いないんだよね?」
リオは頷く。
「後継者問題な」
ルクス王国。
王家には三人の王女がいる。
だが――
王子はいない。
つまり。
この国の王位は、
王女の結婚相手が継ぐことになる。
「政略結婚必須の国」
リオが言った。
エリナが聞く。
「第一王女は?」
「隣国の王子と結婚予定」
ほぼ決まりらしい。
隣国は軍事大国。
ルクスは商業国家。
同盟としては理想的だった。
「第二王女は?」
「国内の貴族派」
王国内の有力貴族と結婚するという話が出ている。
つまり。
王家は三つの勢力に分かれている。
隣国派。
貴族派。
そして――
エリナが言った。
「第三王女は?」
リオは少し考えた。
「……優秀らしい」
外交。
財政。
軍。
実務能力は王族で一番高いと言われている。
実際、国政のかなりの部分を担っている。
だが。
「立場は一番弱い」
リオは城を見る。
「政略結婚の予定がない」
エリナが首をかしげる。
「なんで?」
リオは答えた。
「結婚したら」
「国政が止まるから」
ルクス王国では、
王族自身が政治を動かしている。
つまり。
第三王女が嫁げば、
国政の実務を回す人間が消える。
エリナは少し笑った。
「便利な人だ」
「そう」
リオは肩をすくめた。
「優秀すぎて結婚できない」
「かわいそう」
「ほんとな」
遠くでラッパが鳴った。
騎士団の行列が通る。
王城へ向かう兵士たち。
王都は常に何かが動いている場所だった。
エリナが言った。
「なんか」
「すごいとこ来たね」
「ほんとな」
リオは頷く。
「でもここなら、しばらく隠れられる」
二人は宿屋に入った。
王都の宿は大きかった。
食堂は人で賑わっている。
リオはカウンターへ行く。
「部屋二つ」
主人が言う。
「銀貨二枚」
「はいよ」
鍵を受け取る。
廊下を歩く。
エリナが言った。
「別部屋なんだ」
リオは即答した。
「当たり前だ」
「なんで?」
「男女だから」
エリナは不思議そうだった。
「幼馴染だけど」
「それでもだ」
リオは扉を開ける。
「じゃあ」
「おやすみ」
「おやすみ」
扉を閉める。
リオはベッドに倒れ込んだ。
「はぁ……」
長い一日だった。
でも。
「……とりあえず」
ここなら安全だ。
人も多い。
図書館もある。
魔導書のことも調べられる。
「明日からだな」
そう呟き。
リオは眠った。
――朝。
リオは目を開けた。
窓から朝日が差し込んでいる。
「……」
ぼんやりする。
そのとき。
「おはよ」
声がした。
リオは固まった。
ゆっくり横を見る。
そこには同じベットに横たわるエリナがいる。
にこにこしている。
数秒沈黙。
そして。
リオは叫んだ。
「なんでいる!?」
エリナは首をかしげた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃない!!」
「なんで俺の部屋にいる!?」
エリナは平然と言った。
「さびしかった」
リオは天井を見上げた。
「部屋分けた意味……」
沈黙。
そして呟いた。
「……明日から、一部屋でいいか」
リオは頭を抱えた。




