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第4話 世界の違和感

村を出てから、しばらく歩いた。


街道から少し外れた細い道を、リオとエリナは並んで進んでいる。

足元では乾いた土が、さくさくと音を立てた。


村はもう、木々の向こうに隠れて見えない。


少しだけ風が吹いた。


「……ねえ、リオ」


エリナがぽつりと言った。


「ん?」


「なんで逃げたの?」


リオは一瞬、足を止めた。


「……え?」


「さっきの」


エリナは何でもないことのように続ける。


「魔物」


街道の近くに現れた魔物。

そして、勇者一行。


村では今頃、勇者の話で持ちきりになっているはずだ。


『勇者様が魔物を倒した!』


『さすが勇者様だ!』


『あのお方は魔王を倒すお方だからな!』


そんな声が、もう聞こえてきそうだった。


「……それが?」


リオが言うと、エリナは少し首をかしげた。


「普通さ」


「勇者が魔物倒したら」


「安心する場面じゃない?」


リオは黙る。


エリナは続けた。


「でもリオ」


「逃げたよね」


「……」


「勇者が来てるのに」


「なんで逃げたの?」


リオは答えられなかった。


エリナはさらに言う。


「それにさ」


「勇者一行に話しかけに行ったよね」


「……」


「普通の村人」


「勇者に話しかけないと思うんだけど」


エリナはリオの顔をじっと見た。


責めているわけではない。


ただ、純粋に不思議そうだった。


「なんかさ」


「変だなって思った」


リオは視線を逸らした。


確かに。


自分の行動はおかしかった。


勇者一行に近づいた。


話しかけた。


そして――逃げた。


「それでさ」


エリナが空を見上げながら言う。


「村の人たち」


「勇者が魔物倒したって言ってたね」


リオは黙る。


「でも」


エリナは肩をすくめた。


「なんか決めつけてない?」


「え?」


「勇者が倒したって」


「最初から決まってるみたいだった」


確かにそうだった。


誰も疑っていなかった。


魔物を倒したのは勇者。


それが当然。


それが世界のルール。


そんな顔をしていた。


「なんかさ」


エリナは言った。


「この世界、勇者に優しすぎない?」


リオは少し眉をひそめる。


「優しい?」


「うん」


エリナは指を折りながら言う。


「魔王が現れる」


「勇者が現れる」


「勇者が魔王を倒す」


「世界が平和になる」


そして少し笑った。


「なんかさ」


「物語みたいじゃない?」


リオは何も言えなかった。


勇者。


魔王。


世界を救う物語。


子どもの頃から何度も聞いてきた話だ。


疑うことなんて、一度もなかった。


「……でも」


リオは言う。


「それが普通なんじゃないのか?」


エリナはすぐに答えた。


「それ」


「みんな言うよね」


そして、リオの目を見る。


「普通って」


「誰が決めたの?」


その言葉に、リオの胸がわずかにざわついた。


そのとき。


エリナの視線が、リオの手元に向く。


「その魔導書」


「どうするの?」


リオは答えた。


「勇者に渡す」


それは当たり前のことだった。


賢者の魔導書。


勇者が魔王を倒すための力。


だから、自分はそれを勇者に渡す。


それが正しい。


「なんで?」


エリナが聞いた。


リオは少し戸惑う。


「え?」


「なんで勇者?」


リオは言葉を探す。


勇者が魔王を倒すために必要だから。


そう言おうとして――止まった。


なぜ?


誰に言われた?


村長?


違う。


本?


読んだ覚えはない。


なのに。


最初からそう思っていた。


この魔導書は、勇者に渡さなければならない。


「……あれ?」


リオは小さく呟いた。


エリナが首をかしげる。


「どうしたの?」


リオは魔導書を見下ろした。


古びた表紙。


重たい存在感。


なぜだろう。


誰にも言われていないのに。


なぜ自分は、


勇者に渡すべきだと思っていた?


まるで。


まるで――


誰かに決められていたかのように。


エリナはそんなリオを見て、


少しだけ楽しそうに笑った。


「……やっぱり」


「この世界、変だよ」

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