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第17話 王女の号令

アルトたちが西門へたどり着いたとき。


王都ルクスの西側は、すでに戦場になっていた。


空気が熱い。

血と土と煙の匂いが混ざっている。


門の外では、黒い影がうごめいていた。


魔物。

その数は、ひと目で分かるだけでも多すぎた。


ゴブリン。

狼型の魔獣。

角の生えた大型の魔物。

さらに、その後ろにもまだ群れがいる。


「……多いな」


ガルドが低く言った。


兵士たちは城壁の内側で防衛線を張り、必死に応戦していた。

槍を突き出し、剣を振るい、弓兵が後方から矢を放っている。


だが、押されていた。


一体一体は倒せる。

けれど、数が多すぎる。


次から次へと押し寄せてくる。


セシリアが目を細める。


「五百は超えています」


リーナが息を呑んだ。


「そんな……」


アルトは門の向こうを見た。


前線。

そのさらに奥。

群れの流れ。


「この数は……さすがにまずいですね」


勇者の声は静かだった。

だが、その表情は固い。


「このまま正面から削っても、押し切られます」


ガルドが巨大な剣を構える。


「なら、暴れて減らすしかねえだろ!」


「いえ」


アルトは首を振った。


「敵将がいるはずです」


セシリアがすぐに頷く。


「統率がある。ただの魔物の暴走ではありません」


群れは無秩序に見えて、崩れていない。

前へ出る魔物。

横から回り込む魔獣。

後方で控える大型種。


誰かが動かしている。


アルトは剣を抜いた。


「敵将を討たなければ、この波は止まりません」


その瞬間。


防衛線の一角が破られた。


「うわあああっ!」


兵士の叫び。

飛び込んできた狼型の魔獣が、一人を地面に叩き倒す。


「ガルド!」


「おう!」


ガルドが飛び出した。


大剣が横薙ぎに振るわれる。

鈍い音とともに、魔獣がまとめて吹き飛んだ。


「道開けろォ!」


咆哮のような声。


続いてリーナが前に出る。


「癒しの光よ!」


淡い光が広がり、倒れた兵士の傷を塞いでいく。

兵士が荒い息を吐きながら立ち上がった。


セシリアの杖が振られる。


「氷槍」


無数の氷の槍が空中に生まれ、前方の魔物へ突き刺さった。

黒い影がいくつも倒れる。


そしてアルトも踏み込む。


一閃。


最前列のゴブリンがまとめて崩れた。


さらに一歩。

もう一歩。


無駄がない。

迷いもない。


勇者一行は、一気に前線へ食い込んだ。


「さすが……!」


後方の兵士が思わず声を漏らす。


「勇者様だ!」


「いける!」


その声に押されるように、兵士たちも再び槍を構えた。


だが。


それでも、きりがなかった。


倒しても倒しても、次が来る。

空いた隙間を埋めるように、次の魔物が押し寄せてくる。


ガルドが舌打ちした。


「くそっ、減らねえ!」


セシリアも険しい顔になる。


「数で押し潰すつもりです」


アルトは剣を振るいながら、奥を見る。


群れの中心。

黒い流れの先。


どこかにいる。

この群れを率いる者が。


「前をこじ開けます!」


アルトが叫ぶ。


「敵将まで行きます!」


だが兵士たちは動けなかった。


目の前の魔物を抑えるので精一杯だ。

一歩前へ出れば、横から食われる。


そのときだった。


「兵士たち!」


澄んだ声が、戦場に響いた。


アルトが振り向く。


そこにいたのは――


フィリアだった。


第三王女。

戦場に立つはずのない少女が、兵士たちの後方に立っていた。


護衛を連れてはいる。

だが、隠れるような位置ではない。


まっすぐ前を見ていた。


「……王女様!?」


兵士の一人が目を見開く。


フィリアは一歩前へ出た。


その顔に怯えはなかった。


「勇者様が敵将を討たねば、この戦いは終わりません!」


戦場の音に負けない声だった。


「守りに固まるだけでは押し切られます!」


兵士たちが揺れる。

誰もが分かっていた。

だが、前へ出る恐怖もあった。


フィリアはさらに言う。


「兵士たちよ!」


その声が、ぴしりと空気を打った。


「勇者に道を作りなさい!」


兵士たちの目が変わる。


「敵将を討つのです!」


一瞬の静寂。


そして。


「おおおおっ!」


誰かが叫んだ。


槍兵が前へ出る。

盾兵が横へ広がる。

弓兵が一斉に射かける。


今までばらばらだった動きが、一つの意志で繋がった。


「勇者様を前へ!」


「左右を押さえろ!」


「道を開けろ!」


兵士たちが叫び合いながら前進する。


ガルドが笑った。


「やるじゃねえか、王女さん!」


セシリアも小さく息を吐く。


「これなら行けます」


アルトはフィリアを見た。


彼女は戦場の中央を見つめたまま、微動だにしない。


この場で何を言うべきか。

どう動かすべきか。


全部、分かっていたかのようだった。


アルトは剣を握り直す。


「行きます!」


兵士たちが左右の魔物を押さえる。

中央に、わずかな道ができる。


その道を。


勇者が駆けた。


ガルドが左を薙ぎ払う。

セシリアが右を凍らせる。

リーナの加護が背中を押す。


アルトは一直線に突き進んだ。


前方の群れの奥。

黒い波の中心。


そこに。


他の魔物とは違う、異様な威圧感があった。


巨大な影が、ゆっくりとこちらを見た。


アルトの目が鋭くなる。


「……いましたね」

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