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第15話 王女の確信

勇者の訪問から、翌日。


フィリアは窓の外を見ていた。


王都ルクスの街並み。

昼の喧騒が遠くから聞こえる。


商人の声。

馬車の車輪。

市場のざわめき。


平和な王都の音だった。


だが、フィリアの意識はそこにはなかった。


勇者アルト。


そして――

あの広場にいた少年。


「……リオ・カインズ」


小さく名前を呟く。


勇者が探している青年。


リンドベルで失踪した道具屋。


報告書の内容を、頭の中で一つずつ並べていく。


特徴は一致している。


黒髪。

細身。

本を持っていたという証言。


そして何より――


あの不自然な行動。


勇者の名を聞いた瞬間。

人混みの中で、ほんのわずかに後ろへ下がった。


まるで。


逃げるように。


フィリアは机の上の報告書へ視線を落とす。


リンドベル。


森の大爆発。


魔物の群れ壊滅。


勇者が到着する前に起きた出来事。


紙の端を指でなぞる。


記されている内容は、どれも異常だった。


魔物の群れ。

森の焼失。

異常な魔力の痕跡。


そして。


勇者の言葉。


「賢者の魔法の痕跡」


フィリアは小さく呟いた。


「もし」


「もし、あの魔法を使ったのが彼だとしたら」


ありえない話ではない。


むしろ。


状況だけを見れば、

その可能性は高い。


だが。


フィリアは目を細めた。


「……おかしい」


あの少年は、ただの道具屋だ。


剣士でもない。

魔導士でもない。


地方の小さな町で店を営んでいた青年。


そんな人物が。


なぜ。


魔物の群れを消し飛ばすほどの魔法を使える?


しかも。


勇者が驚くほどの魔法。


普通の魔導士では扱えない力。


「理屈が合わない」


フィリアは椅子に腰掛けた。


背もたれに身体を預け、目を閉じる。


考える。


仮説を立てる。


そして、矛盾を探す。


もし彼が魔法を使ったのだとしたら。


元々、極めて優秀な魔導士だった。


――いや。


であれば、軍が放っておくはずがない。


王国は優秀な魔導士を必ず把握する。

少なくとも、名前くらいは記録に残る。


だが、リオ・カインズの名はどこにもない。


あるいは。


強力な魔導具を持っていた。


――だが。


あれほどの力を持つ魔導具は存在しない。


少なくとも、王国の記録にはない。


いや。


魔導具の中でも、例外が一つある。


――賢者の魔導書。


フィリアの視線が止まった。


思考が、一本の線でつながる。


「……なるほど」


もし。


彼が賢者の魔導書を持っているのなら。


すべて説明がつく。


あの魔法。


森の焼失。


勇者が感じた魔力。


すべて。


そして。


勇者から逃げた理由も。


本来、あれは勇者のためのもの。


勇者に渡されるべきもの。


それを。


なぜ彼が持っている?


「……なぜ?」


フィリアは小さく息を吐いた。


わからない。


だが、この仮説であればすべてがつながる。


筋は通る。


しかし。


問題がある。


彼が今も王都にいる保証はない。


あの広場のあと。


すぐに王都を出ている可能性もある。


それに。


もし自分が探していると知れれば。


彼は確実に逃げる。


勇者から逃げていた。


そこには必ず理由がある。


警戒している。


誰かに見つかることを。


――そのときだった。


遠くから。


王都の警鐘が鳴った。


カン。


カン。


カン。


低く、重い音。


城壁の警鐘だった。


フィリアは顔を上げる。


警鐘。


それは。


王都に敵が現れた時の合図だった。


「……まさか」


窓の外で、兵士たちが動き出す。


城内の通路を走る影。


城壁へ向かう騎士団。


遠く。


城壁の方角。


煙が上がっていた。


フィリアは呟いた。


「魔王軍……?」

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