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AIが教える、最も効率的な地獄の歩き方  作者: 葉泪 秋
「胎動」

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31 噂

 刺客を倒した翌日、俺たちは宿で休んでいた。

 昨日の戦いで、全員が疲弊している。特に時雨さんと巌さんは、体中に擦り傷や打ち身がある。


「動くな」

 

 巴さんが時雨さんの腕に薬を塗っていた。


「大したことはない」

「大したことあります。傷口が開いたらどうするんですか」

「……」


 時雨さんが黙った。巴さんには逆らえないらしい。


「巌さんも後で診ますからね」

「ああ、頼む」


 巌さんが素直に頷いた。こっちは最初から従順だ。


「俺は?」


 楓が手を挙げた。


「楓は怪我してないでしょう」

「してるって。ほら、ここ」


 楓が膝を見せた。小さな擦り傷がある。


「……絆創膏で十分ですね」

「えー」

「巴さんの薬、貴重なんだから無駄遣いしないでよ」


 俺が言うと、楓が睨んできた。


「お前だって怪我してねぇだろ」

「俺は後方にいたからね」

「ずりぃ」

「ずるくないでしょ。役割分担だよ」

「絶対ずりぃ」

「どこが」

「後ろで見てるだけで褒められるとか、おいしすぎんだろ」

「見てるだけじゃないよ。指示出してたでしょ」

「口動かすだけじゃん」

「それが大事なんだよ。お前こそ蹴り一発で終わりだったじゃん」

「あの蹴りがなかったら負けてたんだぞ!」

「分かってるよ。だから褒めてるんでしょ」

「……は? 今の褒めてた?」

「褒めてたよ」

「全然そう聞こえなかったけど」

「お前の耳が悪いんじゃない?」

「お前の言い方が悪いんだろ?」


 巌さんが「まあまあ」と割って入った。

 

「いつまで喋ってんだ」

「仲が良いな。お前たち」

「「良くない」」


 時雨さんたちの指摘に、俺と楓の声が重なった。

 巴さんがくすくす笑っている。時雨さんはため息をついていた。


 昼過ぎ、俺は一人で町に出た。

 食料の買い出しだ。巴さんは時雨さんたちの治療で手が離せないし、楓は「面倒」と言って寝転がっている。どの時代にもこういう怠け者はいるんだな。

 市場を歩いていると、ふと声が聞こえた。


「──あの連中、知ってるか?」

「ああ、詐欺師を捕まえた奴らだろ?」


 足を止めた。

 声のする方を見ると、露店の前で男たちが話していた。


「それだけじゃねぇよ。なんか、色々やってるらしい」

「色々?」

「護衛とか、揉め事の仲裁とか。頭の良い若い奴がいて、そいつがなんでも先読みするんだと」

「先読み?」

「ああ。敵の動きとか、天気とか、なんでも分かるらしい。まるで未来が見えてるみたいだってよ」


 俺は思わず足を止めた。

 先読み。それは俺のことだ。いや、正確には先生のことだけど。


「すげぇな。どこの誰だ、そいつ」

「名前は……零、とかいったか」


 もう名前まで割れているのか。町中で会話する時は安易に名前を呼ばないほうがいいかもしれない。 


「零? 聞いたことねぇな」

「まだ若いらしいぜ。十五、六くらいの」

「ガキじゃねぇか」

「でも、腕利きの用心棒をを何人も連れているんだと。大男と、剣の達人と」


 時雨さんと厳さんのことだ。


「へぇ。そんな奴らがこの町にいんのか」

「ああ。最近はちょっとした有名人だよ」


 俺は静かにその場を離れた。


   ◆


 宿に戻ると、楓が起きていた。


「おせぇ。腹減ったよ」

「買ってきたよ」


 俺は食材を置いた。


「何かあったか? 顔が変だぞ」

「……そう?」

「なんか、考え込んでる顔」


 楓は意外と鋭い。


「町で俺たちの噂を聞いた」

「噂?」

「『先読みの零』だって」


 楓が芽を丸くした。


「なにそれ、かっこいいじゃん」

「かっこよくないよ。目立つってことだ」

「目立って何が悪いんだよ」

「敵にも知られるってことでしょ」


 時雨さんが口を開いた。いつの間にか起きていた。


「零の言う通りだ。名前が売れるのは、良いことばかりじゃない」

「でも、仕事は増えるんじゃねぇの?」

「増えるだろうな。だが、厄介事も増える」


 時雨さんが窓の外を見た。


「霧島も、白蓮も、俺たちの存在を知っている。名前が広まれば、向こうも動きやすくなる」


 部屋の空気が少し引き締まった。


「……でも」


 巌さんが言った。


「隠れて生きるのも限界がある。どうせなら、堂々としていた方がいい」

「巌さん……」

「俺たちは後ろめたいことをしてるわけじゃない。人を助けて、仕事をして、飯を食ってるだけだ」


 巌さんが俺を見た。


「名前が売れるのは、信用されてる証拠だ。悪いことじゃない」

「……そうですね」


 俺は少し考えて、頷いた。


「隠れてても、どうせ見つかる。なら、堂々としてた方がいいのかもしれない」

「お、やっと分かったか」


 楓が得意げに言った。


「お前は最初から何も考えてなかっただけでしょ」

「うるせぇ」


   ◆


 夕方、小春さんが宿を訪ねてきた。


「お久しぶりです。皆さん、お元気そうで」

「小春さん。何かあったんですか?」

「いえ、様子を見に来ただけでしょ。……あと、ちょっとした情報を」


 小春さんが声を潜めた。

 

「皆さんの噂、結構広まってますよ」

「さっき聞きました」

「あら、もうご存知でしたか。『先読みの零』、なかなか格好いい二つ名じゃないですか」

「勝手につけられたんですけど」

「二つ名なんて、大体そういうものですよ」

 

 小春さんが笑った。


「それで、本題なんですが」

「本題?」

「仕事の依頼が来てます。結構大きいやつ」


 小春さんが紙を取り出した。

 

「商隊の護衛です。報酬は銀貨五十枚。ただ、道中が少し危険でして」

「危険というと?」

「山賊が出るかもしれない道を通ります。それと……」


 小春さんが少し言い淀んだ。


「依頼主が、わざわざ皆さんを指名してきたんです」

「指名?」

「『先読みの零』と、その仲間たち、と。噂を聞いて、興味を持ったみたいですね」


 俺は時雨さんを見た。

 時雨さんは少し考えて言った。


「……受けるか」

「いいんですか?」

「金は必要だ。それに、断っても噂は消えない。なら、実績は積んだ方がいい」

 

 巌さんが頷いた。


「俺も賛成だ」

「わたしも」

 

 巴さんも頷く。

 楓がぶらっきらぼうに言う。


「俺も行く。暇だったし」

「……じゃあ、受けましょう」


 俺は小春さんに言った。

 

「詳しい話を聞かせてください」


 小春さんが嬉しそうに笑った。

 

「まいど。じゃあ、詳細をお伝えしますね」


 こうして、俺たちは次の仕事に向かうことになった。

 俺の実力には見合わない、重たい二つ名とともに。

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