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AIが教える、最も効率的な地獄の歩き方  作者: 葉泪 秋
「胎動」

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30/49

30 決着

 川のせせらぎが、やけに大きく聞こえた。

 対岸には逃げ場がない。俺たちも、あいつらも。

 ここで決着をつける。


「行くぞ」


 時雨さんが地を蹴った。

 同時に、厳さんが槍を構えて突進する。

 刺客の前衛が刀を抜いた。時雨さんの斬撃を受け止め、弾き返す。

 金属音が響き、火花が散る。

 速い。二人の剣戟は、俺の目では追いきれないほどだった。


「ふん、腕は落ちてないな」

「当たり前だ」


 時雨さんが斬りかかる。前衛が受ける。その横から、厳さんの槍が突き出された。

 前衛が身を捻って避ける。この反応速度、やはり只者ではない。

 でも、避けた先には時雨さんの刀があった。


「──っ」

 

 前衛が咄嗟に腕を上げて防いだ。袖が裂ける。鮮血が飛んだ。


「浅いか」

「舐めるな」


 前衛が反撃に転じる。鋭い突きが時雨さんを襲う。

 時雨さんは刀で逸らしたが、体勢を崩された。

 その瞬間──


『マスター。後衛が動きます。右斜め後方』

「時雨さん! 右後ろ!」


 俺が叫んだ。

 時雨さんが振り返る頃には、短刀が閃いていた。

 間に合わない──

 その瞬間、槍が割って入った。巌さんだ。

 短刀が槍の柄に弾かれる。後衛が舌打ちして距離を取った。


「助かった」

「気にするな」


 巌さんが槍を構え直した。

 前衛と後衛が並ぶ。二人の連携は、まだ崩せていない。

  

 戦況は膠着状態だった。

 時雨さんと厳さんが前衛を押す。でも、後衛が常に刺客を狙ってくる。

 攻めきれない。

 守りに回ると、じわじわと押される。


『このままでは消耗戦になります。時雨と巌の体力が先に尽きる可能性が高いです』

「分かってる」


 俺は必死に考えた。

 二人の連携を崩す方法。前衛が崩れれば、後衛は単独になる。

 でも、前衛は強い。時雨さんと厳さんの二人がかりでも、決定打が入らない。

 あの二人を崩すには、単純な力比べではダメだ。何かあいつらにとって「想定外」の事態を起こさなければいけない。

 なら──


「楓」

「おう」

「後衛の動きを見てろ。合図したら、全力で突っ込め」

「……何する気だよ」

「賭けだ。でも……やるしかない」


 楓は、俺の目力に負けて頷いた。

 俺は時雨さんに駆け寄る。


「時雨さん」

「何だ」

「わざと隙を作ってください、大振りで」


 一瞬の沈黙。時雨さんが俺を見た。その目が、何かを理解したように細まる。


「……分かった」


 時雨さんが構えを変えた。 

 大振りの斬撃。明らかに隙がある。

 前衛がそれを見切った。時雨さんの刀を弾き、体制を崩させる。

 同時に──絶好のチャンスと思った後衛が動き出す。

 時雨さんの背中に短刀が迫る。

 これを待っていた。


「楓、今だ!」


 楓が飛び出した。

 後衛の死角から、全速力で。

 後衛が気づいた時には、もう遅かった。


「な──」


 楓の蹴りが後衛の脇腹に入った。体が吹き飛ぶ。

 体勢が崩れた後衛に、厳さんの槍が突き出された。

 鈍い音。

 後衛が、地面に崩れ落ちた。


「──っ、貴様ら!!」


 前衛の顔が歪んだ。

 後衛が倒れ、連携が崩れた。

 一対二。いや、一対四。

 もう、勝ち目はない。


「終わりだ」


 時雨さんが刀を構えた。


「投降しろ。命だけは助けてやる」

「……ふん」


 前衛が笑った。血の混じった笑いだった。


「霧島の者が投稿? 笑わせるな。お前は霧島の誇りをもう忘れたのか?」

「お前が死んでも、影清様には伝わらない。無駄死にだ」

「無駄かどうかは、俺が決める」


 前衛が刀を構え直した。


「影清様に伝えろ。時雨は死んでいないと。そして──仲間を得たと」

「……何?」

「お前は変わった、時雨。昔のお前なら、一人で全部背負って死んでいた」


 前衛の目が、どこか遠くを見ていた。


「今のお前は、俺たちには殺せねぇよ」


 前衛が斬りかかった。

 最後の一撃。全力の。

 でもそれは、覚悟を決めたのではなく、諦めの特攻のように見えた。

 時雨さんの刀が、それを迎え撃った。

 交錯。

 一瞬の静寂。

 前衛の体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


「……結局、お前が勝つんだな……時雨……」


 それが、最後の言葉だった。


   ◆

 

 川の音だけが聞こえてくる。

 時雨さんが刀を納めた。その手が、微かに震えていた。

 

「……終わったか」


 俺は時雨さんの傍に歩み寄った。


「終わりましたね」

「……ああ」


 時雨さんは、倒れた前衛を見つめていた。


「こいつも、同期だった」

「そうだったんですか……」

「名前も知らない仲だったが、顔は覚えている」


 時雨さんが目を閉じた。


「また一人、俺が殺した」

「……」

「でも」


 時雨さんが顔を上げた。その目には、もう迷いはなかった。


「後悔はしない。あいつは俺を殺しに来た。俺は、生きることを選んだ。それだけだ」


 俺は頷いた。

 何も言えなかった。言う必要もなかった。

 

 巴さんが駆け寄ってきた。


「時雨様、お怪我は」

「大したことはない」

「でも、血が」

「かすり傷だ。後で見せる」


 時雨さんが俺たちを見回した。

 巌さん。楓。巴さん。そして、俺。


「……礼を言う」

 

 静かな声だった。


「いらないですよ、そんな」

「いや、言わせろ」


 時雨さんが俺の目を見た。


「お前たちがいなければ、俺は死んでいた。一人で抱え込んで、一人で戦って、一人で死んでいた」

「……」

「お前が言ったんだ。一人で背負うなと。仲間に頼れと」


 時雨さんはそう言うと、背中を向けて歩き出した。照れ隠しだろうか。


「……ありがとう」


 その言葉に、俺は何と返せばいいか分からなかった。

 だから、ただ頷いた。大きくて、だけどちょっぴり切ない背中に頷いた。


「うわ、おっさんが素直に礼言ってる。明日は雪だな」


 楓が茶化した。


「俺の気分次第でお前を殺すことだってできる」

「やってみろよ」

「まあまあ」


 巌さんがいつものように割って入る。

 巴さんがくすくす笑っていた。


 宿に戻る道すがら、俺は時雨さんに聞いた。


「これで、終わりですか」

「……いや」


 時雨さんが空を見上げた。


「影清様が、直接動くかもしれない」

「来ますかね」

「分からん。でも、あの人は執念深い」


 時雨さんが俺を見た。


「その時は──」

「一緒に戦いましょう」

 

 俺が先に言った。


「もう分かってるでしょ。俺たち、逃げませんよ」


 時雨さんが目を細めた。

 

「……気持ちはありがたいが、そんな真っ直ぐな信頼だけで、この世は成り立っているわけじゃない」


 時雨さんはまた歩き出した。

 どこまでも人間不信な人だ。

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