表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱世に異世界転移したけど、相棒の脳内AIのおかげでなんとかなりそうです  作者: 葉泪 秋
「生存」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/43

23 休息

 報酬が入った翌日、俺は提案した。

 

「少し贅沢しませんか」


 時雨さんが眉を上げた。


「贅沢?」

「はい。いい飯食って、温泉にでも入って」

「金は大事に使うもんだ」

「分かってます。でも、ずっと節約ばかりじゃ気が滅入りますよ」


 時雨さんが黙った。反論はしない。


「巴さんはどうですか?」

「わたしは、皆さんが良ければ……」

 

 遠慮がちな答え。でも、目が少し輝いている。


「たまにはいいじゃないですか、時雨さん」

「……好きにしろ」

 

 許可が出た。


 まずは飯だった。宿場町の外れに、評判の料理屋があると聞いた。小さな店だが、味は確からしい。


「いらっしゃい」


 通された座敷は、六畳ほどの小さな部屋だった。窓から夕陽が差し込んでいる。


「何にする?」

「おまかせで」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 女将さんが厨房に引っ込んだ。

 しばらくして、料理が運ばれてきた。焼き魚。煮物。漬物。味噌汁。それに、白い飯。

 どれも素朴だが、丁寧に作られているのが分かる。


「いただきます」


 箸をつけた。

 焼き魚を口にした瞬間、思わず声が出た。


「……うま」


 皮がぱりっと香ばしくて、身がふわっとほどける。塩加減も絶妙だ。

 

「本当ですね。美味しい……」


 巴さんも目を丸くしている。

 時雨さんは黙って食べていたが、箸の進みが早い。気に入ったらしい。


「煮物も美味い」

「あ、本当だ」


 大根と鶏肉の煮物。出汁がしっかり染みていて、噛むと旨味が広がる。


「時雨さんって食にこだわる方ですか?」

「別に。美味いもんは美味いと言ってるだけだ」

「そうですか」


 でも、さっきから料理の品定めをするような目をしている。こだわりがないとは思えない。


「時雨様は、お料理されるんですか?」


 巴さんが聞いた。


「……昔は少し」

「意外です」

「生きるためだ。腕が立っても、飯が作れなきゃ野垂れ死ぬ」


 時雨さんが味噌汁を啜った。


「一人で生きてきた時間が長いからな。嫌でも全部自分でやるしかなかった」

「……」


 さらっと言ったが、重い言葉だった。

 一人で生きてきた。この人は、ずっと一人だったのだ。


「今は三人ですね」


 巴さんが言った。


「だから、お料理はわたしがやりますよ。時雨様には休んでいただきたいです」

「……別に、疲れてはいない」

「でも、たまには誰かに作ってもらうのもいいものですよ」


 時雨さんが少し困ったような顔をした。慣れていないのだろう、こういうやり取りに。


「……まあ、任せる」

「はい!」


 巴さんが嬉しそうに笑った。


   ◆


 飯の後、温泉に向かった。

 この宿場町には、小さな湯治場がある。公衆浴場のようなものらしい。


「男湯と女湯、分かれてますね」

「当たり前だ」


 時雨さんに睨まれた。何も変なことは言ってない。


「じゃあ、後で待ち合わせで」


 巴さんが女湯の暖簾をくぐっていった。

 俺と時雨さんは男湯に入った。


 湯船に浸かる。

 熱い。でも、気持ちいい。

 体の芯まで温まっていく感覚。疲れが溶けていくようだった。


「……はあ」


 思わずため息が出た。

 隣で時雨さんも湯に浸かっている。目を閉じて、珍しくリラックスした表情をしていた。

 服を着ている時は分からなかったが、時雨さんの体には傷跡が多かった。背中、腕、脇腹。古いものから新しいものまで。

 聞いてはいけない気がして、目を逸らした。


「見たか」


 時雨さんが目を開けずに言った。


「……すみません」

「気にするな。隠してるわけじゃない」


 時雨さんが湯を掬って顔を洗った。


「戦ってきた証みたいなもんだ。格好いいとは思わんが」

「……時雨さんは、いつから戦ってるんですか」

「物心ついた頃にはもう刀を握ってた」


 小学生くらいの歳から、もう殺し合いの世界にいたということか。


「後悔はないですか」

「ない、と言えば嘘になる」


 時雨さんが天井を見上げた。湯気が立ち上っている。


「でも、後悔したところで過去は変わらん。なら、前だけ見て歩くしかないだろう」

「……」

「お前こそどうなんだ」

「俺?」

「後悔してるだろ。この世界に来たこと」


 図星だった。


「……してます。毎日」

「だろうな」

「でも、後悔しても仕方ないって。時雨さんに教わりました」


 時雨さんが少し目を丸くした。

 

「俺がそんなこと言ったか」

「言いました。前に」

「覚えてないな」

「俺は覚えてますよ」


 時雨さんが鼻で笑った。


「律儀な奴だな」

「よく言われます」

「嘘つけ」


 少しの沈黙。でも、気まずくはなかった。


「零」

「はい」

「お前、帰りたいんだろ。元の町に」

「……はい」

「……見つかるといいな。帰る方法」


 時雨さんは、それ以上何も言わなかった。

 どこから来たのか。元の場所とは何なのか。聞けば答えたかもしれない。でも、時雨さんは聞かなかった。

 その距離感が、ありがたかった。


「時雨さん」

「何だ」

「ありがとうございます」

「何がだ」

「色々と」

「……気持ち悪いな」


 時雨さんが立ち上がった。


「のぼせる前に出るぞ」

「はい」


   ◆


 湯から上がると、巴さんが待っていた。

 頬が上気して、どこか嬉しそうな顔をしている。


「お待たせしました」

「いいえ。──温泉、気持ちよかったです」

「ですね~」

「はい。こんなに広いお風呂、初めてで……」

 

 巴さんが少し照れたように笑った。


「はしゃいでしまいました」

「いいんじゃないですか。たまには」

「……ありがとうございます、レイ様」


 時雨さんも、どこか穏やかな顔をしている。普段の険しさが少し和らいでいた。


「帰りますか」

「ああ」


 三人で歩き出した。

 夜風が気持ちよかった。湯冷めしないよう、少し早足で。


 宿に戻ると、小春が待っていた。どうして客人が先に居るのだろうか。


「あれ、お風呂帰りですか。いいご身分ですね」

「たまにはいいでしょう」

「別に責めてませんよ。稼いだ金をどう使おうと自由ですし」


 小春が茶を啜った。勝手に俺たちの部屋でくつろいでいる。


「で、何の用ですか?」

「次の仕事の話」


 小春が懐から紙を取り出した。

 

「来週、護衛の依頼があります。結構大きめ」

「大きめって?」

「商隊の護衛です。日数は五日間、報酬は銀貨三十枚」


 銀貨三十枚。今までで一番の高額だ。


「何か裏があるんですか」

「鋭いですね。──まあ、ちょっとだけ」


 小春が肩をすくめた。


「道中、山賊が出るかもしれない区間を通るんですよ。だから護衛の数を増やしたい」

「俺たちだけじゃない?」

「ええ。他にも何組か雇います。──興味あります?」


 俺は時雨さんを見た。


「……悪くない条件だ」


 時雨さんが頷いた。


「受けるか」

「受けましょう」


 小春に向き直った。


「受けます」

「即決ですね。好きですよ、そういうの」


 小春が立ち上がった。


「詳細はまた連絡します。──あ、そうだ」

「はい?」

「他の護衛の中に、ちょっと変わった奴がいるんですよ。元・龍造寺の浪人らしくて」

「龍造寺?」

「ええ。追放されたとかなんとか。腕は立つらしいんですけど、無口で何考えてるかわからないって噂で」


 小春がにやりと笑った。


「まあ、仕事で会えば分かりますよ。じゃ、また」


 手を振って、小春が出ていった。

 元・龍造寺の浪人。

 何者だろう。


「気になるか」


 時雨さんが言った。


「少し」

「会えば分かる。今から考えても仕方がない」

「そうですね」


 名家の一員から浪人へ。時雨さんに通ずるものがあるので、俺は興味があった。

 強いのだろうか、気難しそうではあるが。

 

 

「また頑張らないと……」


 束の間の休息は終わり。また、日常が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ