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『生存確率0.02%』から始まる異世界転移 ~データなしのポンコツAIが相棒になったけど、強すぎる分析能力で戦乱の世を生き延びる~  作者: 葉泪 秋
「生存」

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15/21

15 三人 

「レイ様にお仕えすることが、わたしの使命でございます」


 巴さんが、俺の前に正座した。土砂降りの雨を背景に、まるで神殿で祈りを捧げる巫女のように。


「いや、だから……」

「この命、全てレイ様に捧げます」

「思いって……!」


 先生、何とか言ってやってくれ。


『彼女の信仰心は、論理的説明で覆る段階を超えています。何を言っても無駄でしょう。放置を推奨します』

「役に立たないな……」


 時雨さんが、雨音に紛れて小さくため息をついた。

 

「……懲りねぇな」


   ◆


 雨は半刻ほどで上がった。

 俺たちは再び歩き始め、日が暮れる頃に小さな宿場町に辿り着いた。

 宿を取り、久しぶりにまともな部屋で休むことができた。畳の匂いが懐かしい。この世界にも畳があることに、少し驚いた。


「さて……」


 時雨さんが、部屋の真ん中に座り込んだ。俺と巴さんも向かい合って座る。


「これからのことを話す」


 時雨さんの目が、いつも以上に真剣だった。


「俺たちは今、二つの厄介事を抱えている」

「二つ……」

「一つは白蓮。巴を追っている連中だ」


 巴さんの肩が、微かに震えた。


「もう一つは……」


 時雨さんが、一瞬だけ言葉を切った。


「霧島だ。俺を追っている」

「時雨さんも……追われてるんですか」

「ああ。懸賞首だ。額は知らんが、それなりにはかかっているだろう」


 さらりと言ったが、重い言葉だった。


「白蓮と霧島。どちらも六大名家の一角だ。正面からやり合えば、俺たちに勝ち目はない」

「……」

「だが、逃げ続けるにも限界がある。金がいる。力がいる。情報がいる」


 時雨さんは俺を見た。


「お前の力は、使える。橋の強度を見抜いた時も、野盗の待ち伏せを察知した時も、天気を呼んだ時も。普通じゃねぇ」

「それは……」

「詮索はしねぇ。だが、その力がある限り、俺たちは生き延びられる確率が上がる」


 時雨さんの言葉に、先生の声が重なった。


『マスター。時雨の分析は的確です。私の能力をチームで活用することで、生存確率は向上します』

「ドヤんなよ……」

「巴」


 時雨さんが、巴さんの方を向いた。


「お前にできることは何だ」

「わ、わたしですか……」


 巴さんは少し考えてから、おずおずと答えた。


「読み書きができます。白蓮の寺院で教わりました」

「他には」

「薬草の知識が少しあります。簡単な怪我の手当なら……」

「それから、白蓮の内情にも詳しいな」

「は、はい……」


 時雨さんが頷いた。


「……読み書きができる人間は貴重だ。薬草の知識も、この先役に立つ」


 巴さんの声が、少しだけ明るくなった。


「俺は戦う。お前らの命は、俺が守る」


 時雨さんが立ち上がった。


「だが、俺一人じゃ限界がある。零の目と、巴の知識。三人で補い合えば、生き残れる確率は上がる。零は状況判断は得意だが、世間のことを全く知らねぇしな」

「時雨さん……」

「勘違いするな。仲間ごっこがしたいわけじゃねぇ。利害が一致してるから組むだけだ」


 冷たい言葉。でも、その目は冷たくなかった。


「俺たちは……仲間、なんですかね」


 俺は思わず聞いていた。

 時雨さんは一瞬だけ黙り、それから肩をすくめた。


「さあな。仲間って言葉は、俺には重すぎる」

「……」

「ただの寄せ集めだ。生き延びるために集まった、はぐれ者の群れ。それでいいだろ」


 巴さんが、静かに口を開いた。


「わたしは……レイ様のお側にいられれば、それだけで十分です」

「だから、その呼び方はやめてほしいんですけど……」

「レイ様はレイ様です」


 聞いていなかった。


『マスター。参考までに申し上げますと、三人でチームを組んだ場合の生存確率は、単独行動時と比較して32%向上します』

「今言う必要あったかな、それ」

『合理的な判断を後押しするためです』

「言われなくても決めてるから」


 俺は二人を見た。

 時雨さんは無表情で、巴さんはキラキラした目で俺を見つめている。

 変な組み合わせだ。浪人と、元巫女と、異世界から来た高校生。

 でも、一人じゃない。

 それだけで、少しだけ心強かった。


「……よろしくお願いします」


 俺は頭を下げた。


「よろしくお願いいたします、レイ様、時雨様」

「……ああ」


 時雨さんは短く答えて、窓の外を見た。


「明日から仕事を探す。金がなきゃ始まらねぇからな」

「ですね」

「分かりました」


 夜が更けていく。

 窓の外には、雨上がりの星空が広がっていた。この世界の星座は、地球とは違う。見たこともない星々が、静かに瞬いている。

 俺は布団に横になりながら、天井を見つめた。

 母さん、俺、仲間ができたよ。

 仲間って呼んでいいのか分からないけど、一緒に歩いてくれる人ができた。

 まだ弱い。まだ何もできない。

 でも、もう一人じゃない。

 それだけで、生きていける気がした。

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