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 図書室は城の一番端にある。

 フラフラと箒と雑巾を片手に図書室へと向かった。

 途中廊下をすれ違う侍女や騎士の方々が私を見て噂をしているのが見えてますます精神的に疲労をする。

 噂の的になるのは人生で2回目だ。

 一度目は、馬鹿なトリスタンと婚約を破棄した時。

 二度目が現在だ。

 どちらも辛いが、今が一番辛すぎる。

 何の罪もないユリウス様を巻き込んでいるからだ。

 私のせいではないがなぜか罪の意識を感じてしまう。


 ため息をつきながら図書室ドアを開ける。

 図書室の中は誰もおらず、司書さえ不在だった。

 そもそも図書室は常に人が居る様子はない。

 はたきを持ちながら本棚へ向かう。


「聖女について何か書かれている本はないかしら……」


 自分が聖女だとは考えられないが、誰かがあのお菓子に細工をしたのなら聖女の力以外考えられないような気がする。

 聖女について何か知ることが出来るだろうかと書庫を眺めた。

 セラフィア帝国の本を数冊見つけ、その中に聖女について詳しく書いてありそうな本を手に取った。

 パラパラと捲り聖女について書かれている部分を読む。

 

「聖女は不思議な力を持つ。聖女が作った薬は通常以上の効力になることが多く、また薬のみならずお菓子などに聖女の力を入れることもできる。過去には、体力面のみならず精神面にも回復や気分の高揚があるお菓子を作ることが出来た聖女もおりその聖女は国を揺るがす大きな事件を解決した」


 国を揺るがす事件とは一体何なのだろうか。

 お菓子に聖女の力を入れることが出来るという部分を呼んで胸騒ぎがしてくる。

 ルーク様の言う通り、誰かが聖女の力をお菓子に入れユリウス様を可笑しくさせたのだろうか。

 癒したり、元気にさせたりという事が出来るらしいが人を操るような力なんてあるのだろうか。

 ユリウス様は精神的に可笑しくなっているが、本に書かれているようではない気がする。

 不安になりながらまた本を読み進めていく。


「過去に聖母と呼ばれる魔女が居たが、国を掌握をしようとしてたため勇気ある聖女と騎士のおかげで失脚することに成功させた。その後聖女そのものの存続が危ぶまれたが、聖女と騎士の活躍のおかげで聖女文化は守られた。ってこんな歴史はどうでもいいわね」


 私は本をパラパラと捲って何かヒントになりそうな項目を探す。

 

「やぁ、久しぶりだね」


 真剣に本を読んでいるのに大嫌いな男の声が聞こえて私は顔を顰めた。

 背後に立っていたのは二度と顔を見たくない元婚約者トリスタンだ。

 騎士服を着ている彼は仕事の途中で抜け出してきたのだろうか。

 剣も満足に使えないくせに、よく騎士をやめされられないものだ。


「お久しぶりです。もう私に近づかないでもらえますか?私たち無関係の赤の他人ですから」


 女好きのトリスタンが私と話していただけでまた妙な噂がたつに決まっている。

 冷たく言う私にトリスタンは気にした様子もなく爽やかな笑顔だ。

 一見したら人が良さそうな爽やかな美青年だが、少しばかり頭が悪く女癖と金遣いも荒い。

 私の婚約破棄以降、その事実が城の中に伝わり今では誰もトリスタンに振り向くものが居なくなった。

 居ても悪戯で付き合うろくでもない女性ばかりだ。

 そんなトリスタンも出来ちゃった結婚で伯爵令嬢と結婚できたのだからまんざらでもないのではないだろうか。

 家庭を持っても女遊びがやめられないトリスタンはもはや病気だ。


 彼と結婚しなくて良かったと再確認して私はさっさと図書室を出ようとトリスタンに背を向ける。

 

「ちょっと待ってよ。最近、ユリウス隊長にちょっかい出されているようじゃない」


「ちょっかい?」


 あなたじゃないんだからユリウス様はそんなことをしない。

 私は冷たい目を向ける。


「ユリウス隊長、顔はいいけれど愛想が無いだろう?やっぱり僕の方が良かったなって思いなおしているかなと思って」


「はぁ?」


 トリスタンのとんでもない言葉に最大級の声が出た。

 一体この男は何を言っているのだろうか。

 全く理解が出来ず私は眉を顰める。


「ほら、僕は顔もいいし優しいだろう?僕の方が好きになったかなって」


「一体何を言っているの?トリスタンの事なんて今まで一度も好意を持ったことが無いわよ」


「そんなわけないだろう。婚約していた頃から僕の事が好きだったくせに。君は相変わらず素直じゃないね」


 ウィンクをしながら言うトリスタンに拒否反応のあまり体が震える。

 

「親が決めた結婚だから仕方なく優しくしていただけよ。私、もうトリスタンと関わり合いたくないの。二度と話しかけないで」


 冷たく言うがトリスタンに伝わっていないようだ。

 トリスタンは微笑みながら私に近づいてくる。

 身の危険を感じて一歩下がり速足で図書室のドアへと向かった。

 これ以上トリスタンと話していても仕方がない。

 早く図書室から出ないと、ドアに手を掛けると後ろからトリスタンの手が伸びてきて阻止された。

 ドアが開かないように押さえつけられて私を見下ろしてくる。


「照れちゃって。顔は地味だけれど真面目に働くその姿はそそられるよね」


「やめてください」


 壁ドンをされている状態になり彼の腕から逃れようと頭を下げた時勢いよくドアが開かれた。

 開かないように押さえつけていたドアが開きトリスタンはバランスを崩してのけぞっている。

 その隙に私は廊下に飛び出した。

 飛び出した私の肩を大きな手が掴んで引き寄せられる。

 思わず悲鳴を上げそうになり、掴んでいる人を見上げるとユリウス様の青い瞳と目が合った。

 真剣な表情をしているユリウス様は一見普通に見えるが、私を見つめた後トリスタンを睨みつける。


「貴様、ミレイユに汚い手で触れるな」


 冷たく言いながらユリウス様はトリスタンの肩をどついた。

 少しの力なのにトリスタンはフラフラしている。

 トリスタンの情けない姿にユリウス様は鼻で笑った。


「訓練をしないから俺に肩を叩かれたぐらいでふらつくんだ」


「ユリウス隊長がバカ力なんですよ」


 トリスタンは騎士といってもコネと情けで入れてもらったようなものだ。

 真面目に訓練をするようなタイプでもなく何年たっても出世もせず末端の騎士のままだ。

 バカでも上司に敬語を使うことが出来るのかと少しだけトリスタンを見直す。


「あ、ユリウス隊長居ましたよー!」


 息を切らしながら駆けつけてきた騎士が私たちを見て大きな声を出した。

 すぐにルーク様と騎士団長達も集まってくる。

 

「突然飛び出して行くから何かと思ったら、ミレイユちゃんに危機が迫っていたんだね」


 ルーク様は穏やかに言うが、団長は気味が悪い目を向けてきた。


「離れているのにどうしてミレイユ嬢の危機が解るんだ?超能力?」


 ルーク様と団長は私の肩を抱いたままのユリウス様を面白そうに見て呟いている。

 騎士団の人達も集まってきてトリスタンは顔を真っ赤にしながらユリウス様を指さした。


「隊長に力強く肩を押されて痛めました」


 被害者の様な言い方をするトリスタンを団長は睨みつける。


「バカ者が!すべて見てたぞ、騎士なら肩を押されたぐらいで痛めたとか言うな鍛えろ!」


「俺は悪くないです」


 きっとサボっていたことを怒られると思ったのか言い訳を考えていそうなトリスタンに団長はまた睨みつけた。


「お前は訓練をさぼる事だけを考えやがって。今だって腹が痛いと医務室へ行く途中だったんだろう!腹はもう平気なのか?」


「あっ、痛くなってきたかもしれません」


 演技臭く言うトリスタンに団長は呆れた様子だ。

 

「しれませんってなんだ!お前嘘ばかりついて、いい加減にしろ!」


 怒鳴っている団長を横目で見ながら、ルーク様は肩をすくめた。


「ユリウスの妙な能力が俺は恐ろしいですよ。突然、ミレイユに危機が迫っているような気がするって詰め所を飛び出したんだから」


「えっ?そうなんですか?」


 驚いて聞くとユリウス様は真剣なまなざしで私を見ながら頷く。


「ミレイユに危機が迫ればすぐにわかる。俺はミレイユを守る騎士だから」


「騎士ってそいうもんじゃねぇよな。そんな第三の能力なんて聞いたことねぇよ」


 騎士団長の言葉に私とルーク様が頷いた。


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