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「いやー面白かったけれど、一体何が起こったの?」


 騎士団室で私とユリウス様は向かい合って座っている。

 ルーク様は机の上に腰を降ろして私たちをニヤニヤと眺めながら聞いて来た。

 私の隣に座っているジェナは首を傾げている。


「私たちが聞きたいわ。いつも通り、ミレイユとお菓子を作って差し入れただけよ」


「演習で頭を打った様子もなかったし、思い当たるのはお菓子ぐらいか……。ユリウスは何か思い当たることがある?」


 ルーク様が呟くように言うとユリウス様は落ち込んだように額に手を当てている。


「無い。一体俺はどうしてしまったんだ。クッキーを食べたら熱に浮かされたように意識がフワフワしてしまい、変な行動をしてしまった」


 先ほどの事を思い出したのか本格的に落ち込んでいるユリウス様を見てルーク様は笑いを堪えながら私を見た。


「ミレイユちゃんは思い当たることある?どういう風にお菓子作ってたの?」


「いつも通り普通ですよ」


 同僚のジェナに同意を求めると彼女も頷く。


「そう、いつも通りよ。こう、クッキーの生地を練りながら恋愛話をしていたわ」


「恋バナねぇ」


 ユリウス様は呟いてジェナを見る。


「一体どういう話?詳しく教えてよ」


「どういうって、”私は結婚しているけれどミレイユ、結婚は諦めているの?”って聞いたわね」


 ジェナに言われて私は頷く。


「それで私は、”そうね、あんなこともあったし。もうこりごりよ”って言いながら生地を練っていました」


「その後ミレイユが、”あぁ、でも誰か私を心から愛してくれる人が現れたら嬉しいわ”なんて言っていたからじゃない?変なこと言うから……」


 思い出したようにジェナに言われて私は顔を顰める。


「言ったけれど、それが原因なわけないじゃない。理想を言っただけよ私」


「うーん。まぁ、一番思い当たる節があるとすればクッキーなんだよね。あれを食べた後すぐにユリウスが立ち上がってミレイユちゃんの所に向かったからさ、何か入れたんじゃない?」


 ルーク様がニヤニヤ笑いながら私を見つめてくる。


「何も入れてません!ジェナ、見てたでしょ!」


 大きな声を出す私にジェナは頷いた。


「……確かに入れてないわ。私が証明するわ。もちろん私だって入れていないわよ」


 ルーク様は腕を組みながら私をじっと見つめる。


「うーん。ミレイユちゃん聖女だったりするのかな?」


 まさかのルーク様の言葉に私は目を見開いて否定をする。


「そんなわけないです!聖女ってセラフィア帝国にしかいませんよね?それにどうして私が聖女になるんですか?」


 聖女と言われている女性が居るのは知っているがお目にかかったことは無い。

 セラフィア帝国に居るという聖女は稀な存在のようで手厚く保護をされていると聞いたことがある。

 聖女とは、人を癒し、作物の豊作を願うとかで不作の時、他国に呼ばれて祈るらしいという知識しかない。


「聖女って不思議な力があるって言うからさ。セラフィア帝国の姫様も聖女なんだって。その姫様にずっとくっついている騎士が居るの知っている?」


 ルーク様に私は首を振る。


「知りません」


「その姫様の唯一の騎士らしいよ。なんか似ているなと思ってさ」


「どこが?」


 ジェナに聞かれてルーク様はにやりと笑う。


「聖女を守る騎士ってやつだよ。知らず知らず、ミレイユちゃんは聖女の力を発してお菓子を作った、それに反応したのがユリウスだったとか考えられない?」


 ジェナは冷たい視線を送って首を振った。


「ありえないと思うわよ。ミレイユが聖女ですって?そんな力があるのならとっくに発揮して侍女なんてしていないわよね」


 ジェナに言われて私は頷いた。


「そうですよ。今までそんな気配すらありませんでした」


「まぁ、いろいろ当たって調べてみるよ。ユリウスは一応医者に診てもらって」


 ルーク様が言うとユリウス様は頷く。


「そうだな」


 いつもと変わりない様子のユリウス様に私はほっとして息を吐いた。


「良かった。ユリウス様が元に戻って」


 ユリウス様は冷たい瞳で私を見ると頭を下げた。


「すまなかった。俺は少し可笑しくなっていたようだ」


「いえ、大丈夫ですよ。じゃ、この件は無かったことという事で」


 原因が分からないことにはユリウス様も被害者だ。

 可笑しくなったのは一瞬でよかった。

 安堵していると、ユリウス様の瞳が揺らいだ。


「無かったことだと?俺はミレイユのただ一人の騎士だろう」


 必死に言ってくるユリウス様に驚いて助けを求めるようにルーク様を見た。

 ルーク様は面白そうにニヤニヤ笑って様子を見ているだけで助けてくれようとしない。

 

「ミレイユ。俺を騎士から外すなんてことはしないでくれ」


「しませんよ!大丈夫です、私の騎士はユリウス様だけですから」


 引きつった笑みを浮かべて訂正する私にユリウス様は安心したように頷いた。


「俺以外ミレイユの騎士にはなれない」


「……だからミレイユに騎士なんて必要?一体何から守るの?」


 様子を見ていたジェナが小さく呟くとルーク様も頷いている。


「本当。俺、絶対にミレイユちゃんは聖女でそれを守る騎士だと思う」


「それが本当だったとして、ユリウス様が可笑しくなった理由が分からないわ」


 呆れているジェナに今度は私が大きく頷いた。


「私を守る意味も解りませんし」


 ユリウス様は眉を顰める。


「何が危険かは関係ない。俺がミレイユの騎士になり命を懸けて守ることが重要なんだ」


「やばいな。こんなに面白いユリウスが見られるなんて思わなかったよ」


 真剣な顔をしておかしなことを言うユリウス様を見て噴き出さないように耐えながらルーク様は小さく言った。

 ジェナは呆れて首を振っている。


「ユリウス様の迫力に笑えないわよ」

 

 なぜここまで必死に私の騎士になりたいのだろうか。

 私もジェナと同じく全く理解が出来ず、頷いた。

 ユリウス様は気が済んだのか元に戻ったようで机にうつ伏している。


「俺は一体どうしてしまったんだ……」


 低い声を出して項垂れているユリウス様にルーク様が笑みを浮かべて肩を叩いた。


「あっ、元に戻った?」


「すまない、俺はどうかしてしまったようだ。……医務室へ行く」


 ユリウス様は私に軽く頭を下げるとかなり落ち込んだ様子でフラフラと部屋を出て行った。

 ドアが閉まった途端ルーク様が大きな声で笑いだす。


「見た?ユリウス、落ち込んじゃって可哀想に!それに唯一の騎士になるなんて、そんなこと言うやつじゃないし!面白い!」


 腹を抱えて涙を流しながら笑っているルーク様をジェナは白い目で見つめる。


「同僚でしょ。良く笑えるわね」


「だからこそだよ。あいつ、そんなこと言うやつじゃないから面白い!」


 夫であるルークが大笑いをしているの呆れて見つめた後、ジェナは私を申し訳なさそうに見つめる。


「大変なことになったわね。きっと一晩寝ればユリウス様も元に戻っているわよ」


 慰めるように言われて私は頷いた。


「そう願いたいわ」



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