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「ユリウス!ミレイユちゃん!生きているか」


 何度か体を揺すられてゆっくりと目を開いた。

 落ちた衝撃で気を失っていたようだ。

 どんよりした曇り空の下で、心配そうな青白い顔をしたルーク様が見下ろしている。


「私、生きています?それとも死にそうなのかしら」


 横たわったまま呟くと、ルーク様は私の体を確認して首を振った。


「大丈夫、ミレイユちゃんは死なないよ。ユリウスが体を張って守ってくれたおかげだね。奇跡的に大怪我は免れているように見えるが、痛いところはあるかい?」


 優しくルーク様に言われて私は頷く。


「全身が痛いです。特に右足が痛いわ」


「足が赤くなっているね。大丈夫、大怪我はしていなさそうだ」


 妙に優しいいい方をするルーク様に私は不安になってくる。

 一緒に落ちたユリウス様はどんな状況なのだろうか。

 首を動かしてユリウス様を探す。

 一緒に落ちたのだから傍に居るはずなのに彼の姿が無い。


「ユリウス様は?彼は大丈夫ですか?」


 私が聞くとルーク様は無理やり微笑んだ。


「大丈夫だよ。治療のために少し君から離したよ」


 どこかぎこちないルーク様の様子に、不安になりユリウス様の姿を探す。

 少し離れた場所に騎士団の人達が集まっているのが見えた。

 大きな声を出して助けを求めているようだ。


「誰か早く医者をよこしてくれ」

「隊長が死んでしまう!どこに運べばいいんだ!」


 騎士団の人達が遠巻きに見ているザクレイド国の騎士に叫んでいる。

 彼らの慌てようを見て私はよろよろと起き上がった。


「ユリウス様……私を庇ったからだわ、怪我をしているのね」


「……」


 ルーク様は何も言わず私が起き上がるのを手伝ってくれる。

 右足が痛くてうまく歩けない私をルーク様は抱えてユリウス様へと運んでくれた。

 ユリウス様を囲み叫んでいた騎士団の人達はルーク様と私の為に場所を開けてくれた。


 涙を流している騎士団もちらほら見えて不安になる。

 ユリウス様がどんな状況か確認するのは恐ろしかったが、勇気を出して彼の姿を探す。

 横たわっているユリウス様の周りに大量の血が流れていてとても生きていると思えない状況だ。

 ぐったりと横たわっているユリウス様の顔は青白く、かろうじて息をしているのが見えた。

 微かに口が動いているが今にも死んでしまいそうな弱々しい様子に私の体が震えてくる。


 また会うことが出来たら好きだって伝えようと決心したところなのに。

 彼が死んでしまうかもしれないなんてあんまりだ。

 それも私を助けたせいだ。

 いろいろな想いがこみ上げてきて涙があふれ出てくる。

 

 これ以上ないぐらいの絶望感に体が震えて上手く声が出ない。

 ルーク様はゆっくりと私をユリウス様の傍に降ろしてくれた。


「ユリウス様、死なないで」


 毒を掛けられた時と違いユリウス様は私の声にも反応をしない。

 微かに息をしているが、意識もなくただただ血が溢れている。


「この血では助からないんじゃないか……」


 ユリウス様を覗き込んで様子を見ていた騎士団の一人が泣きながら言った。

 大量の血だまりのがユリウス様の周りにできてくる。

 確かにこのままでは助からないかもしれない。

 私も泣きながらユリウス様の胸に抱きついた。

 ユリウス様のぬくもりを感じてまだ死んでいないと確認をする。


「お願い死なないで。やっと会えたのに。こんなのあんまりよ」


 まだ暖かいから死んでいない。

 ユリウス様に抱き付ながら必死に手で彼の体を摩った。

 私を助けたせいでこんな大怪我をしてしまった。


 ユリウス様は私が必死に体をさすってもピクリともせず、横たわったままだ。

 顔色は青白くなっていき生気が無くなっていく。


「お願い!私の力を分けるから、命だってあげるから、ユリウス様を助けて」


 彼の温もりが失われるのが恐ろしくて必死に抱きしめてありったけの想いを込めて叫んだ。

 私に聖女の力があるのなら、もう一度だけ彼を助けてほしい。

 命なんていくらでもあげるから。


 彼の命が体から出て行かないように必死に抱きしめた。


 私の想いが通じたのか体の奥が熱くなり、少しの浮遊感。

 目を瞑っていても目が回る感覚がして私はますますユリウス様を抱きしめた。


 目を瞑っていてもわかるぐらいの眩しい光が広がったかと思うと、周りに居た騎士が声を上げる。


「光った!光ったぞ」

「聖女様が力を出したんだ!団長は助かるかもしれない!」


 眩暈は続いているが何とか目を開けるとユリウス様の空より青い綺麗な瞳が私を見つめていた。


「ユリウス様!」


 吐き気を我慢しながら何とか彼の名前を呼ぶ。

 不思議そうな顔をしてユリウス様はゆっくりと周りを見回して額に手を当てた。


「俺は生きているのか」


 かすれた声を出すユリウス様に周りを囲んでいた騎士団の人達が歓声を上げた。


「生き返ったんですよ!死にそうだったんだから!」


「体は、体は大丈夫なんですか!痛いところは?」


「大怪我をして死にそうだったんですよぉ」


 涙を流しながら口々に言う騎士団の人達の話を聞いてユリウス様は大きく息を吐いた。


「なるほど。理解した。あの高さから落ちて怪我をしていないわけが無いが……。どこも痛いところが無い、ただかなり疲労しているようだ」


 落ち着いて言うユリウス様にルーク様が近づいてきた。


「そりゃそうだろう。かなり血が流れたからな。本当に痛いところは無いのか?」


 ユリウス様の体を確認しながらルーク様が言うとユリウス様は頷く。


「不思議なことだがどこも痛くない」


 ユリウス様の答えにルーク様はホッとしたようだ。

 

「おい、周りを見てみろ!」


 騎士団の一人の言葉に私も吐き気を堪えながら視線を後ろに向けた。


 いつの間に生えたのか、草花が渓谷に広がっている。

 雑草すら生えていない石ばかりの大地に、青々とした草花が広がり、いつの間に咲いたのか色とりどりの花が冷たい風に揺れていた。


「空が晴れている……。奇跡だ」


 騎士団の後ろで私たちを見ていたザクレイドの騎士達が歓声を上げているのが聞こえてくる。

 

「奇跡だ。聖女の命を捧げなくても奇跡が起きた」


 青空を見上げて私は吐き気を堪えながら呟く。


「私がここで死んだら、二度と大地が蘇らないように呪いをかけてやったんだから」


 眩暈と吐き気を堪えている私の頬をユリウス様の大きな手が添えられた。


「俺より体調が悪そうに見える」


「気持ち悪い、吐きそう」


 吐き気を堪えながら言う私の頬を大きな手が撫でられる。

 ユリウス様の暖かい手を感じて私は目を閉じた。


「ユリウス様が生きていてよかった」


「ありがとう、ミレイユのおかげだ」


 優しいユリウス様の声を聞いて私はそのまま意識を失った。






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