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 マリアンヌ姫の笑い声を聞いて私とルーク様は顔を見合わせた。


「多分、ユリウスが廊下に居るんじゃないか?」


「まさか」


 ルーク様はそう言うが洗脳が解けた彼が居るはずない。

 それでも不安になりながら大きな声で笑っているマリアンヌ姫の元へ向かう。


 部屋を出ると爆笑しているマリアンヌ姫の先にユリウス様が立っていた。

 

「ユリウス様、どうされました?」


 本当にいると思わず、私が声を掛けると彼はばつの悪そうな顔をする。


「迎えに来た」


「私をですか?」


 本当に洗脳は解けているのかとじっとユリウス様を見つめる。

 変わった様子はない。


「大丈夫、俺はいま正常だ。ただ、ミレイユがザクレイド王国に狙われるかもしれないと聞いた。警護が必要だろう」


「……本当に洗脳が解けていると思います?」


 ルーク様に声をひそめて聞くと面白そうに肩をすくめる。


「さぁ。でも普通っぽいけどな」


 適当なルーク様の返答に私はムッとする。

 


「あの、大丈夫ですよ。城の中ですし安全だと思います」

 

 引きつった笑みを浮かべる私にユリウス様は無表情なままだ。


「トリスタンのような馬鹿がまだいる可能性がある。城の中も危険だ」


「はぁ」


 無表情なユリウス様はいつもと変わりなく見える。

 しかし、城の中なのに私を護衛するという行動に異様さを感じて助けを求めるようにルーク様に視線を送った。


「ユリウスの好きなようにさせれば?ちなみにミレイユちゃんはピンと来ていないだろうけれど、聖女が我が国から出たって城の中は大騒ぎしているから」


「えっ本当に?」


 また私の噂が出ているのかとうんざりしているとルーク様は満面の笑みを浮かべる。


「そりゃねぇ、聖女はいろいろ重宝されるからね。これから大変だと思うよ。ユリウスが自らの意志で騎士になってくれそうだから今は甘えておけば」


「はぁ」


 ルーク様に背中を押されて私はユリウス様の元へと歩く。


「あの、私なんて構わないでいいんですよ。お忙しいでしょう?」


「大丈夫だ。許可を取っている。今は、聖女第一に動いていいようになっている」


「聖女……」


 とうとうユリウス様の口から聖女という言葉が出てきて私は遠い目をする。

 私とユリウス様のやり取りを面白そうに見つめていた姫様は頷いた。


「そうよ。聖女は守られないといけないのよ。ちょうど護衛候補がいてよかったわね」


 笑いを堪えながら言う姫様に私は戸惑う。

 ユリウス様は多分私の作ったお菓子のせいで護衛騎士に立候補してきたのだろう。

 洗脳は解いたと言ってもきっと義務感から言っているに違いない。


「俺を存分に使ってくれて構わない」


 ユリウス様が無表情に言うとルーク様も面白そうに頷く。


「そうだよ。これだけ頼もしい護衛は居ないよ。騎士の中でも選ばれた者だけがなれる騎士団所属で、その上隊長クラスなんだからさぁ」



 みんなにそう言われて私は仕方なく頷いた。


「ありがとうございます」


「女子寮まで送って行こう」


 無表情ながらユリウス様はホッとした様子だ。



「よろしくお願いします」


 私が頭を下げるとユリウス様は微かに笑って頷いた。





 女子寮まで続く道をユリウス様と並んで歩く。

 庭園を通り、木々がうっそうと茂っており道は城の中と思えないほどだ。

 鳥の鳴き声を聞きながら私はそっとユリウス様を見上げた。


「あの、本当にご迷惑じゃないですか?」


「俺がやりたくてやっているだけだ」


 そっけなく返されて私は少しだけ項垂れる。

 やっぱりユリウス様はまだ洗脳が抜けていないのかもしれない。


「ユリウス様が可笑しくなったのは私のせいですよね」


「……俺の問題だ」


 渋い顔をして言うユリウス様だが、私を気遣って言ってくれているのだろう。

 

「私、聖女だなんて思っても見なくて。だって実家の産業であるワインはブドウが不作なんですよ。そのせいで家が大変ですし。私が聖女の訳が無いですよ」


 小さく言う私にユリウス様は渋い顔をしたまま小さく首を振った。


「俺の命を救ってくれたのは間違いなくミレイユだ」


 すっかりその出来事を忘れていた私はハッとする。

 

「あの、もしそのことで私を守ってくれているのなら気にしないでくださいね。そもそも私が変なお菓子を食べさせてしまったせいですし」


「何度も言うがミレイユのせいでない。俺の問題だ」


 きっぱりと言うユリウス様に私は仕方なく頷いた。


「今もその、聖女の力が働いているから仕方なく護衛にと言っているわけでないんですか?」


 私が聞くとユリウス様は頷く。


「……俺は今まともだ」


「そうですか」


 責任感からなのだろうと納得して頷いておく。

 これ以上この話をしても無駄な気がしたからだ。


「本当に嫌になったら言ってくださいね」


 私が念を押すように言うとユリウス様は軽く頷く。


「嫌になることは無いが、心に留めておこう」


 気づけば女子寮の前まで来ていた。

 特に襲われる心配なんて無さそうだ。


 私はユリウス様を見上げる。

 青い瞳と目があって息が苦しくなる。


 「お体はもう大丈夫ですか?」


 ドキドキしているのを気付かれないように平静を装って言うとユリウス様は少しだけ口元を和らげた。


「あの時は、死を覚悟したがお陰様で問題なく過ごしている」


「良かったです」


 聖女の力とは思いたくないが、ユリウス様を救うことが出来たのは良かった。

 

「ミレイユのおかげでこうして俺は元気に過ごすことが出来ている。ありがとう」


 ユリウス様に見つめられて私の胸はますますドキドキとして息がしずらくなってくる。


「そんな、当たり前の事ですよ」


「俺は聖女だからミレイユを守りたいわけでない。ミレイユだからだ。そこを忘れないでくれ」


 念を押すように言われて私の頭はパニックになる。

 まるで愛の告白のような言葉に私の顔が真っ赤になってくるのが解る。

 ドキドキしているのを悟られないように私は首を振った。


「いえそんな!あ、ありがとうございます?」


 何を言ったらいいか分からず思わず口走ってしまう私にユリウス様は珍しく笑っている。


「あの、送っていただきありがとうございました!」


 緊張とパニックでこれ以上何を話したらいいか分からずパニックになりながら頭を下げた。

 これ以上ユリウス様と一緒に居たら私は何を口走ってしまうか分からない。

 私はユリウス様が大好きですよと言ってしまいそうだ。


「明日も迎えに来る」


「明日って私何かありましたか?」


 聖女認定を受けたことで、侍女の仕事から外れたことは聞いたが自分の立場が分からない。


「マリアンヌ姫と面談の予定だ」


「えっ、そうなんですね。今さっきしましたけれど……」


「今後の詳しい予定を立てるそうだ。明日はもう少し人数を増やして計画を立てるようだ」


「あ、そういえば私は修行に行くんでしたっけ」


 他国に行くことを思い出して暗い気分になる。

 ユリウス様は無表情に頷いた。


「もちろん俺も護衛としていくつもりだ」


「へぇぇ?ユリウス様もですか?」


 驚きすぎて変な声を出す私にユリウス様はムッとしている。


「俺が一緒だと不満でも?」

「とんでもないです!大変光栄ですが、お仕事があるでしょう?私に気を使わなくてもいいんですよ」


 命を救われたからとか言う理由で私の護衛を申し出ているのなら申し訳ない。

 私が言うとユリウス様は不満そうに見下ろしてくる。


「気を使っているつもりは無い。俺の意志だ」


「はぁ、そうですか」


 ユリウス様の意志と言われてしまっては仕方ない。

 きっかけがきっかけだけに申し訳ない気持ちになる。


「もし俺がと一緒に居ることが嫌ならばはっきりと言ってくれて構わない」


 不満そうな顔で言うユリウス様に私は慌てて首を振った。


「不満なんてとんでもないです!ユリウス様と一緒に居るのは嬉しいですよ」


 思わず口走ってしまった言葉だがユリウス様は満足したように頷く。


「そうか。ではまた明日」


 微かに微笑んで去ってくユリウス様を見送って私はため息をついた。




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