12 聖女とは?
決闘事件から翌日、一晩じっくり休んだ私は何とか体調が良くなった。
一日、城の中の医務室で寝かされていたがその間は嘔吐と倦怠感が酷くすべての人の見舞いを断るぐらい体調不良だった。
それでも体力は戻らず仕事をしばらくお休みさせてもらった。
マリアンヌ姫との面談が控えているために寝ているわけもいかず身支度を整えて面会へと向かう。
姫様と面会予定の部屋は私がいつも掃除している豪華な方の部屋だ。
国の偉い人や国外からの来賓が来たときに使用する部屋に私が座っているという状況だ。
大きく長細い机の真ん中に私とルーク様が隣り合って座っている。
部屋の隅には侍女が待機しておりいつでもお茶が出せる状態だ。
まさか自分がもてなされる側になると緊張しながら座っていると隣のルーク様が声を掛けてきた。
「体調はどう?」
「まだ良くないです。気持ち悪さは無くなりましたけれど、体力が戻りません」
「そりゃそうだよね。死にそうな人を助けたんだから。いやーすごかったね。まだみんな話しているよ」
「本当に私が光ったんですか?」
気持ち悪かったことしか覚えていないが、疑問を持っている私にルーク様は頷いた。
「光ってたよ。全身がピカピカーって、目撃した人なんてみんな奇跡だって大騒ぎしていてさ、馬鹿なトリスタンの事なんて誰も気にしていないよ」
トリスタンのという名前を聞いて私も初めて思い出した。
「そういえばトリスタンはどうなりました?」
「今ゴタゴタしているから調査は後回しだけれど、ザクレイド王国から毒薬を買ったことは確認できたから今は牢屋にいるよ」
「処刑されますか?」
数年まえ似たような事件では輸入していた人物は処刑されていた。
トリスタンは大嫌いだが流石に処刑となると胸が痛む。
「さぁ、どうだろうね」
ルーク様はそう言うと肩をすくめた。
「ユリウス様はどうなりました?」
この場に居ないという事は今正気なのだろう。
彼の体調は大丈夫なのだろうか。
「全く問題ないよ。ぶっかけられた毒薬はやはり神経系の物で、死に至ることが殆どらしい。だが、聖女様の奇跡で毒を取り除くことが出来て今は元気だよ」
「よかった。……本当に私がやったんですか?」
自分にそんな能力があるとは思えない。
信じられないような気分でいると、ドアがノックされて騎士団の隊員が顔を出した。
「マリアンヌ姫様がお見えになりました」
私とルーク様が立ちあがると、満面の笑みを浮かべた絶世の美女マリアンヌ姫と後ろに灰色の隊服を着た騎士が部屋に入って来た。
机を挟んで私の前に来ると微笑みながら座った。
「どうぞ、お座りになられて」
「失礼します」
姫様が座ったのを確認して、私とルーク様も座る。
姫様付の騎士の青年は姫様の後ろに立ったままだ。
「初めまして。私はマリアンヌよ、一応聖女長をやっているわ。世界中を旅して聖女をスカウトしているのよ」
ニッコリと微笑む姫様に私は頷いた。
早口に話す姫様はまた口を開く。
「昨日は凄かったわね!癒しの力!ミレイユさんは間違いなく聖女です!」
「えっ?」
今日はいい天気ですねのような雰囲気で告げられて私は目を丸くした。
「いやいや、そんなことあります?」
狼狽えながら助けを求めるようにルーク様を見ると彼も頷いた。
「間違いないと思うよ」
「えぇぇ?私が聖女?今までそんなことなかったのに」
狼狽えながら言う私にマリアンヌ姫は微笑んだままだ。
「急に能力が出るタイプもいるのよ。というか、能力があっても気付いていないかったって感じかしらね」
「っていうことは、私のせいでユリウス様は可笑しくなったんですか?あのクッキーが原因?」
とんてもない事をしてしまったと狼狽える私にマリアンヌ姫は大きな笑い声をあげた。
「おほほほっ!あれは事故みたいなものだから気にする必要は無いわよ!ミレイユさんが作ったクッキーを食べて可笑しくなったのはたった一人ユリウス殿なんでしょう?原因はほとんどユリウス殿にあるのよぉ~」
大声で笑い続けるマリアンヌ姫を眉を潜めて見つめていた後ろの騎士が小さく首を振った。
「ミレイユ嬢が気にする必要は本当に無いと思いますよ。僕も似たような立場なので心が痛みます」
控えめに言う騎士に私は首を傾げる。
姫様を守る騎士という雰囲気だが、ただの騎士にしては距離が近い。
不思議そうにしている私に気づいて、マリアンヌ姫は後ろに立っている騎士を振り返る。
「彼は私専属騎士のカイルよ。聖女を守る騎士ってやつね」
「……その言葉と同じようなことをユリウス様が言っていました」
眩暈がしそうになりながら告げると、マリアンヌ姫は腹を抱えて笑い出した。
「それも聞いたわ!ユリウス様本人とも面会して色々話を聞いたんだけれど、彼も難儀よねぇー」
面白そうに笑うマリアンヌ姫を見つめて騎士カイルは痛ましい顔で首を振っている。
「ユリウス殿が可愛そうですよ。僕は彼の気持ちが手に取るようにわかります。あらがえない自分の本心と向き合うのは勇気がいりますよね」
カイル様はしみじみ言った。
「あの、私のせいですか?」
「原因は確かにミレイユ嬢ですが……。ほとんどの原因はユリウス殿にあると思います」
だんだんと声が小さくなってくるカイル様を見てマリアンヌ姫はまた大きな声で笑った。
笑っている姫様を見ながらルーク様が付け加えてくれる。
「まぁ、俺もそのあたりは聖女の秘密とかで教えてもらっていないんだけれど。ミレイユちゃんがきっかけだけれど、ユリウスもただの被害者じゃないらしいよ。確かに、騎士団の連中も俺もあのクッキーを食べたけれど、可笑しくなったのはユリウスだけだし」
私はますます不安になる。
私のせいであんなことになってしまったユリウス様にますます申し訳ない気持ちになってくる。
「あのユリウス様は大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ」
カラカラと笑う姫様を横目に見ながらカイル様は小さく言った。
「ユリウス殿はかなり強い暗示にかかっているので、それを姫様が解いたのですが……。よろしかったですか?」
「暗示?私がかけたということですか?」
意味が解らない私に、カイル様は申し訳なさそうに頷いた。
「聖女の作ったものを食べたことによって、その、少し正気を無くしてしまう事があるんです。あの様子だと、彼も仕事がままならないのではと思いまして」
言いにくそうなカイル様にマリアンヌ姫はまだ笑っている。
「聖女としての力が強いのも原因だけれど、全ての原因はユリウスにあるのよ」
面白そうに言うマリアンヌ姫にカイル様は首を振った。
「姫様それ以上は……」
「解っているわよ!私だってちゃんと人のプライバシーは守ります」
頬を膨らませている姫様がとても美しくて見とれてしまう。
「でも、ユリウス様をあんなにしてしまって。申し訳ないです」
「大丈夫よ。ユリウスはかなり落ち込んでいたけれど、自分が原因だって理解していたみたいだし」
ウフフっと笑っているマリアンヌ姫にルーク様はニヤリと笑った。
「なるほど。何となくわかったよ。確かに、ユリウスのせいだな。ところで、姫様と騎士殿はいつもご一緒なんですか?」
「そうね。だって私を守る専属騎士ですもの」
きっぱりと言うマリアンヌ姫にルーク様はますますニヤニヤと笑う。
「なるほど。それは、騎士殿が立候補したんですか?」
「そうよ」
マリアンヌ姫も面白そうにニヤニヤと笑っている。
まるで私とユリウス様のようで胸が痛んでこれ以上聞くのが辛い。
カイル様も苦痛の表情を浮かべている。
「姫様、この話は……」
「カイルが嫌がるからこの話はこれでお終いでいいかしら」
マリアンヌ姫が笑いを堪えながら言うとルーク様は頷いた。
「もちろんですよ。ユリウスがどういう状況かだいたい理解できましたので」
「それは良かったわ」
二人はニヤニヤと笑っているが私にはさっぱり理解が出来ない。




