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忠誠を誓われる!1

「ミレイユ・レーヴェルト。俺を貴方の専属騎士に任命してくれ。命を懸けて守ると誓おう」


 美形の騎士ユリウス・ヴァレンティアが私の前で跪いて見上げている。

 ルミナリア王国の王都、その城が私の働いている場所だ。

 侍女として没落しそうな実家にわずかな給金を入れて身を粉にして働いている私の前に美形の騎士が跪いているのだ。

 一体何が起こっているのだろうか。

 掃除道具を手にしている私は助けを求めるように周りを見回した。

 ユリウス様の騎士仲間は目を丸くして見ていたが数秒後ニヤニヤと笑って見ているだけで助けてくれようとしない。

 侍女仲間のジェナも面白そうに見ているだけだ。


 目の前の騎士は私の右手を取ると指先に軽く唇を落とした。


「どうか俺にあなたの騎士として任命してくれ。ミレイユ」


「ひぃぃ!どうしたんですか!ユリウス様!頭おかしくなったんですか!」


 どんな時でも冷静で冷たい男と言われているユリウス様。

 漆黒の毛に冷たい水色の瞳は私を見上げて心なしか熱を帯びているように見える。

 まるで私に恋をしていて結婚を申し込んでいるようではないか。


 こんなユリウス様は見た事が無い。

 25歳の大人の色気を醸し出しているユリウス様は興味が無かった私でも心が揺らいでしまう。

 彼に熱を上げている侍女もいたが、愛想の欠片もないユリウス様の事は私は興味が無かった。

 それなのに今私の前に居るユリウス様は私しか見えていないようだ。

 こんな風に男性に乞われたら胸がときめいてくる。


「頭が可笑しいなんて失礼だ、騎士に任命してほしいだけだ。俺は命を懸けて守るからどうか頷いてくれ、ミレイユ」


「いやいや、何から守るんですか!?私は普通の没落しそうな家の娘ですよ。ほら、ほら、見た目も普通なのにユリウス様なにか変なものでも食べました?」


 自分で言っていて悲しくなってくるが、特別美人なわけでも家が裕福なわけでもない普通の女だ。

 数年続いた不作のおかげで家が貧乏になったので、親同士が決めた結婚が数年前に無くなった悲しい過去がある。

 どうして騎士に任命してほしいなど言われるのだろうか。


 戸惑っている私にジェナが思い出したように手を叩いた。


「変なものじゃないけれど、私たちが差し入れたクッキーを食べたわよね?」


「あっ!まさか!それがユリウス様を可笑しくしたの?ジェナ、何か入れた?」


 ジェナと二人で作ったお菓子はよく騎士団に差し入れをしている。

 今回だけ特別なわけでもなく日常の事だ。

 変なものを入れた覚えなど無いが一応ジェナに聞いてみる。


「入れていないわよ!」


 ユリウス様の仲間の騎士団に見られてジェナは手をブンブン振って否定した。

 ジェナの夫であるルーク様が跪いたままのユリウス様を面白そうに指をさした。


「ねぇ、ユリウスが可哀想だから騎士に任命してあげたら?」


「いやいや、無理ですって。任命したらどうなるんですか?」


 不安な顔をしている私にルーク様は面白そうに笑っている。


「元に戻るかもしれないよ?」


 ルーク様とユリウス様は騎士団の同期で二人の中も良い。

 

「ミレイユ、どうか俺を貴方の唯一の騎士に任命してくれ」


 うわ言のように同じことを繰り返すユリウス様。

 同じ事しか言わないユリウス様はやはりどこかおかしい。

 困り果てている私にルーク様はニヤニヤ笑いながらもユリウス様の肩を叩く。


「ほら、ミレイユちゃんが困っているよ。諦めたら?」


「嫌だ。ミレイユが頷くまで俺はこの場を動かない」


 ルーク様は私の右手を掴んだままはっきりと言った。

 私は首を振ってルーク様に助けを求める。


「嘘でしょ。助けてくださいよ」


「ユリウスは本気みたいだから、頷いておいたら?専属騎士っていっても何から守るのか不明だし、それでユリウスの気が済めば手を離してくれるんじゃない?」


 ニヤニヤ笑って言うルーク様の横でジェナも面白そうに頷いている。


「そう、そう。頷きなさいよ」


 面白いからというジェナの心の声が聞こえて来て私は二人を見つめた。


「夫婦で楽しそうに見ていないで助けて」


「ミレイユ。俺を見てくれ。他の男を見るな」


「ひぃぃ、なんてこと言っているんです?」


 まるで恋人が嫉妬しているようなユリウス様の言葉に私は悲鳴を上げた。

 

「頼む。俺をミレイユの専属騎士に任命してくれ」


 私たちの周りに人が集まり始めてしまいこれ以上見世物になるのは困る。

 私は仕方なく頷いた。


「わかりました!任命しますから!手を離してください」


「そんないい方は嫌だ。俺の目を見つめて、ちゃんと言ってくれ」


 熱に浮かされたようにユリウス様に見つめられて私は顔が赤くなる。

 美しい男性に懇願されたらときめかない女性は居ないだろう。

 心臓が高鳴りながらも私は平静を装って頷く。


「わ、わかりました。私の騎士に任命します」


 ユリウス様の青い瞳を見つめて私は宣言した。


「ありがとう。命を懸けてお守りします。俺の大切な人」


 ユリウス様は蕩けるような笑みを浮かべると私の右手の平に唇を落とした。


「ひぃぃぃぃ」


 私は悲鳴を上げ、見物していた女性たちも黄色い悲鳴を上げた。


「素敵!ユリウス様が笑った所初めて見たわ!」


 騎士団の人達も面白そうに拍手をしてくれる。


「よかったなぁ。隊長は騎士の誓いなんてするやつじゃなかっただろう?」


「っていうか一体何から守るんだよ。ミレイユ嬢はただの侍女だろ?」


 ルーク様は面白そうに手を叩きながら私たちに近づいてくる。


「いやー面白かったよ。ユリウス、良かったな!」


 ルーク様は未だ跪いて顔を伏せているユリウス様の肩を叩いた。


「……最悪だ」


 地を這うような低い声がユリウス様から聞こえる。


「ん?どうした?」


 ルーク様は笑ったままユリウス様を覗き込んだ。


「最悪だ。俺は一体何をしているんだ?何をしたんだ?」


 顔を伏せたままユリウス様が低い声で言った。


「あれ?元に戻ったみたい」


「よ、よかった。ユリウス様、元に戻りました?」


 私が聞くとユリウス様はゆっくりと頷いた。


「俺は最悪の事をしたようだ。すまなかった」


 顔を上げず言うユリウス様に、私はとんでもないと首を振る。


「大丈夫ですよ!きっと食べたものが悪かったのか、演習で頭でも打ったんですよね?気にしていませんから!じゃ、この件はなかったことに」


 しましょうと言う前に私の手をユリウス様が掴んだ。


「無かったことだと?俺はミレイユの騎士だろう?さっき誓ったじゃないか!」


「えぇぇぇっ」


 ユリウス様は立ち上がって真剣な顔で私を見下ろす。

 怒っているような様子に私は戸惑いながら首を振った。


「ち、誓いました。大丈夫、私の騎士ですよ」


 あまりの迫力に、ホホホっと乾いた笑いをうかべながら言うとユリウス様は安心したように微笑んだ。


「そうだろう。俺以外ミレイユの騎士は務まらない」


「だから一体何から守るんだ?」


 見物していた騎士の人達が突っ込むがユリウス様には聞こえていないようだ。

 先ほどまで微笑んでいたユリウス様はまた顔を伏せて地の這うような低い声を出した。


「俺は一体何をしているんだ……」


 本格的に落ち込んでいる様子のユリウス様の肩をルーク様が叩いた。


「俺が聞きたいよ。大丈夫か?情緒不安定な様子で心配だな。いったん騎士団室へ行って少し休もうか」


 優しくユリウス様の肩を叩いて同情するような声を出しているが顔が笑っている。

 面白くて仕方ないという顔をしながらルーク様は私とジェナを振り返った。


「もちろん、君たちも来てもらうよ。これ、報告しないとまずいでしょ」


「ですよね」


 私とジェナは顔を見合わせて頷いた。


 

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